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第2話 略奪
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ルイス様のことを思い出そうと必死で頭を回転させてると、陛下の部屋からドンガラガッシャン!
激しい音が鳴り響いたので、無礼とは思いつつも陛下の部屋の扉を開けると、陛下の上には王太子さまがスッ転んで覆い被さって、陛下の粉薬と王太子さまの腰にぶら下げた鳩の羽根が宙を舞っておりました。
大きく咳き込む陛下に、薬で真っ白になった侍女たちが駈け寄ります。ジェイダン伯爵は落ち着きを払って周りに指示をしました。
「これお前たち。陛下のお召し物を代えよ。アメリア。キミは部屋をすぐに掃除したまえ。王太子さまはワシが預かろう」
というと、怒りに震える腕で王太子さまの襟首を掴んで部屋の外に出ていきました。問題児たちは慌てふためいてついていきましたがヒドい。コイツらに仕事を増やされて私たち侍女はため息をつきました。
◇◇◇◇◇
ジェイダン伯爵はそうそうに問題児たちを王宮から追放したようでした。王太子さまが王宮に寄りつかないというのはある意味幸運かしら? それからしばらく姿を見ませんでした。どこに行ったかなんて気にもなりません。
私が王宮内を清掃してますと、宰相さまの政務室から出て来たルイス様とバッタリ遭遇。
なんという運命のいたずら。お会いしたいと思っていたら向こうから来てくれるなんて。私たちは思わず足を止めてしまいました。
「や、やぁ。アメリア」
「ル、ルイス様。ご機嫌麗しゅう」
それから私たちは少しばかり沈黙。なにかモニョモニョする空気が私たちの周りに漂います。
「あのぅ。アメリア」
「は、はい。ルイス様」
「そのぅ。仕事なんだ。ホロイ地区の産物の資料を取りに行かないと」
「あ、でしたらご案内致します」
「ほ、ほんとかい?」
「ええ。一緒に参りましょう」
ルイス様と王宮デート。仕事と言い訳しながら。そんなことが四、五回ありましたでしょうか?
私とルイス様は柱の陰で人目を忍び初めてのキスをしたのです。
「ああアメリア。キミを私の屋敷に連れて行きたいよ」
「わ、わたしも、ルイス様となら……」
「本当かい? だったら父に話してさっそくキミの部屋を作らせよう」
「ええ? 本当ですか?」
「もちろんだとも。数日のうちにキミは私の妻となるのだ」
私の人生の最良の日。ルイス様にプロポーズされちゃった!
「アメリアは王太子殿下をどう思う?」
「どうって……。私は感心しておりません」
「やっぱりか。私もだ」
「私、前に鹿って言われて囲まれたこともあるんです」
「なにぃ? 私の大事なアメリアに。無事だったか?」
「ええ。ジェイダン伯爵さまに助けられました」
「ジェイダン……。あの老人か。アメリアにはあんなものたちが近付かないように早く迎えにこなくてはな」
「うふふ。お待ちしてます」
「まったく。あんなものが将来の国王とは世も末だ。見ていろ。アメリア」
「はい」
私はルイス様を執務室に見送った後、有頂天で踊りながら王宮の掃除をした。
すると、廊下の角から突然人が出て来てぶつかって廊下に倒れてしまった。
「ん。大丈夫か? 手を貸してやろう。さぁ掴まれ」
その人は私に手を伸ばした。
「あ、ありがとうございます……」
優しく手を握られて引き寄せられてみると、そこには王太子さま。以前にも増してヒドい格好。髪は頭頂に無造作にまとめて、サラシはしているものの上半身はほぼ裸。目のやり場に困る。腰にはベルトではなく荒縄で衣服を締めている。
上品な王宮に慣れた私は気を失いそうになった。
私が卒倒しそうになると、王太子さまは抱き抱えて顔を近づけてきた。全くの逆効果。離れたいのに。
「どうした。お前はたしかアメリアといったな。ぼうっとしていたようだが、なにか失敗でもしたか? だったら余にいうといい」
なーにをそんな格好で男らしいこと言っちゃって。あなたが好き勝手できるのも宰相さまの政治のお陰でしょうに。それにルイス様の。うふふ。
「いーえ。ご心配には及びませんわ。何かあったらルイス様にお願い致しますし」
王太子さまは目を丸くしていた。そして問いかける。
「ルイス様? アメリア。お前とルイスはどういう関係か?」
ぬぅ。下世話な人。人の恋路に顔を突っ込んでくるとは。でもピシャリと言っておいた方がよさそうだわ。
「殿下に申し上げることでもありませんが、私ルイス様に見初められましたの。私のために部屋を与えるとのことです。つまり婚約したのです」
「は、はぁ!?」
なぜか王太子さまは声を荒げた。そして私の手を強引に引く。
「何を言ってる! 私と共に来い! ルイスなどに渡すものか!!」
は、はぁ!? こっちが『はぁ』ですけど??
