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転生の章 決戦篇

第27話 勝利をつかめ!

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叔父の山城攻略は鮮やかなものだった。
その一報を進軍の途中、早馬の報告で聞いた。
ボクは馬上で呵々大笑した。

「さすが叔父だ。最近、戦もなくてみんななまっているかもしれないと思ったがなかなかどうして。難攻不落と思われた山城をあっという間に落としてしまうとは。これ。国元のシルバー副団長にも報告せよ」

報告の使者は頷いて国元に向けて駆けて行った。


隊長のチビがボクの横に馬を並べて叔父を褒め称えた。

「さすがゴールドさまですね。ここで閣下も砦を難なく攻略し、敵の士気を奪ってしまいましょう!」

ボクは彼の鼓舞に微笑んで頷いた。
駒を進めて敵の第一の砦の前に整列した。

この砦は、我が鬼族の砦の中程度で中には街などがないような形だった。
軍事施設だ。中には宿舎の棟があり、糧秣、武器、馬などが揃えられているようた。

遠目に地形を見ると広くて深い堀があり、壁も高い。だが、叔父は力攻めでいいと言った。
ボクは戦略家ではないので、もともとそれぐらいしかできないのだが。

そう考えていると跳ね橋が『ドン!』と音を立てて落ちて堀の水が波打った。
中から一名の騎馬武者が出て来ると跳ね橋は上がり、騎馬武者一人だけ外に出て来た形だった。
彼は大声を発した。

「寄せ手の鬼族の大将に申し上げる! 私は砦を守る武官のラインホルトだ! いさぎよく一騎打ちにて勝負を決したい! もしも敗北された折には兵を引かれたし!」

との申し込みだった。ボクは思わず笑ってしまった。
体格差がありすぎるだろ。ボクに敵うと思っているのだろうか?
大棍棒をクルリと回転させる。
それに気付いた隊長のポチは馬を並べてきた。

「いけませんよ閣下。ゴールド様がそばにいたら一騎打ちなどさせません」
「そーだな」

ポチはボクが分かったようなのでホッとしたようだったが、それに不敵に笑った。

「叔父がいればな」

グルリと大棍棒を構えニコリと笑うと、ポチは大変慌てた。

「お、おい。チャブチ」

その不安そうな言葉を背に受けながら、リザードマンのゲッコウ団長からもらった巨馬をいななかせた。
馬がイイーーーーンと哭くと、ラインホルトがこちらを見る。
鬼族の軍団が二つに割れていった。

ボクはカッポカッポと馬蹄を鳴らして軍勢の中央をゆっくりと進ませた。コボルドの郷土歌を興じながら。
ラインホルトの目にはどんな風に映っただろう。
軍勢の一番後ろから整列が割れて大棍棒を引っ提げた巨躯なボクが現れるのを。
なるだけゆっくりと演出してやった。
そして彼の前に立つとラインホルトの姿はボクの影の中に入ってしまった。明らかにビビっていた。

「こ、こんなに大きなコボルドがいるなんて。……まるでブラウン将軍のような」

ボクはクスリと笑った。

「ほー。父を知っているのかね。鬼族の大将、チャブチ・ブラウン団長だ。冥土の土産に覚えておけよ」

というと、明らかに驚いていた。

「さぁ、打って来い。人間の槍がどれほどか試してみたい」

彼は覚悟を決めたようで、槍を振り上げ打ち込んできた。
それをボクは大棍棒ではじいた。

「なんだ。もっとだ。もっと打って来いよ。退屈しのぎに時間の無駄をしてやろう」

彼は必死になって槍を横薙ぎにしたり、腹部を突いたりしたがボクは全てをはじいてやった。
そして、はじく度に大棍棒の柄尻で彼の肩やら腹部やらを軽くトンと突いた。
プライドを傷つけてやったのだ。

「ふふん。どうだ。圧倒的な膂力の差があろう。打ち込んでいる間は殺さないでやるが、疲れて手を止めたらお前の死ぬときだと思え」

彼は汗ビッショリで、ハァハァと喘いでいた。それでも尚、突いて来た。

こんな相手でも一騎打ちは集中しなくてはならない。
しばらく暇つぶし的な一騎打ちだったが、気付くと、後ろの方からワァワァと声が聞こえた。敵の本拠地の大きな城から騎馬隊がたくさん出てきて、ボクの後ろで戦闘が発生していたのだ。

「し、しまった! ええい! かかれ! かかれぇ!」

ボクの号令によって、兵士が敵の騎馬隊に向かって動き始めた。
その時、また跳ね橋が落ちて、こちらの砦からも大勢の騎馬隊が出てきたのだ。
ラインホルトはボクのマヌケな顔を見て笑った。

「ふふ。バカめ。時間稼ぎができたわい。ブラウン将軍は我々が討ち取ったのだ。貴様も同じ運命になるがいい! 人間万歳!!」

と言って、両手を上げた後に、体力の限界か武器を放ってだらりと腕を下げた。ボクは激高してラインホルトの馬ごと大棍棒で叩き潰した。
後ろを振り返ってみると、ゴブリン兵がバタバタとやられていたが、ホブゴブリンが持ち直しているようだった。

ボクはそれを見て、ラインホルトにしてやられたこともあり、騎馬隊が出てきた落ちている跳ね橋に向かって単騎で駆けて行った。功を焦るとはこういうことかもしれない。
人間は慌てて跳ね橋を上げようとしたようだが、巨馬を飛び上がらせ跳ね橋に乗り体重で強引に下げ降ろした。
そして、砦内に斬り込みを敢行した。人間たちは恐れて、大半は本拠地の城に向かって逃げて行った。
砦は制圧した。しかし、振り返ってみるとゴブリン兵の遺体がたくさん転がっていた。

ボクは自分の胸を掻きむしった。勝ったけど辛勝というやつだ。叔父の戦ほど鮮やかではない。
軍勢を砦の中に入れ再編成をする必要があった。
叔父は山城から降りて来て、普段は怒るはずなのに「お前の一騎打ちを見たかった」とか「大将が気を病むな。」と落ち込むボクを慰めてくれたが、累々と並ぶ味方の遺骸が風で砂をかぶって消えて行くのがとても悲しかった。

それでも我々は奪った山城と砦に入り込んだ。そして義父のシルバーに宛ててゴブリン族の兵力増強の使者を飛ばした。我々にとってゴブリン族が減ることは大変痛いのだ。小柄で機動力がある。爪を使って城中に上ることだってできる。

義父ならすぐに兵をまとめて送ってくるだろう。ひょっとすると彼自身がこちらに来てくれるかもしれない。彼はボクなんかよりも戦術のプロだ。これで少し楽になるかも知れないとホッと一息ついた。
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