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転生の章 決戦篇

第26話 山城攻略戦

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それから1年。ボクは20歳になった。
あの砦を奪取した戦いから8年。
魔王さまの国策通り、富国強兵を勤めたこの砦は大所帯になりすぎた。
ゴブリン族、ホブゴブリン族は砦内に入れず、砦の外に新たな壁を設けて町を作ったが、そこにも入れず更にその外に野営するグループも出て来た。さながら難民のようだ。

ボクは叔父、義父、副団長たちなど主なものを集めて作戦を練った。人間の土地を奪う作戦だ。
50km先の人間の王国。この砦だってその王国のものだったのだ。
いわば彼らの前線基地。ここを取られて以来、彼らは城の周りに砦を築いて我らの侵入を防ぐ対策をしているらしい。山城が一つ、砦が二つ、本拠地の大きな城が一つある。それを襲撃するということに決めた。

この作戦を持ち込んで来たのは叔父だった。義父も交え政務室で三人頭を交え、耳打ちのような声で話し合った。

「時来たれりだ。そこを取ればかなり戦功は大きい。鬼族単独でそこまでしたものはいない。他の部族だって。ひょっとしたら団長閣下は将軍になれるかもしれん!」

そう。鬼族の生活のことを考えての土地拡張の戦ではあったが、将軍の地位!
頂けるのかもしれない。


やがて団長の号令によって、コボルド族300名、ゴブリン族1000名、ホブゴブリン族300名、オーク族500名の大軍団だ。団長補佐は叔父のゴールド参謀長。彼の軍略に並ぶものは鬼族の中にはいないだろう。
コボルド族で魔法を使えるものは100名ほどになっていた。ホブゴブリン族に攻撃力アップの魔法をかけたら百人力だ。これは期待出来る。
ボクの出陣式を妻三人と子供たち、エルフのホーリーは砦の壁に立って、手を振って見送ってくれた。

馬車に乗って敵地に侵攻した。
人間たちの防具や武器は我々のものより性能がいい。
城壁もレンガではない。
大きな岩を切り取って使用している。固すぎて破壊するには難儀する。

敵の領内に入り、先に拠点である山城と砦を落とそうということになった。
山城は攻め難い。ボクの頭では力押しの戦略しかなかったが叔父は作戦を進言してきた。

「砦はチャブチの力攻めで充分落ちよう。山城はワシと参謀長府の者たちが行って落として来る」

そう言ってクロを副官に命じ、ゴブリンの半分の部隊を率いていった。


山城に付くと叔父ゴールドは、クロを近くに呼び寄せた。

「どれ。地形を見に行こう」

叔父はまず地の利を見る。
馬を並べて山城に向かうと、びっしりと石垣で固められ、壁も高い。左右の山肌は削ってあり、山より壁に侵入するのは不可能だと分かった。
壁の中程は四角く空いており、そこから弓矢を飛ばしてくるのであろう。

「なるほどのう」

と馬首を変え陣中に戻った。そして参謀長府のゴブリンを数名呼んだ。

「これこれ、この辺に住まうものか、木こりで働いているものをさらってまいれ。殺してはならんぞ」

命じられた者たちは、ややもすると三人の木こりを連れてきた。
人間の木こりは鬼族に囲まれ生きた心地がしない顔をしていた。

「はっはっは。何も恐れることはない。正直に答えれば殺しはせん」

そう叔父ゴールドが言うと多少、安堵の表情を見せた。

「あの山城の中はどうなっておる? 兵は何人ほどだ? 侵入経路はあるか?」

質問すると、一人が手を上げながら答えた。

「へ、へぇ。あっしらは燃料の薪や弓矢の材料を売りに城に入ることは許されておりやす。壁は高く、武器や食料を保存する城でやすから大将様が何日かかろうと資材には困らぬと思いやす」
「ふむふむ。では兵糧攻めは効かぬし、力攻めではこちらに分がないということか」

「左様でございます」

クロはうなってしまった。ここにいる兵数は少なすぎる。
これではいたずらに日数だけが過ぎるだけだ。
しかし叔父は小さく笑った。それにクロは気付き質問した。

「ゴールド様。どうなされるおつもりで? 援軍を要請いたしますか?」
「どうしてだ」

「兵数が少なすぎます。侵入経路は正面の門しか無ければ無駄に兵を損失するだけです。敵は野戦には応じますまい」
「ふふふ。侵入経路は見つかったではないか」

その答えに、クロはただ首をかしげるばかりだった。

数日後。山城から黒い煙があがり、城門が開いた。そこから一気にコボルドの騎馬隊が駆込み、ゴブリンの歩兵がなだれこみ制圧した。
木こりの荷車にゴブリンを数名を忍ばせ、城中に運ばせ木こりたちが兵士の目を引いているうちに、建物に火を放ち城門を開けたのだ。
ゴールドは木こりたちに今まで通りここで鬼族相手に商売をしてもよいというお墨付きを与え利用したのだ。

「クロよ。覚えておくがいい。こうやって敵である人間を利用する手もあるということを。利害が一致すれば彼らほど利用し易いものはない」
「は、はい!」

クロは、この戦略家をとても尊敬していたが、今日見た計略に益々畏敬の念を募らせるのであった。
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