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正体を見た雪女と、助けた鶴が家の前でブッキングしてしまった
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「見たわね!?」
「あわわわわわ」
男は雪山の小屋の中で雪女を見てしまった。雪女は正体を見たものを殺さなくてはならない掟なのだ。
雪女は男に近づいて男の唇に死の息を吹き込もうとしたが動きを止めた。
「……お前はまだ若い。私のことを誰にも言わないのなら生かしておいてやろう」
「ほ、本当でございますか? もちろん誰にも言いません!」
男は許されて取るものも取らず、山を駆け降り家に帰るその道中であった。
「こーう……」
なんとも物悲しい悲痛な声に辺りを見回すと、果たして鶴が罠にかかっているではないか。
「かわいそうに……」
男は罠を外してやると、鶴は名残惜しそうに男の頭の上を旋回してから山を目指して飛んでいってしまった。
◇
その晩である。男は囲炉裏を前にして暖まりながら、今日の出来事を思い出していた。
恐ろしいが美しい雪女と、可愛らしい鶴。
思いを巡らしていると、外が急に騒々しい。
「なんだよお前は!」
「お前こそ誰だよ!」
「ウチはこの家に用事があんだよ」
「アタシだってそうだし」
「ふざけんな、帰れや」
「お前こそ帰れ」
「ダメだコイツ。話しになんねー。こっちはねぇ、この家の人にお嫁さんにしてもらいに来たの。お前なんてお呼びじゃねーつの!」
「はぁ? こっちもそうだし。さらに恩返しに来たんだけど?」
「やるかよテメー! よお!」
「やらねーよ、バカ」
すると、ダンダンダンと入り口の引き戸が叩かれる音である。
「こんな夜更けに誰だろう?」
男は立ち上がってそちらに向かうも声はますます激しくなる。
「オイやめろ。勝手にドア叩くな!」
「うるせー! アタシが最初に来てたんだし」
「お前、もう帰れし!」
「はあ? 意味分かんないんですけど?」
男が引き戸を開けると、同じような白い薄着の女の子である。年の頃は十七、八でどちらも絶世の美女であった。
その美女たちが取っ組み合いのケンカをしている。
こんなキレイで可愛らしい女の子たちがと動揺した。
「ど、どなたですかな?」
すると女の子たちは髪型を直して男に近づいてくる。
「あ、ユキでーす」
「初めまして。つうでーす」
「お前、言い方キャバクラ! 勝手に名乗んなし」
「おめえもな!」
「彼はウチに聞いたんだよ!」
「勘違いすんなブスが!」
またもやバチバチだ。男は困ってしまった。
「あのう。なぜケンカをなさいます。お二人は一体?」
ユキという女性は着物を肩まではだけて胸寄せをして上目遣いで答えた。
「あのう。私は旅の途中で。道に迷って難儀しておりますところに、この家の灯りが見えまして。悪いと思いながらもこうして戸を叩いたしだいです。土間でも軒下でも良いので、一夜の宿を借りれませんでしょうか?」
「うわー。ぶりっ子。キショーい」
「なんだとテメー!」
「やんのか、かかってこいコラ!」
男はこのままでは物語が進行できないと慌てて止めた。
「まあまあ、そちらのかたは?」
つうと名乗る女性は慌てて身なりを整えた。着物かと思ったらスリットが入っており、美しい太ももを出して男の股の間に挟み込む。さらに男の首に手を回し、顔を近づけて懇願してきた。とてもいい匂いがした。
「あのう。私は旅のもので、道に迷いここにたどり着きました。どうか一夜の宿をお借りしたいと思いまして……」
「はあ? 真似すんなし!」
「真似なんてしてねーよ! クソが!」
「お前はもう鶴になって帰れ!」
「お前こそ雪山に帰れや!」
身バレぎりぎりの会話に辟易しつつ、男は二人を迎え入れ、囲炉裏に誘うもののユキは囲炉裏に近づかない。
「どうなさいました? 寒いでしょう。どうぞ囲炉裏に寄って火に暖まりください」
それにユキは答える。
「あのう。私は暑がりでして、ここで充分でございます」
「火にあたると溶けちゃうから。溶けちゃうからねー」
「うるっせぇ! テメー!」
「やんのかブス! コラ!」
「テメーのほうがブスだろ! 鳥みてーな顔しやがって!」
「はあ? 真っ白なオバケみたいな顔してるヤツに言われたくないんですけど? あー、オバケみたいじゃないか。オバケだったか」
