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転生の章 チャブチ篇

第40話 一騎打ち

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ボクの怪力は敵も知っているようで姿をみるなり逃げ出した。
ボクは彼らを挑発した。

「はっはっはっは。人間の中には命を惜しむものばかりだ。我々鬼族は名を惜しむがのーーーー!」

その声を聞いて、三騎が馬を返してこちらにやってきた。
武に自信があるのか、プライドが高すぎるのか。
思わず噴いてしまうと、それも彼らを刺激したようだった。

「コボルド如きが!」
「化け物め! 我々が相手する!」

息巻いて剣を抜き槍を構えてきた。
だが、ボクの大棍棒とはリーチが違いすぎる。
懐に入られても回転させて柄尻で突いて射程距離内に出すことが出来る。彼らに勝ち目は無いのだ。

「ほ。ほう。人間の中にも気骨があるものがいると見える。私は総大将のブラウン団長だ。討ち取って名を上げるといい。三人まとめてかかってこい!」

うなると、三人はそれぞれ武器を構えて攻撃してきた。それぞれ、スキを見計らって突いて来る。
……なるほど、なるほど。戻ってくるだけのことはある。

だが、まだまだだ。
突かれた槍を脇腹と腕で挟み込み、その槍を持っている人間ごと振り回すと他の二人に当たり、落馬した。
そして槍を上に上げると持っていた人間は宙づりになってしまった。それを振り回し人間を振り払うと荒野にドンと落ちた。そこに彼の槍を「そら返す」と放り投げると串刺しになった。

驚いた残った二人は慌てて馬に乗り、手綱を引いて馬を返して城内に逃げ込もうとしたが、ボクはあぶみをポンと蹴って馬を走らせた。

「待て待て。オマエのオヤジは逃げることばかり教えたのか?」

だが人間は聞きもせず城門に命からがら逃げようとする。
追うと追われる。
これは追われるものの方が弱いのだ。背中を見せるのはほぼ負けが確定する。
ボクの身長は3メートルあり、体重だって200キロはゆうに越える。
馬は潰れてしまうと思うだろ?
だがボクの馬はリザードマンのゲッコウ団長から貰った巨馬だ。ボクを乗せて駆けるなど、なんてことはない。
逃げた二人にあっという間に追い付いて、背中に大棍棒を振り下ろして打ち殺してやった。

「どうだ!!」

城壁を見上げると、そこには人間の野次馬がこの一騎打ちを見物していたのだ。そいつらはボクに顔を覚えられまいとすぐに乗り出している身を引っ込めた。
その様子が面白くフフンと笑った。
すると、カッカ、カッカと馬蹄の音がする。
そちらを見ると、装飾された白銀の鎧に赤マントの美丈夫な人間が近づいてきた。

彼はボクの前まで来ると、馬の手綱を引いた。
必然的に馬が横を向く。
パサッと棚引く赤マント。
そこには骨だけになった大首がぶら下がっていた。

「?????」

訳が分からない。
だがこの込み上げてくる異常な憎しみはなんだ?
落ち着いていれない。大棍棒を音が鳴るほど握りしめていた。

その男は、マントの首を指した。

「一度、貴様ほどのコボルドを討ち取ったことがある。それがこれだ。ブラウン将軍。名前ぐらいは聞き覚えがあろう」

ボクの体は沸騰するように熱くなった。
体中の毛が逆立った。
今まで一騎打ちで負かした二人の将校じゃない!
こいつが仇だ!
父が!
そこに父の首がある!
大こん棒を振り上げて彼に対して襲いかかった!

まるでスローモーションのようだ。
城壁から彼の名前なんだろう。

「アブラム! アブラム!」
「鬼殺しのアブラム!」

歓声と応援する声が聞こえる。
義父シルバーの声も聞こえる。

「馬鹿者! 落ち着け!」

だが落ち着いている。
全てが聞こえるのだ。
こんなに冷静なのは初めてかもしれない。


お か し い。

な ん だ こ の 感 覚 は。


テンポが違う。
早い。
動いてるのはボクじゃないぞ?
ウソだろ?


チャ ブ チ の 意 識 だ。


あったのか。
そこにいたのか。
ずっと一緒にいたんだ。
チャブチの意識は残っていたんだ。

チャブチの意識は、大棍棒を横薙ぎにして彼の長剣を打ち払う。
スピードが全然ボクと違う。
打ち払われて仇アブラムの体は馬ごとふらついた。

しかし、アブラムは体勢を立て直して片手に構えた長剣で数回チャブチに斬り込んだ。
大棍棒を大薙ぎにしたので、スキができたのだ。
だがチャブチは大棍棒の柄尻えじりで彼の鎧をトンと突いて、間合い取った。

チャブチの大棍棒の間合いに遠ざけたのだ。
そこに大棍棒を数度振り下ろすと、彼は長剣で避けたが馬上で、『グ!』と唸った。


チャブチは大声たいせいを上げた。

「覚悟ォ!」

そして、大棍棒を上段に振り上げる。
あれが打ち下ろされれば馬ごと叩き潰してしまうだろう。

しかし、アブラムのもう片手に光が見える。
あれは魔法だ。
父と同じく魔法で焼き殺すつもりなんだろう。
アブラムはその手を素早く前に出し叫んだ!

「ブレイムゲイ……!」
「マグメストーーーン!」

ボクの方が一歩早かった。
チャブチではなく、ボクが魔法の言葉を叫んだのだ。
切り札だ。使おうとしている魔法を消し飛ばしてしまう魔法。

この日のためにホーリーに何十回も何百回も練習させてもらった魔法。

彼の手のひらで光っていた物はボクの言葉に包まれ、地面にゴトリと音を立てて落ち、やがて消えた。
アブラムは驚いて戸惑った。

「コボルドが魔法を使うなん……」

戦場でそんな戸惑いは命取りだ。
今度はボクが大声を発した。

「覚悟ォーーーー!!」

横薙ぎにした大棍棒は彼の横面に当たり、無様にもトマトのようになってつぶれた。

ボクは馬から下りてその人間の遺骸をつかみ、城壁にいる人間たちに向かい高らかに上げながら叫んだ。

「総大将チャブチ・ブラウンが、父セピアン・ブラウンの仇、敵将アブラムを討ち取った!」

ボクは泣いていた。悲しいことなんてない。
自らの手で……。いや、ボクとチャブチの二人で憎き父の仇を討ち取ったのだ。こんなに嬉しいことはなかった。

鬼族の群れから歓声が上がった。
近くで見ていた義父シルバーも感極まって泣きながら拍手をしてくれた。
ボクはそのものの赤マントを取って、父の首に触れるとポロリと口が外れて手の中に落ちた。

その時、わぁわぁわぁと城内から声が聞こえ出した。
パニックに陥った声。
ゴブリンたちの奇襲が成功したらしい。
そのうちに城内に黒い煙が上がり東西の跳ね橋が落ち、鬼族の兵士たちがなだれこみ人間はほとんどが捕虜になった。

ボクと義父は並んで城内に入って行った。
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