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第4話 江戸に行きたい
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文吉と熊吉の和解。わいわいと周りが騒いでいると、主人が小僧二人に提灯を持たせて部屋に怒鳴り込んできた。
「うるさいぞおまえたち。明日も早いというのになんの騒ぎだ」
主人が部屋の中を見渡すと、文吉の前に熊吉が土下座をしている異様な光景。主人は目を丸くした。そこに熊吉が声を張る。
「旦那! 文吉はなにも悪くねぇんで。アタシを罰して下さい!」
惚れた文吉だ。熊吉は主人の怒りを治めようと自ら罰を買って出た。しかし生来真面目な文吉だ。そんな熊吉の横に自分も平伏した。
「いえ旦那! アタシも悪いんで。アタシにも罰をお与えください!」
そうなると熊吉はますます感激してしまい、畳に頭を擦りつけて主人へ詫びた。主人の方では口を開けて呆れかえってしまった。
「もういい。罰など与えんからさっさと寝なさい。お前たちもだ」
周りにいた観客たちもたしなめて主人は部屋へと帰ってしまった。文吉は熊吉と頭を上げて、互いの顔を見て笑い合った。
みんなどやどやと布団をすいて寝る準備を始めると、熊吉は自分の布団を抱えて文吉の隣に陣取りだ。
「どけどけ、お前ら。俺は文吉の隣で寝るんだからよ」
「おいおい熊吉。まさか男色ではねえよな」
「まさか。だがお前に惚れたのはたしかだ」
「ヒッ」
文吉は驚いたが、熊吉は声高らかに笑っていた。豪傑が豪傑に惚れるというやつだ。これは得がたい友であった。
二人が布団に入るとみんなもそれぞれ寝息を立て始めた。熊吉が小声でささやく。
「なぁ文吉」
「どうした?」
「すげぇ力を隠していたな。まるで金剛力士さまだ。俺は天の邪鬼だった。自分が最強だと思っていたんだ。踏み付けられてやっと分かった。これからはお前のためにこの力を使うぞ!」
「──そうか。ありがとう」
熊吉は小さく笑うと寝てしまった。文吉の財布にはずっしりと3000文。そして温かいものが込み上げてきた。文吉は眠れなかった。相撲や歓声に興奮したからではない。熊吉のイビキがうるさかったのだ。
◇
それから月日は流れた。14歳で奉公に入って年季は三年。その後三年、都合六年で文吉は手代でも年長の方になっていた。この頃になると文吉にも給金が支払われ、上等な着物を着せて貰える立場となっていた。文吉も仲間と共に休日には外で買い食いをして楽しむようになっていた。
そんな文吉の脇には常に用心棒のように熊吉が目を光らせていた。二人がする贅沢と言えば16文の蕎麦を手繰るくらい。
熊吉には文吉が金を貯めている理由が分かっていた。
「しかし、その彼女は今どこにいるのかねぇ」
「そうさなぁ……」
「どうだい文吉。江戸に出てみねぇか? 二人で江戸で一旗あげるんだ。それに江戸なら彼女の情報も集まると思うぞ」
「江戸かぁ」
「おら本場の相撲も見てみたいしな」
「熊吉なら大関にもなれるよ」
「よせやい」
二人の友情はますます厚いものとなっていた。
『ちょいと』
文吉の懐から声がする。見てみると白い玉が僅かに点灯していた。熊吉は気付かずに蕎麦を手繰っている。
「熊吉。おらぁちょっと便所だ」
「おう分かった。もう一杯食いたいと思ってたところだ」
文吉は外にあるトイレに向かうフリをする。熊吉は蕎麦を注文した。
文吉は細い路地に入って懐の白い玉へと話し掛ける。
「どうしましたい、玉さま」
『耳をおすまし。男の声がするだろう?』
白い玉に言われて耳を澄ますとたしかに数人の男たちの話し声がする。それは壁の向こう側。長屋の中からだ。
文吉は白い玉に言われるがまま壁に耳をつけた。
「今夜、やまやを襲うぞ」
