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転生の章 チャブチ篇

第45話 立身出世

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それから数日経って。
チャブチは非番で子供たちと球を蹴って遊んでいた。
そこに例の三人がカジュアルな格好をして釣り竿を持って迎えに来た。
大人のレジャーだ。
チャブチもすぐに近くに置いておいた釣り道具を取った。そこには魚を入れるための箱があるが、中身は酒瓶が数本。
彼は舌舐めずりをしてそれをとった。
そこにピンクが出て来て見送ってくれた。

「団長閣下。気を付けて下さいね。平和になったとは言え、あなたの高貴な身を狙う不埒者はいないとは限りません」
「大丈夫だ。腕の立つものが三人もいるもの」

そう三人に視線を送る。

「おいおい。チャブチ。君ほど腕が立つものがいるかよ」

彼らは笑い合い、歩き出そうとすると、そこに義父シルバーが走ってきてすぐに庁舎に来るようにと言った。
義父自らとは余程のことに違いない。
急いで四人で行ってみると、王都より使者が来ているとのことだった。
チャブチは自分の執務室に急いで入り、ロッカーから団長の制服をとって着用し、使者の下座に片膝を付いて拝礼した。

「魔王様においてはつつがなきことお慶び申し上げます。本日はこのブラウンめをお召しとか? 一体何用にございましょう」
「喜びたまえ。ブラウン団長。今回の働き、魔王様は大変お喜びになり彼をいつまでも団長の地位に置いていたのは自分の不明だとお嘆き遊ばれた」

まさかこれは!
意識だけの存在となったボクも分かった。
出世だ。悲願の将軍の地位なのだろう!
意識だけとなっても心の中でガッツポーズをとった。

「そこで、私を使わし彼のものを「東の都督」に任命せよとのみことのりだ。」

気持ちがしぼんでしまった。
将軍でなかったからだ。
将軍と言う言葉を待っていただけに落胆は大きかった。

……。
え? と、都督? 東の都督??

「前都督は、新たに大都督の地位に就かれ、ブラウン殿と魔族のレンボル将軍が西の都督に出世した。ブラウン都督は今後も、鬼族をまとめ、鬼族の中より将軍、団長も任命していただきたい。後ほど都で正式が任命式がある。そこで、印綬と宝杖、黄金七星章、大宝冠章の授与も行われる」

チャブチは使者の任命書をうやうやしく受け取った。
使者は続けた。

「ブラウン都督は不遇なコボルド族をここまで導いたとか。よければ今までの話しを聞かせて頂いてもよろしいか?」

チャブチは片膝をついたまま、首を横に向けてみると義父シルバーが「いいなさい」と手で合図をした。

「それでは僭越でございますが、少し昔語りをさせていただきます」
「うむ。英雄が語る人生は興味がござる。聞かせていただきましょう」

「はい。コボルド族は不運、不遇の立場に生まれ……人間にもいじめられるありさまでした。しかし、決して私、チャブチ・ブラウンは不運ではありませんでした。それは私には四人の親がいたからです。実父セピアン・ブラウンは私と言う刀身を作り、母ユキが叩いて伸ばし、叔父ゴールドが熱を持って鍛え上げました。そして、ここにいる義父シルバーが私を完全に仕上げてくれました。彼らがいなければ私はおりません。父がいないという闇夜に叔父という月が足元を照らし、義父という星が道を示してくれたのです。コボルド族も彼らがいなければここにいませんでしたでしょう。私なぞ、彼らに比べれば路傍の石のようなもの……」

その言葉に、列席するコボルド族は涙し手を打った。チャブチは、声を大にして義父シルバーの名を呼んだ。彼は、チャブチの下座に膝をついて座った。

「あなたは、ずっと私に将軍になれとおっしゃっておりました。しかし、私なんかよりもあなたのほうがずっとずっと将軍にふさわしい」

と言って、義父シルバーに将軍の位を捧げたのであった。
そして、チャブチは急ぎ彼の前に跪いた。

「ボクは愚か者故、人間を集落に引き入れ実父を殺し、身持ちの悪さで叔父を殺しました。本当は、都督の地位をもらえる者ではないのです。あなたの……。あなた達のお陰なのに。……もし、今後ボクがまた一族の秩序を乱すことがあったら義父上ちちうえ。あなたが私を殺して下さい。そしてあなたが都督になって下さい」

と言うと、シルバーはチャブチの横面に軽く拳を当てた。

「何を言う……。何を……。わしらの子を……。一族の大事な子を殺せるわけがなかろう……」

そう言って、泣きしおるチャブチの肩を抱きすくめた。

義父上ちちうえこれからもいろいろ教えて下さい。」
「もったいのうございます。都督閣下……!」

二人は大勢の前で泣きながら抱き合った。
完全に鬼族からチャブチに対するわだかまりはなくなったのだ。


後日、チャブチが都督となって初の鬼族閲兵式が行われた。
シルバー将軍、ゴブリンの団長、ホブゴブリンの団長、オークの団長。
そして、その団長を補佐するのがチビ、クロ、ポチの副団長だ。


高い閲兵台に立つと、眼下からなみいる兵士達の歓声が聞こえる。それを見下ろしクロが

「いやぁ、都督閣下。今だから申し上げますが私、あの戦が終わったら引退して、故郷の山に引っ込もうと思っておりました」
「ふふ……。キミも叔父同様気骨のある男だものな」

「御意にございます。しかし、辞めなくて良かった。見て下さい! ここからみる景色のなんと素晴らしいこと!」

そこにはたくさんの鬼族たちが万歳を叫んでいた。チャブチたち幼馴染み四人は空に向かって高らかに笑った。風が鬼族の旗をはためかせる。

その時、ボクの意識がフワリと浮き上がり、宙に浮いて行くのを感じた。四人を見下ろしている。
ボクの意識は彼チャブチの肉体から離れ……やがて……。
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