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【中華ファンタジー】蛇嫁
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魏の城塞の司令官、許に息子があった。名を真といって、歳は18になってはいたが、生来知恵遅れで、読み書きも満足にできなかった。
そんな真だから嫁のきてなどあるわけがなかったが、城塞の司令官である父は嫁を探しに方々を駆けずり回った。しかし、どこの名家の令嬢もかたくなに固辞した。
ある時、門の前に一人の娘がたっており門番に
「許司令のお屋敷はこちらですか?」
と聞き、そうだというと
「ああ、よかった。私は燕は北平の孫司令の娘で、英と申します。都見物にやってきたは良いのですが、道中、悪心をおこした家来たちが財産を奪って遁走してしまいました。私の侍女が先に気付きまして、逃がしてくれたので、厄災はありませんでしたが、ここで頼れるのは許司令のみなのでこうして恥とは思いながらもやってきた次第でございます」
門番が司令の元に案内すると、まだ13・4の娘だったがこれが絶世の美女であった。
「北平はここより遠い。私も任務がございますれば、しばらくはこちらにご逗留いただき、後に孫司令の元に送り届けることといたしましょう」
「ああ、よかった。宜しくお願いいたします」
と、しばらく預かることとなった。
許司令は逗留の間に彼女を口説き、真の嫁にしてしまおうと思った。
次の朝、見ると真と英が仲むつまじく遊んでいる。真はめやにだらけで、髪もざんばらだったが英はそれを気にする風でもなく自分の小袖でとってやっていた。
これはいいとばかり許司令はほくそえんだ。
三月もすると、英が
「司令さま、とんでもないことになってしまいました」
「いかがいたしました?」
「実は、真さまの子をみごもりました」
「な、なんと……?」
真にそんな閨の機能があったのかだの、いつのまに二人はそんなことをだの、司令は頭の中でいろんなことがぐちゃぐちゃになってしまったが、英のように気だてもよく、また美人で真もよくなついているのだから、これほどよい嫁はないと思い
「真の嫁になってくださらんか?」
と頭を下げると英は喜んでこの話を受けた。
かくして二人の生活がはじまった。
「真さま、あなたは前世で死ぬ間際に頭を石でつぶされてしまったのです。その時の石のかけらがまだ脳に残っているのです。ですから、読むことも書くこともままならないのですわ。この丸薬を毎日飲んでいると、その内に石は溶けてしまいますから」
といって、毎日丸薬をのませた。
月が満ちて英が子供を産すころには真の病状もめきめき回復し、論語を暗誦して諳んじられるようになった。
許司令もこれにはびっくりした。
子供は男子だった。阿明と名付けた。
ある時に、北平から孫司令がくるという知らせが入った。それを英にいうと
「そうですか」
というばかりで別に嬉しそうではないばかりか妙にそわそわしはじめていた。
孫司令が屋敷を訪れ
「実は、キミの娘を1年前に嫁にもらった。いや~、気だての良い子で息子も大喜びだ」
「なに? 私の娘が? 冗談をいってはいけない」
「キミの三女の英どのだ」
「……あれは都見物に行く道中、反乱にあって、死んだ」
「そんなはずはない。現にウチにいるのだから」
呼んでみると、孫司令が
「これは驚いた。まさしく英だ。生きていたのか!」
「はい、お父様、便りもださずに申し訳ありません」
「いやいや、死んだと思っていた娘が生きていてましてや許どのの家に嫁したのならば、まさに良縁にめぐまれたとはこのこと」
父と娘は再会を喜びひしと抱き合った。
次の日、許司令と孫司令の2人は早朝家来を伴って狩りに出かけ、たくさんの獲物をとってきた。
「どうだ! この鹿は!」
「いや~、父上、見事!」
「どれ、わたしにも見せてくださらない?」
と近づいた英に、獲物の中のイタチがフと目をさますと、躍り出て英のその白い足に噛みついた。
「おおお!」
一同驚いて、すぐさま引き離して即ち打ち殺した。
「これで、大丈夫だ。なにも恐がることはないよ」
と真がいうと、英ははらはらと落涙し息も絶え絶えでいい放った。
「いいえ、おしまいでございます。鼬毒が私の中に入ってしまいました。皆様をだましていて申し訳ありませんが私は、白蛇の精でございます。真さまは、私の夫の生まれ変わりでございます。仲むつまじく暮らしていたのですが、あるとき石におしつぶされて死んでしまったのでございます。悲しみにくれた私でしたが、許さまの家に生まれ変わったのを知り、悪いとは思いながらも、孫司令さまのご令嬢の屍に魂をやどらせこうしてやって参ったのであります。
あぁ、私はもうダメでございます。あなた……、三界まで誓いたいと思いましたがこうなっては天帝の身元に召されるのみ。
どうか、阿明を宜しくお願いいたします。どうか邪険にあつかいませぬよう……」
といって、事切れた。
見る間に、英の口からぞろりと白蛇が姿をあらわしたが、それもパタリと腹をみせて死んでしまった。
英の体と、白蛇の体は、許家の墓地に丁寧に埋葬された。
その後、真は科挙に及第し、出世して宰相となった。みな、白蛇の生まれ変わりと蛟宰相といった。
