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第56話 情けは人のためならず
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少し時間を戻したい。
家を出て行った彩の足取りを。
彼女は愚かな考えを抱いていた。
自ら命を絶とうというのだ。
全ての希望を失ってしまった。
生きる気力が一歩進むたびに失っていくことを感じた。
だが、鈴のことを考えて躊躇した。
簡単に命を捨てるのは悪い親だと踏みとどまる思い。
しかし希望の光が無い。自分の人生これから先は目の前が見えないのだ。
いろいろ考えている自分も嫌になってきて、別なことを考えた。
今までの人生を遡って思い出を追っていったのだ。
すると、鷹也と若い時にはしゃぎながら将来、行きたい場所を言い合ったことを思い出した。
新婚旅行もしなかった二人。
いつか行きたい場所があった。
沖縄や出雲大社、ハウステンボス。
他にも香川にうどんを食べに行くなどというものもあった。
とりあえず青い海を見てみたい。
それを終えたら両親の墓の墓参をし、どこかで再起を図るのか。
死んでしまうのかは後で考えることにした。
少しばかり贅沢をしてみたいと思ったのだ。
自暴自棄な感じで鷹也から貰った通帳から20万円を下ろし、小さな荷物を提げながら、電車に乗り込んだ。
南下出来ればどこでもいいと買った見知らぬ土地の駅名の切符。
揺られ揺られて2県離れた見知らぬ都市。
駅から出ると21時42分。
スマートフォンで安いホテルでも探そうかと思ったが、スマートフォンは置いて来たことを思い出し、自分自身に苦笑した。
「駅前ならビジホもウィークリーマンションもあるのかも」
小さい声でつぶやいて看板を見ながら進んで行った。
路地裏にぼんやりと光る青い看板にビジネスホテルという文字を見つけ、そちらに歩みを進めると道の脇に、買いもの袋を置いて足をさすっている老婆を見つけた。
何も通り過ぎてしまえばよいのだが、持ち前のお人好しさなのだろうか?
つい声をかけてしまった。
「どうかなされましたか?」
老婆はシワだらけの顔を上げて彼女の顔を見た。
そして、ニィっと笑った。
「早く帰らなきゃならないんだけど、足をくじいちゃってね。足を引きずって帰ることはできるんだけど、荷物が持てなくてねぇ。どうしようか思案してたところなんだよ」
買いもの袋には、米や大玉のキャベツや根菜。たしかに老婆が持つには一苦労するであろう品ばかりだった。
彩はそれをひょいと持ち上げた。
「どこまでいくんです? どうせヒマですからお手伝いしますよ」
老婆はまたニィっと笑って、痛い足をかばいながら立ち上がった。
「ごめんよぉ。じゃぁ、こっちだよ」
老婆はさらに薄暗い路地の中に入って行った。
ピンクや紫の看板。すぐさま歓楽街だと分かった。
ニヤついている客引きの男。
彩は顔を伏せて、ただ老婆のかかとだけを見ていた。
さらに細い路地を通って薄暗いビルの裏手。
それを表に回ると大きなガラス戸の玄関。両脇にはガラスブロックが埋められている。
古いタイプの宿泊施設なのかもしれない。
老婆がその玄関の灯りをつけると、そこには4人の男が立っていた。
「ばーさんお帰り」
「ああ。ただいま」
男たちは彩を見ると不敵な笑みを浮かべていた。
家を出て行った彩の足取りを。
彼女は愚かな考えを抱いていた。
自ら命を絶とうというのだ。
全ての希望を失ってしまった。
生きる気力が一歩進むたびに失っていくことを感じた。
だが、鈴のことを考えて躊躇した。
簡単に命を捨てるのは悪い親だと踏みとどまる思い。
しかし希望の光が無い。自分の人生これから先は目の前が見えないのだ。
いろいろ考えている自分も嫌になってきて、別なことを考えた。
今までの人生を遡って思い出を追っていったのだ。
すると、鷹也と若い時にはしゃぎながら将来、行きたい場所を言い合ったことを思い出した。
新婚旅行もしなかった二人。
いつか行きたい場所があった。
沖縄や出雲大社、ハウステンボス。
他にも香川にうどんを食べに行くなどというものもあった。
とりあえず青い海を見てみたい。
それを終えたら両親の墓の墓参をし、どこかで再起を図るのか。
死んでしまうのかは後で考えることにした。
少しばかり贅沢をしてみたいと思ったのだ。
自暴自棄な感じで鷹也から貰った通帳から20万円を下ろし、小さな荷物を提げながら、電車に乗り込んだ。
南下出来ればどこでもいいと買った見知らぬ土地の駅名の切符。
揺られ揺られて2県離れた見知らぬ都市。
駅から出ると21時42分。
スマートフォンで安いホテルでも探そうかと思ったが、スマートフォンは置いて来たことを思い出し、自分自身に苦笑した。
「駅前ならビジホもウィークリーマンションもあるのかも」
小さい声でつぶやいて看板を見ながら進んで行った。
路地裏にぼんやりと光る青い看板にビジネスホテルという文字を見つけ、そちらに歩みを進めると道の脇に、買いもの袋を置いて足をさすっている老婆を見つけた。
何も通り過ぎてしまえばよいのだが、持ち前のお人好しさなのだろうか?
つい声をかけてしまった。
「どうかなされましたか?」
老婆はシワだらけの顔を上げて彼女の顔を見た。
そして、ニィっと笑った。
「早く帰らなきゃならないんだけど、足をくじいちゃってね。足を引きずって帰ることはできるんだけど、荷物が持てなくてねぇ。どうしようか思案してたところなんだよ」
買いもの袋には、米や大玉のキャベツや根菜。たしかに老婆が持つには一苦労するであろう品ばかりだった。
彩はそれをひょいと持ち上げた。
「どこまでいくんです? どうせヒマですからお手伝いしますよ」
老婆はまたニィっと笑って、痛い足をかばいながら立ち上がった。
「ごめんよぉ。じゃぁ、こっちだよ」
老婆はさらに薄暗い路地の中に入って行った。
ピンクや紫の看板。すぐさま歓楽街だと分かった。
ニヤついている客引きの男。
彩は顔を伏せて、ただ老婆のかかとだけを見ていた。
さらに細い路地を通って薄暗いビルの裏手。
それを表に回ると大きなガラス戸の玄関。両脇にはガラスブロックが埋められている。
古いタイプの宿泊施設なのかもしれない。
老婆がその玄関の灯りをつけると、そこには4人の男が立っていた。
「ばーさんお帰り」
「ああ。ただいま」
男たちは彩を見ると不敵な笑みを浮かべていた。
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