「へへん。とうとうこの日が来たか」
文吉は震え上がった。やまやは自分たちが勤める醤油屋の屋号だ。こいつらは押し込み強盗をかけるつもりだ。
このままでは仲間たちは殺され、店の金は奪われてしまう。自分は計画を知っていてもどうやって伝えればいいものか。
「玉さま、いかがいたしましょう」
『そんなの簡単よ。アンタと熊吉で強盗をとっ捕まえるのよ。そうすりゃご主人も喜んでご褒美をくれるわ!』
「い、いやしかし、向こうは武器を持ってます」
『オー! なるほど。じゃあそうねぇ。力を与えてもいいけど、おばちゃんが操る方が簡単ね。熊吉は倒れた賊に縄をかけると。それで行きましょう』
「操る?」
文吉が不思議がると、手足が勝手に動く。まるでタコのように全身に波を打たせてみたり、高々と足を上げてみたり。一流ダンサーのような動きであった。
最後はスポットライトを浴びたかのようなポーズ。
『ふふふ。どうかしら?』
「か、体中が痛いっす」
『まぁ。普段使わない筋肉を使うからかしらね? じゃあ、ほい』
白い玉がひと声かけると、体の痛みが和らぎ、やがて消えてしまった。
文吉は両手を握ったり、開いたり。やがて感動に打ち震えた。
「すごいです。玉さま!」
『そーよ。これで刀なんて怖くない。賊なんてドンとこいよ!』
文吉は勝ちを確信し、熊吉の元へと戻り、場所を変えて相談を始める。
「え? 押し込み強盗?」
「バカ。熊吉、声が大きい」
「何でそんなもんが来ることを知ってるだ?」
「はばかりに行く途中で偶然聞いたんだ。今夜来るらしい。おらたちでとっ捕まえよう」
「だって、素手ではこないだろう?」
「当たり前だ。武器は持ってるだろうな」
「おいおい」
「大丈夫。おらは金剛力士だぞ。任せておけ。熊吉は倒れた賊に縄をかけるだけでいい」
「ホントか?」
「ああ。成功すれば旦那さまからご褒美がたんまりもらえる。それを元手に江戸に行くんだ」
「おお!」
話はまとまった。文吉と熊吉は店に戻って通常通りに過ごし、夜になって布団に入った。みんなが寝静まった頃むっくりと起き出して、入り口へと向かっていった。
「うるさいぞおまえたち。明日も早いというのになんの騒ぎだ」
主人が部屋の中を見渡すと、文吉の前に熊吉が土下座をしている異様な光景。主人は目を丸くした。そこに熊吉が声を張る。
「旦那! 文吉はなにも悪くねぇんで。アタシを罰して下さい!」
惚れた文吉だ。熊吉は主人の怒りを治めようと自ら罰を買って出た。しかし生来真面目な文吉だ。そんな熊吉の横に自分も平伏した。
「いえ旦那! アタシも悪いんで。アタシにも罰をお与えください!」
そうなると熊吉はますます感激してしまい、畳に頭を擦りつけて主人へ詫びた。主人の方では口を開けて呆れかえってしまった。
「もういい。罰など与えんからさっさと寝なさい。お前たちもだ」
周りにいた観客たちもたしなめて主人は部屋へと帰ってしまった。文吉は熊吉と頭を上げて、互いの顔を見て笑い合った。
みんなどやどやと布団をすいて寝る準備を始めると、熊吉は自分の布団を抱えて文吉の隣に陣取りだ。
「どけどけ、お前ら。俺は文吉の隣で寝るんだからよ」
「おいおい熊吉。まさか男色ではねえよな」
「まさか。だがお前に惚れたのはたしかだ」
「ヒッ」
文吉は驚いたが、熊吉は声高らかに笑っていた。豪傑が豪傑に惚れるというやつだ。これは得がたい友であった。
二人が布団に入るとみんなもそれぞれ寝息を立て始めた。熊吉が小声でささやく。
「なぁ文吉」
「どうした?」
「すげぇ力を隠していたな。まるで金剛力士さまだ。俺は天の邪鬼だった。自分が最強だと思っていたんだ。踏み付けられてやっと分かった。これからはお前のためにこの力を使うぞ!」
「──そうか。ありがとう」