息子の阿明は成長して安と名乗り、同じく科挙に合格して文官として出世した。
安の子供達はぞろぞろと蛇のように増え、みな商人になったが、相場をぴたりぴたりと当てるので大金持ちになった。
そんな真だから嫁のきてなどあるわけがなかったが、城塞の司令官である父は嫁を探しに方々を駆けずり回った。しかし、どこの名家の令嬢もかたくなに固辞した。
ある時、門の前に一人の娘がたっており門番に
「許司令のお屋敷はこちらですか?」
と聞き、そうだというと
「ああ、よかった。私は燕は北平の孫司令の娘で、英と申します。都見物にやってきたは良いのですが、道中、悪心をおこした家来たちが財産を奪って遁走してしまいました。私の侍女が先に気付きまして、逃がしてくれたので、厄災はありませんでしたが、ここで頼れるのは許司令のみなのでこうして恥とは思いながらもやってきた次第でございます」
門番が司令の元に案内すると、まだ13・4の娘だったがこれが絶世の美女であった。
「北平はここより遠い。私も任務がございますれば、しばらくはこちらにご逗留いただき、後に孫司令の元に送り届けることといたしましょう」
「ああ、よかった。宜しくお願いいたします」
と、しばらく預かることとなった。
許司令は逗留の間に彼女を口説き、真の嫁にしてしまおうと思った。
次の朝、見ると真と英が仲むつまじく遊んでいる。真はめやにだらけで、髪もざんばらだったが英はそれを気にする風でもなく自分の小袖でとってやっていた。
これはいいとばかり許司令はほくそえんだ。
三月もすると、英が
「司令さま、とんでもないことになってしまいました」
「いかがいたしました?」
「実は、真さまの子をみごもりました」
「な、なんと……?」
真にそんな閨の機能があったのかだの、いつのまに二人はそんなことをだの、司令は頭の中でいろんなことがぐちゃぐちゃになってしまったが、英のように気だてもよく、また美人で真もよくなついているのだから、これほどよい嫁はないと思い
「真の嫁になってくださらんか?」
と頭を下げると英は喜んでこの話を受けた。
かくして二人の生活がはじまった。
「真さま、あなたは前世で死ぬ間際に頭を石でつぶされてしまったのです。その時の石のかけらがまだ脳に残っているのです。ですから、読むことも書くこともままならないのですわ。この丸薬を毎日飲んでいると、その内に石は溶けてしまいますから」
といって、毎日丸薬をのませた。
月が満ちて英が子供を産すころには真の病状もめきめき回復し、論語を暗誦して諳んじられるようになった。
許司令もこれにはびっくりした。
子供は男子だった。阿明と名付けた。
ある時に、北平から孫司令がくるという知らせが入った。それを英にいうと
「そうですか」
というばかりで別に嬉しそうではないばかりか妙にそわそわしはじめていた。
孫司令が屋敷を訪れ
「実は、キミの娘を1年前に嫁にもらった。いや~、気だての良い子で息子も大喜びだ」
「なに? 私の娘が? 冗談をいってはいけない」
「キミの三女の英どのだ」
「……あれは都見物に行く道中、反乱にあって、死んだ」
「そんなはずはない。現にウチにいるのだから」
呼んでみると、孫司令が
「これは驚いた。まさしく英だ。生きていたのか!」
「はい、お父様、便りもださずに申し訳ありません」
「いやいや、死んだと思っていた娘が生きていてましてや許どのの家に嫁したのならば、まさに良縁にめぐまれたとはこのこと」
父と娘は再会を喜びひしと抱き合った。
次の日、許司令と孫司令の2人は早朝家来を伴って狩りに出かけ、たくさんの獲物をとってきた。
「どうだ! この鹿は!」
「いや~、父上、見事!」
「どれ、わたしにも見せてくださらない?」
と近づいた英に、獲物の中のイタチがフと目をさますと、躍り出て英のその白い足に噛みついた。
「おおお!」
一同驚いて、すぐさま引き離して即ち打ち殺した。
「これで、大丈夫だ。なにも恐がることはないよ」
と真がいうと、英ははらはらと落涙し息も絶え絶えでいい放った。
「いいえ、おしまいでございます。鼬毒が私の中に入ってしまいました。皆様をだましていて申し訳ありませんが私は、白蛇の精でございます。真さまは、私の夫の生まれ変わりでございます。仲むつまじく暮らしていたのですが、あるとき石におしつぶされて死んでしまったのでございます。悲しみにくれた私でしたが、許さまの家に生まれ変わったのを知り、悪いとは思いながらも、孫司令さまのご令嬢の屍に魂をやどらせこうしてやって参ったのであります。
あぁ、私はもうダメでございます。あなた……、三界まで誓いたいと思いましたがこうなっては天帝の身元に召されるのみ。
どうか、阿明を宜しくお願いいたします。どうか邪険にあつかいませぬよう……」
といって、事切れた。
見る間に、英の口からぞろりと白蛇が姿をあらわしたが、それもパタリと腹をみせて死んでしまった。
英の体と、白蛇の体は、許家の墓地に丁寧に埋葬された。
その後、真は科挙に及第し、出世して宰相となった。みな、白蛇の生まれ変わりと蛟宰相といった。
息子の阿明は成長して安と名乗り、同じく科挙に合格して文官として出世した。
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