「テメーふざけんな!」
「やってやるよコンチクショオー!」
土間に降りて組ついたので、男は慌てて二人を離した。それでも二人は掴みあおうとするので、男は疲れてしまった。
「もう寝てもよろしいか?」
「あ。添い寝しまーす」
「ふざけんなコラ! 軒下か土間で寝ろや!」
「うるせー! さっさと機織りしろよ!」
「あ。そうだった!」
つうという女性は、男の前に三つ指をついた。
「本日のお礼に」
「機織りをしたいと思いますう」
「はあ? テメー! 人のセリフ言うなし!」
「いいから織れよ早く。その間にこっちはヨロシクやるから」
「やんじゃねー! このオカチメンコ!」
「なんだこのドグサレ女!」
わーきゃー、わーきゃーの声に男は耐えられなくなったが、またもや二人の間に割って入った。
「まぁまぁ。ところでつうさん。機織りとは?」
「ああ私、得意なんですよ機織り。一疋の織物は十両の価値はあります。この女と違ってお金を生み出せるんです」
「へーすごいですね」
「では早速織りますね!」
つうは可愛らしい声を出して機織りの部屋に入ろうとしたが、そこで振り返った。
「あ。ごめんなさい。部屋は絶対覗かないでくださいね」
「あ。分かりました」
つうが部屋に入って機織りの音をたて始めると、ユキはすぐに男を誘惑したが、先ほどの攻防でお腹いっぱいだったので男は拒否した。
ユキは悔しがったが立ち上がり、そろそろとつうのいる部屋の障子に手を掛けた。
男は声を潜めて咎める。
「あ。ユキさん。開けてはなりません」
「あん。手が滑っちゃったあ~」
との声と同時に戸を開いてしまった。その部屋の中には鶴がおり、おのれの羽を抜いては機織りにかけ、反物を編み込んでいるところだったが、戸を開かれたことで完全に固まってしまった。
「きゃ~、なんか鶴が機織りしてるう~、そんでつうさんがいない。ひょっとしてこの鶴がつうさん?」
つうはすぐさま人間の姿に戻り、真っ赤な顔してユキに掴みかかった。
「テメー! ◯してやる!」
「うるせー! 正体バレたんだからさっさと出てけ!」
「誰が出ていくかコノヤロー!」
「みなさーん。つうの正体は鶴なんですよー!」
「うるせー! お前なんて雪女のクセに!」
「あ……。お前……。マジ……。言ったな? こっちはバレてねーのに。勝手に言ったな?」
「わー。泣くの? きーもい。性格悪いし、キモいし、アタシだったら帰るね。これは」
「てめーわ、絶対◯す!」
またもやバタバタと土間で暴れる二人。男は顔を背けて寝ることにした。
「とどめだ! 皇鶴拳奥義決死妖觜!!」
「なにをこしゃくな、究極猛吹雪呪文!!」
激しい必殺技のぶつかり合い。お互いに技の粋をぶつけ合い、土間に倒れ込んでしまった。
「なかなかやるわね」
「そっちこそ」
「あんたはこのウチが認めた唯一の女よ」
「フッ。別に嬉しくねーし」
二人は互いに見つめ合い、拳を突き出して軽くぶつけ合う。
「こうなったら彼に決めてもらう?」
「うん。それがいいね」
二人は互いの身を起こし合い、すでに寝ている男に近付いて、揺り起こした。
「え? え?」
男は眠け眼で、傷だらけの二人を見ると、二人は同時に利き手を差し出した。
「えーと、初めてあったときからずっと好きでした! よかったらお付き合いしてください!」
「先輩、入学してからずっと先輩のこと見てました! 第二ボタンください!」
男は突然のことに頭が追い付かず、呆然と見ていたが口を開いた。
「え? お二人、旅人ですよね? まだお二人をよく知らない……、いえ喧嘩っ早いのは分かりましたがそれだけです。お二人のお気持ちはそういうことなのでしょうが、ごめんなさい。お気持ちに応えられません」
「「お願いします!!」」
「いえ、あのー……。好きな人いるんで……」
その言葉に二人とも顔を上げた。目には涙を溜めて……。
肩をおとした二人は、お互いの肩を支えながら出ていったのだ。
外は吹雪だったが妖怪な二人には関係ない。つうは胸元からタバコを出して空に向かって煙を吐き出した。
「……もう泣くのは止めなよ」
「……だって、だって……」
「……好きだったんだねぇ」
「……うん。でももういいや」
「男なんて」
「うん」
「人をその気にさせるだけさせやがってさ」
つうの笑顔がユキのほうに向く。ユキもそれに笑い掛けた。
「飲みにいく?」
「いいね」
「今夜は飲むぞー!」
「おー!」