熊吉は小さく笑うと寝てしまった。文吉の財布にはずっしりと3000文。そして温かいものが込み上げてきた。文吉は眠れなかった。相撲や歓声に興奮したからではない。熊吉のイビキがうるさかったのだ。
◇
それから月日は流れた。14歳で奉公に入って年季は三年。その後三年、都合六年で文吉は手代でも年長の方になっていた。この頃になると文吉にも給金が支払われ、上等な着物を着せて貰える立場となっていた。文吉も仲間と共に休日には外で買い食いをして楽しむようになっていた。
そんな文吉の脇には常に用心棒のように熊吉が目を光らせていた。二人がする贅沢と言えば16文の蕎麦を手繰るくらい。
熊吉には文吉が金を貯めている理由が分かっていた。
「しかし、その彼女は今どこにいるのかねぇ」
「そうさなぁ……」
「どうだい文吉。江戸に出てみねぇか? 二人で江戸で一旗あげるんだ。それに江戸なら彼女の情報も集まると思うぞ」
「江戸かぁ」
「おら本場の相撲も見てみたいしな」
「熊吉なら大関にもなれるよ」
「よせやい」
二人の友情はますます厚いものとなっていた。
『ちょいと』
文吉の懐から声がする。見てみると白い玉が僅かに点灯していた。熊吉は気付かずに蕎麦を手繰っている。
「熊吉。おらぁちょっと便所だ」
「おう分かった。もう一杯食いたいと思ってたところだ」
文吉は外にあるトイレに向かうフリをする。熊吉は蕎麦を注文した。
文吉は細い路地に入って懐の白い玉へと話し掛ける。
「どうしましたい、玉さま」
『耳をおすまし。男の声がするだろう?』
白い玉に言われて耳を澄ますとたしかに数人の男たちの話し声がする。それは壁の向こう側。長屋の中からだ。
文吉は白い玉に言われるがまま壁に耳をつけた。
「今夜、やまやを襲うぞ」
「へへん。とうとうこの日が来たか」
文吉は震え上がった。やまやは自分たちが勤める醤油屋の屋号だ。こいつらは押し込み強盗をかけるつもりだ。
このままでは仲間たちは殺され、店の金は奪われてしまう。自分は計画を知っていてもどうやって伝えればいいものか。
「玉さま、いかがいたしましょう」
『そんなの簡単よ。アンタと熊吉で強盗をとっ捕まえるのよ。そうすりゃご主人も喜んでご褒美をくれるわ!』
「い、いやしかし、向こうは武器を持ってます」
『オー! なるほど。じゃあそうねぇ。力を与えてもいいけど、おばちゃんが操る方が簡単ね。熊吉は倒れた賊に縄をかけると。それで行きましょう』
「操る?」
文吉が不思議がると、手足が勝手に動く。まるでタコのように全身に波を打たせてみたり、高々と足を上げてみたり。一流ダンサーのような動きであった。
最後はスポットライトを浴びたかのようなポーズ。
『ふふふ。どうかしら?』
「か、体中が痛いっす」
『まぁ。普段使わない筋肉を使うからかしらね? じゃあ、ほい』
白い玉がひと声かけると、体の痛みが和らぎ、やがて消えてしまった。
文吉は両手を握ったり、開いたり。やがて感動に打ち震えた。
「すごいです。玉さま!」
『そーよ。これで刀なんて怖くない。賊なんてドンとこいよ!』
文吉は勝ちを確信し、熊吉の元へと戻り、場所を変えて相談を始める。
「え? 押し込み強盗?」
「バカ。熊吉、声が大きい」
「何でそんなもんが来ることを知ってるだ?」
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「だって、素手ではこないだろう?」
「当たり前だ。武器は持ってるだろうな」
「おいおい」
「大丈夫。おらは金剛力士だぞ。任せておけ。熊吉は倒れた賊に縄をかけるだけでいい」
「ホントか?」
「ああ。成功すれば旦那さまからご褒美がたんまりもらえる。それを元手に江戸に行くんだ」
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