王太子さまは言うが早いか、私を抱き抱えると王宮の廊下を走る。
私の知らない道。薄暗くて壁に装飾もない。こんな場所、私は知らなかった。
王太子さまは私を抱いたままそこを駆け抜ける。私は何がおこっているのか、さっぱり分からず声も出せずにいたが、いつの間にか王宮を出て、荷馬車に押し込まれて、猿ぐつわを噛まされた。さらに体を縛られて身動きも出来ない。
よりによってあの王太子さまに抱き抱えられたことと、身動きを奪われたこと、いつの間にか王宮を離れていることにパニックに陥った。
王太子さまはフードを被って荷馬車を自分で御し、ある大きな邸宅の裏口から入ったのは夜になってからだった。
どこのお屋敷か分からないが、抱き抱えられて離れに入ってゆく。
そこは二階建てで部屋数もそれほどない。だけど侍女姿の少女が一人。王太子さまが入ってゆくと出迎えた。
「殿下お帰りなさいまし」
「マギー。私の将来の妃を連れて来た。世話をしろ」
マギーと言われた少女は縛られている私を見ても慌てる様子などなかった。
「左様でございますか。ご寝所は同じですか? それとも別?」
し、し、し、寝所!? まさか私は今夜、この王太子のクソに凌辱されてしまうってわけ!?
激しい音が鳴り響いたので、無礼とは思いつつも陛下の部屋の扉を開けると、陛下の上には王太子さまがスッ転んで覆い被さって、陛下の粉薬と王太子さまの腰にぶら下げた鳩の羽根が宙を舞っておりました。
大きく咳き込む陛下に、薬で真っ白になった侍女たちが駈け寄ります。ジェイダン伯爵は落ち着きを払って周りに指示をしました。
「これお前たち。陛下のお召し物を代えよ。アメリア。キミは部屋をすぐに掃除したまえ。王太子さまはワシが預かろう」
というと、怒りに震える腕で王太子さまの襟首を掴んで部屋の外に出ていきました。問題児たちは慌てふためいてついていきましたがヒドい。コイツらに仕事を増やされて私たち侍女はため息をつきました。
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ジェイダン伯爵はそうそうに問題児たちを王宮から追放したようでした。王太子さまが王宮に寄りつかないというのはある意味幸運かしら? それからしばらく姿を見ませんでした。どこに行ったかなんて気にもなりません。
私が王宮内を清掃してますと、宰相さまの政務室から出て来たルイス様とバッタリ遭遇。
なんという運命のいたずら。お会いしたいと思っていたら向こうから来てくれるなんて。私たちは思わず足を止めてしまいました。
「や、やぁ。アメリア」
「ル、ルイス様。ご機嫌麗しゅう」
それから私たちは少しばかり沈黙。なにかモニョモニョする空気が私たちの周りに漂います。
「あのぅ。アメリア」
「は、はい。ルイス様」
「そのぅ。仕事なんだ。ホロイ地区の産物の資料を取りに行かないと」
「あ、でしたらご案内致します」
「ほ、ほんとかい?」
「ええ。一緒に参りましょう」
ルイス様と王宮デート。仕事と言い訳しながら。そんなことが四、五回ありましたでしょうか?