二人はフラれたが、友情は生まれたようである。
大空に輝く星たちのまたたきは、その友情を讃えるようであった。
「あわわわわわ」
男は雪山の小屋の中で雪女を見てしまった。雪女は正体を見たものを殺さなくてはならない掟なのだ。
雪女は男に近づいて男の唇に死の息を吹き込もうとしたが動きを止めた。
「……お前はまだ若い。私のことを誰にも言わないのなら生かしておいてやろう」
「ほ、本当でございますか? もちろん誰にも言いません!」
男は許されて取るものも取らず、山を駆け降り家に帰るその道中であった。
「こーう……」
なんとも物悲しい悲痛な声に辺りを見回すと、果たして鶴が罠にかかっているではないか。
「かわいそうに……」
男は罠を外してやると、鶴は名残惜しそうに男の頭の上を旋回してから山を目指して飛んでいってしまった。
◇
その晩である。男は囲炉裏を前にして暖まりながら、今日の出来事を思い出していた。
恐ろしいが美しい雪女と、可愛らしい鶴。
思いを巡らしていると、外が急に騒々しい。
「なんだよお前は!」
「お前こそ誰だよ!」
「ウチはこの家に用事があんだよ」
「アタシだってそうだし」
「ふざけんな、帰れや」
「お前こそ帰れ」
「ダメだコイツ。話しになんねー。こっちはねぇ、この家の人にお嫁さんにしてもらいに来たの。お前なんてお呼びじゃねーつの!」
「はぁ? こっちもそうだし。さらに恩返しに来たんだけど?」
「やるかよテメー! よお!」
「やらねーよ、バカ」
すると、ダンダンダンと入り口の引き戸が叩かれる音である。
「こんな夜更けに誰だろう?」
男は立ち上がってそちらに向かうも声はますます激しくなる。
「オイやめろ。勝手にドア叩くな!」
「うるせー! アタシが最初に来てたんだし」
「お前、もう帰れし!」
「はあ? 意味分かんないんですけど?」
男が引き戸を開けると、同じような白い薄着の女の子である。年の頃は十七、八でどちらも絶世の美女であった。
その美女たちが取っ組み合いのケンカをしている。
こんなキレイで可愛らしい女の子たちがと動揺した。
「ど、どなたですかな?」
すると女の子たちは髪型を直して男に近づいてくる。
「あ、ユキでーす」
「初めまして。つうでーす」
「お前、言い方キャバクラ! 勝手に名乗んなし」
「おめえもな!」
「彼はウチに聞いたんだよ!」
「勘違いすんなブスが!」
またもやバチバチだ。男は困ってしまった。
「あのう。なぜケンカをなさいます。お二人は一体?」
ユキという女性は着物を肩まではだけて胸寄せをして上目遣いで答えた。
「あのう。私は旅の途中で。道に迷って難儀しておりますところに、この家の灯りが見えまして。悪いと思いながらもこうして戸を叩いたしだいです。土間でも軒下でも良いので、一夜の宿を借りれませんでしょうか?」
「うわー。ぶりっ子。キショーい」
「なんだとテメー!」
「やんのか、かかってこいコラ!」
男はこのままでは物語が進行できないと慌てて止めた。
「まあまあ、そちらのかたは?」
つうと名乗る女性は慌てて身なりを整えた。着物かと思ったらスリットが入っており、美しい太ももを出して男の股の間に挟み込む。さらに男の首に手を回し、顔を近づけて懇願してきた。とてもいい匂いがした。
「あのう。私は旅のもので、道に迷いここにたどり着きました。どうか一夜の宿をお借りしたいと思いまして……」
「はあ? 真似すんなし!」
「真似なんてしてねーよ! クソが!」
「お前はもう鶴になって帰れ!」
「お前こそ雪山に帰れや!」
身バレぎりぎりの会話に辟易しつつ、男は二人を迎え入れ、囲炉裏に誘うもののユキは囲炉裏に近づかない。
「どうなさいました? 寒いでしょう。どうぞ囲炉裏に寄って火に暖まりください」
それにユキは答える。
「あのう。私は暑がりでして、ここで充分でございます」
「火にあたると溶けちゃうから。溶けちゃうからねー」
「うるっせぇ! テメー!」
「やんのかブス! コラ!」
「テメーのほうがブスだろ! 鳥みてーな顔しやがって!」
「はあ? 真っ白なオバケみたいな顔してるヤツに言われたくないんですけど? あー、オバケみたいじゃないか。オバケだったか」
「テメーふざけんな!」
「やってやるよコンチクショオー!」
土間に降りて組ついたので、男は慌てて二人を離した。それでも二人は掴みあおうとするので、男は疲れてしまった。
「もう寝てもよろしいか?」
