ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範

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第57話 新しい根城

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「ばーさん、この人は?」
「ああ。実は足をくじいちまってねぇ。荷物が持てないところを手伝ってくれたんだよ。名前は……」

そう言って彩の方を見る。彩はペコリと頭を下げた。

「あ。アヤと申します」
「そう。アヤちゃん。さ、上がって。アンタたちもボヤボヤしてないで、荷物を持ってあげなよ」

老婆が指示をすると、男たちは食材の入った荷物をひょいと持ち上げ、別の部屋に入って行った。

「脅かせちまったね。気の良い連中なんだよ」
「あ、あの。私はこの辺で」

そう言って出て行こうとする彩を老婆は止めた。

「ダメだよ。さぁさ。上がって上がって」

彩は老婆に言われるがまま、老婆の部屋に入って行った。
そこには、まだコタツの季節ではないのに小さいコタツと小さいテレビ。
彩は老婆に出された座布団に腰を下ろし、膝だけコタツに足を入れた。

「ここはね。ある会社の独身寮。あたしゃ寮母さん」
「あ。ああ、そうだったんですね」

「明日の朝食の買いものしようと思って出ていったんだけども、あのザマでね。アヤちゃんに手伝ってもらって助かったよ」
「いえ~。お力になれたようでよかったです」

「あたしゃ、谷川シゲルってんだ。シゲさんとでも呼んどくれ」
「あ、シゲさん」

老婆は彩の前にお茶を出した。そして何でも無い世間話。
ただの雑談だ。心の中がずっと緊張しっぱなしだった彩はその時間が楽しかった。
しかし夜の22時。いつまでもいるのは迷惑だと彩は考え、暇乞いをすることにした。

「あの。夜分遅くですのでシゲさんもご迷惑でしょう。明日のお仕事もあるでしょうし、私、帰りますね」

そう言って立ち上がろうとすると彩を老婆はまた止めた。

「アヤちゃん……。行くところないんだろ?」

彩は少しばかりたじろいだが、そのまま頭を下げて立ち上がった。

「いえ。大丈夫です」
「座んなさい」

「……ハイ」

彩はもう一度座布団に座り直す。
老婆は、彩の少しばかり減ったお茶を急須から注ぎ足した。

「もし、アヤちゃんさえよかったら、あたしの仕事のお手伝いをして欲しいんだよ。足もしばらく治らないだろうし。この隣りの部屋が空いているしね。そこで寝泊まりして、朝食、夕食、寮内の清掃なんか手伝ってくれたら最高だよ。少ないけどお給料も出すし。どうか後生だからそうしておくれ?」

老婆は何かを感じたのかもしれない。そして身の寄せどころの無い彩に取って有り難い言葉。
彩は頭を下げてその言葉に甘えることにした。
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