私とルイス様は柱の陰で人目を忍び初めてのキスをしたのです。
「ああアメリア。キミを私の屋敷に連れて行きたいよ」
「わ、わたしも、ルイス様となら……」
「本当かい? だったら父に話してさっそくキミの部屋を作らせよう」
「ええ? 本当ですか?」
「もちろんだとも。数日のうちにキミは私の妻となるのだ」
私の人生の最良の日。ルイス様にプロポーズされちゃった!
「アメリアは王太子殿下をどう思う?」
「どうって……。私は感心しておりません」
「やっぱりか。私もだ」
「私、前に鹿って言われて囲まれたこともあるんです」
「なにぃ? 私の大事なアメリアに。無事だったか?」
「ええ。ジェイダン伯爵さまに助けられました」
「ジェイダン……。あの老人か。アメリアにはあんなものたちが近付かないように早く迎えにこなくてはな」
「うふふ。お待ちしてます」
「まったく。あんなものが将来の国王とは世も末だ。見ていろ。アメリア」
「はい」
私はルイス様を執務室に見送った後、有頂天で踊りながら王宮の掃除をした。
すると、廊下の角から突然人が出て来てぶつかって廊下に倒れてしまった。
「ん。大丈夫か? 手を貸してやろう。さぁ掴まれ」
その人は私に手を伸ばした。
「あ、ありがとうございます……」
優しく手を握られて引き寄せられてみると、そこには王太子さま。以前にも増してヒドい格好。髪は頭頂に無造作にまとめて、サラシはしているものの上半身はほぼ裸。目のやり場に困る。腰にはベルトではなく荒縄で衣服を締めている。
上品な王宮に慣れた私は気を失いそうになった。
私が卒倒しそうになると、王太子さまは抱き抱えて顔を近づけてきた。全くの逆効果。離れたいのに。
「どうした。お前はたしかアメリアといったな。ぼうっとしていたようだが、なにか失敗でもしたか? だったら余にいうといい」
なーにをそんな格好で男らしいこと言っちゃって。あなたが好き勝手できるのも宰相さまの政治のお陰でしょうに。それにルイス様の。うふふ。
「いーえ。ご心配には及びませんわ。何かあったらルイス様にお願い致しますし」
王太子さまは目を丸くしていた。そして問いかける。
「ルイス様? アメリア。お前とルイスはどういう関係か?」
ぬぅ。下世話な人。人の恋路に顔を突っ込んでくるとは。でもピシャリと言っておいた方がよさそうだわ。
「殿下に申し上げることでもありませんが、私ルイス様に見初められましたの。私のために部屋を与えるとのことです。つまり婚約したのです」
「は、はぁ!?」
なぜか王太子さまは声を荒げた。そして私の手を強引に引く。
「何を言ってる! 私と共に来い! ルイスなどに渡すものか!!」
は、はぁ!? こっちが『はぁ』ですけど??
王太子さまは言うが早いか、私を抱き抱えると王宮の廊下を走る。
私の知らない道。薄暗くて壁に装飾もない。こんな場所、私は知らなかった。
王太子さまは私を抱いたままそこを駆け抜ける。私は何がおこっているのか、さっぱり分からず声も出せずにいたが、いつの間にか王宮を出て、荷馬車に押し込まれて、猿ぐつわを噛まされた。さらに体を縛られて身動きも出来ない。
よりによってあの王太子さまに抱き抱えられたことと、身動きを奪われたこと、いつの間にか王宮を離れていることにパニックに陥った。
王太子さまはフードを被って荷馬車を自分で御し、ある大きな邸宅の裏口から入ったのは夜になってからだった。
どこのお屋敷か分からないが、抱き抱えられて離れに入ってゆく。
そこは二階建てで部屋数もそれほどない。だけど侍女姿の少女が一人。王太子さまが入ってゆくと出迎えた。
「殿下お帰りなさいまし」
「マギー。私の将来の妃を連れて来た。世話をしろ」
マギーと言われた少女は縛られている私を見ても慌てる様子などなかった。
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