「あ。添い寝しまーす」
「ふざけんなコラ! 軒下か土間で寝ろや!」
「うるせー! さっさと機織りしろよ!」
「あ。そうだった!」
つうという女性は、男の前に三つ指をついた。
「本日のお礼に」
「機織りをしたいと思いますう」
「はあ? テメー! 人のセリフ言うなし!」
「いいから織れよ早く。その間にこっちはヨロシクやるから」
「やんじゃねー! このオカチメンコ!」
「なんだこのドグサレ女!」
わーきゃー、わーきゃーの声に男は耐えられなくなったが、またもや二人の間に割って入った。
「まぁまぁ。ところでつうさん。機織りとは?」
「ああ私、得意なんですよ機織り。一疋の織物は十両の価値はあります。この女と違ってお金を生み出せるんです」
「へーすごいですね」
「では早速織りますね!」
つうは可愛らしい声を出して機織りの部屋に入ろうとしたが、そこで振り返った。
「あ。ごめんなさい。部屋は絶対覗かないでくださいね」
「あ。分かりました」
つうが部屋に入って機織りの音をたて始めると、ユキはすぐに男を誘惑したが、先ほどの攻防でお腹いっぱいだったので男は拒否した。
ユキは悔しがったが立ち上がり、そろそろとつうのいる部屋の障子に手を掛けた。
男は声を潜めて咎める。
「あ。ユキさん。開けてはなりません」
「あん。手が滑っちゃったあ~」
との声と同時に戸を開いてしまった。その部屋の中には鶴がおり、おのれの羽を抜いては機織りにかけ、反物を編み込んでいるところだったが、戸を開かれたことで完全に固まってしまった。
「きゃ~、なんか鶴が機織りしてるう~、そんでつうさんがいない。ひょっとしてこの鶴がつうさん?」
つうはすぐさま人間の姿に戻り、真っ赤な顔してユキに掴みかかった。
「テメー! ◯してやる!」
「うるせー! 正体バレたんだからさっさと出てけ!」
「誰が出ていくかコノヤロー!」
「みなさーん。つうの正体は鶴なんですよー!」
「うるせー! お前なんて雪女のクセに!」
「あ……。お前……。マジ……。言ったな? こっちはバレてねーのに。勝手に言ったな?」
「わー。泣くの? きーもい。性格悪いし、キモいし、アタシだったら帰るね。これは」
「てめーわ、絶対◯す!」
またもやバタバタと土間で暴れる二人。男は顔を背けて寝ることにした。
「とどめだ! 皇鶴拳奥義決死妖觜!!」
「なにをこしゃくな、究極猛吹雪呪文!!」
激しい必殺技のぶつかり合い。お互いに技の粋をぶつけ合い、土間に倒れ込んでしまった。
「なかなかやるわね」
「そっちこそ」
「あんたはこのウチが認めた唯一の女よ」
「フッ。別に嬉しくねーし」
二人は互いに見つめ合い、拳を突き出して軽くぶつけ合う。
「こうなったら彼に決めてもらう?」
「うん。それがいいね」
二人は互いの身を起こし合い、すでに寝ている男に近付いて、揺り起こした。
「え? え?」
男は眠け眼で、傷だらけの二人を見ると、二人は同時に利き手を差し出した。
「えーと、初めてあったときからずっと好きでした! よかったらお付き合いしてください!」
「先輩、入学してからずっと先輩のこと見てました! 第二ボタンください!」
男は突然のことに頭が追い付かず、呆然と見ていたが口を開いた。
「え? お二人、旅人ですよね? まだお二人をよく知らない……、いえ喧嘩っ早いのは分かりましたがそれだけです。お二人のお気持ちはそういうことなのでしょうが、ごめんなさい。お気持ちに応えられません」
「「お願いします!!」」
「いえ、あのー……。好きな人いるんで……」
その言葉に二人とも顔を上げた。目には涙を溜めて……。
肩をおとした二人は、お互いの肩を支えながら出ていったのだ。
外は吹雪だったが妖怪な二人には関係ない。つうは胸元からタバコを出して空に向かって煙を吐き出した。
「……もう泣くのは止めなよ」
「……だって、だって……」
「……好きだったんだねぇ」
「……うん。でももういいや」
「男なんて」
「うん」
「人をその気にさせるだけさせやがってさ」
つうの笑顔がユキのほうに向く。ユキもそれに笑い掛けた。
「飲みにいく?」
「いいね」
「今夜は飲むぞー!」
「おー!」
二人はフラれたが、友情は生まれたようである。
大空に輝く星たちのまたたきは、その友情を讃えるようであった。
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