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第4話 ファーストキス

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それから二週間ばかり放課後デート。
休日はこの辺を案内するデートをした。
彼女の心の中は、オレのことが好きで一杯。
オレの心の中も同じだ。今は淳なしの生活が考えられなくなっていた。
親密になるにつれ、淳の言葉数も多くなって来た。
相変わらずたどたどしいけど、笑うようにもなって来た。
マスクはつけたままだけど。

「椎太クン、部屋で何か食べてく?」
「いいのかい。淳は料理が上手だもんな~」

一人暮らしの彼女の部屋。ここに初めて来たのは休日デートの後。
それからは毎日来てる。
この部屋って不思議なんだ。女っ気がそんなにない。というか、家具がほとんどない。
クローゼットの中の服なんかは開いてみるわけにはいかないけど、休日デートの時の服装は地味なものだった。同学年の女子が着るような明るくて派手目なものは嫌いなのかも知れない。
小さいテーブルと、二つ折りにたたまれた布団。
ベッドじゃないんだな。
その布団の盛り上がりに二人、恋人つなぎをしながら並んでよりかかる。
長い時間。それが楽しい。恋人同士ってこんな感じなんだな。

そして彼女が焼いたチョコクッキーを食べた。

「おいしいね」
「ホントだ。上手だな~」

「んふんふんふ」

可愛らしい。とってもとっても可愛らしい。
オレたちは時を忘れて手を握ったままたたまれた布団によりかかっていた。

『……キス……したい』

うん……。淳。オレも同じ気持ちだよ。

『椎太クンとキスしたい──』

オレはさりげなく淳の肩に手を回した。
そして顔を近づける。

淳は少しだけ顔を背ける。
赤い顔をしながら。
拒否られたって普通なら思うだろう。だけど彼女の心の中はこんな感じ。

『やんやん。椎太クンもキスしたいの? 同じー! 同じ気持ちー! でもすんなり受け入れちゃったらはしたないと思われちゃうかな……。誰でも簡単にキスする女だって思われちゃうかな? 心配しないでー! 椎太クンだけだよー! 淳初めてのキスだよー! 椎太クンにあげたいんだから。でも恥ずかしいよぉぅ。キスしたら椎太クン、その後どうするの? もっと恋のステージ進めちゃうの? やーん。でもでもその辺はお任せしちゃいます。怖いけど……』

なんて可愛いやつ。大丈夫。オレは紳士ですよ。
そんなにステージ進めません。ワープゾーンは使わないで一つずつクリアしてくタイプなんで。

彼女のマスクを外した。初めて見る、淳の顔。
今までそんなことしたことなかったから。
でも実際には顔を近づけ過ぎてよくは見えなかった。
そのまま、淳にキスをする。

キスを──。

なんてすごい。
ただ唇を合わせるだけなのに、この衝撃は。
淳の鼓動が聞こえるようだ。
彼女の心の声が止まる──。

無心ってやつだな。
キスってすげぇ。



ん?

なんだ?

今までは、その時に思っている言葉しか聞こえてこなかったけど、キスすると違う。
なにか騒がしい、嬉しいって気持ちをくぐって、一階層下の心の声が聞こえる。
わずかだけど──。

淳。淳。君の心の中の言葉をもっと聞かせてくれ。

『椎太クン』

うん。

『椎太クン──』

うん、うん。

『 めんね。──ゴメンね』

思わず、唇を離した。
キョトンとした淳の顔。
だがニッコリと笑ってオレの胸に抱きついて来た。

『椎太クンのキス、甘ーい。初めてのキスは甘い味と香りでした──』

いや、チョコクッキー味だろ。
でも、なんの『ゴメンね』なんだ?
なんの……。


マスクを初めてとった淳と、顔を並べて二人のスマホで撮影し合った。
淳の顔を収めていたいのに、撮影すると彼女は口を手で隠してしまう。

「あ~。淳。こら、こらぁ~」
「だってぇ。恥ずかしいもん」

そう言って淳はまたマスクをしてしまった。
はじめてみたけど、正直可愛いってのは恋人の欲目かな?

幸せだ。幸せ。
冴えない人生にようやく光りが射したようで──。

キスをしたその日。
なんとなく男としてもレベルがあがったようだ。
そんな思いを抱きながら家へと帰った。
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