これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範

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恐怖旅館

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「知ってっか? 恐怖旅館」

 夏休み前に、友人が話しかけて来た。

「はぁ? また恐怖スポットかぁ?」

「なになに?」

 寄って来る女子二人。
 いつも集まる4人。また、他から見ればくだらないミステリー話しの始まり。
 気の合う友人と言うのはいいもんだ。
 去年の大学一年の時の夏休みは恐怖トンネルだったっけ。
 ま、今年の夏休みにちょうどいいと思い行くことにした。

「なんでも昭和の時代に打ち捨てられた旅館があって、怪奇現象がおきるんだと」

 ということ。
 夏休みになった。みんなでめいめいテントやらランプやら持合い、待ち合わせ場所の駅に集合した。

「これも持って来た」
「へー。線香」

「うん。お弔いが必要ならしようと思って」
「なるほどね」

 電車にゆられて、山の中のA県に入る。
 田舎の駅に止まり、さらにバスに揺られて山の奥に。

「よし降りるぞ」

 バスからおりて、泥の混じった舗装された道を歩く。

「ありゃ。お前さんがた、キャンプ地にいくんじゃないのかえ?」

 一緒に降りたおばあさんが話しかけて来た。
 キャンプ地はバス停を降りた林道を行く。オレたちは山の上を目指していた。

「いえ、こっちの方に」
「あら~。そっちにはなにもありゃせんぞ? ウチは、こっちの右の山の上だでわしゃこっちにいくけど」

「あ~、大丈夫です~。ありがとうございます。おばーちゃん」
「ま~、クマとかはでりゃせんけど、ハチには注意なされよ~?」

 気の良いおばあさんと別れ、また歩き出す。
 ジージーとアブラゼミの鳴く声がいっそう熱さを感じる。

「この熱さでテントで寝るの? 女の子もいるのに?」
「まぁまぁ。恐怖で涼しくなるよ~」

 途中、舗装された道が途切れる。
 土砂崩れの跡だ。
 岩や大木が混じっている。

 車で来たらここでアウトだろう。
 その土砂崩れの跡の上を踏みしめて歩いてゆく。

 この先には人家がないんだろう。
 舗装された道にはアスファルトをつきやぶった草が生えていた。

「おいおい。大丈夫かなぁ」

 ブツブツいいながら枯れ草だらけの道を進む。

 ふと、パァッと開け旅館が見えて来た。
 人の気配もある。

 駐車場に車はないが、キレイに掃き掃除されていた。

「あれ? おかしいなぁ?」
「ここなの?」

「ああ、ネットでプリントしたマップには──。ホラ、な? ここだろ?」

 みんなで指差されたスマホの画面を見てみる。たしかにここだ。

 古い作りだ。昭和というか、大正というか。
 そんな空気をかもしだしてる。
 空調とかも当然整備されてないんだろ。

 そう思いながら、入ってみる。

「ごめんください」
「あ、はーーーい」

 パタパタと足音を立てて古い着物を着た、女将さんがでてきた。

「あら! お客さんなんて珍しい。ささ、どうぞぉ。お上がり下さい」

 気のいい女将さんだ。みんな笑顔になって、靴を脱いで旅館へと上がった。
 ギィギィと黒い床が音をならす。

「ゴメンナサイ。古くってねぇ」
「いいえ、そんな!」

 案内された客室は、古くさくて、カビの匂いがした。
 女将さんは、窓をあけて、天井に設置されている扇風機を回した。

「お風呂は、露天風呂になってます。1階にあります。お食事は、何時?? 18時から。こちらも1階の宴会場で」

 そして、世間話。

「最近はねぇ。変なうわさでお客さんがこないんですよぉ」

 なるほど、そうか。ネットで公表されてればなぁ。
 意外と恐怖スポットっていっても、地元の人は無頓着なところの多いって聞くしなぁ。

「そうですよね。地元に帰ったら宣伝しますよ!」
「あなたたちは、何で…この旅館をお知りになったの?」

「ああネットですよ」
「ネット……」

 女将さんは少しばかり変な顔をした。
 そして、しばらく話しをして、出て行った。

 オレたちは浴衣に着替えて露天風呂に。
 最高だ。なにが恐怖の旅館だ。
 この風光明媚な景色と言ったら。

「いいとこじゃないか」
「ホントだよなぁ」

 青い山が夕日で赤く染まる。
 なんという感動的。


 そして夕食。
 海のもの、山のもののごちそうが並ぶ。

「すごいご馳走ですね!」

 女将さんは給仕をしながら微笑んだ。

「ええ、山の下のお店から急遽運んでもらいましたの!」
「へぇぇ~~」

 山海の珍味に舌鼓。どれをとっても不快感などない。
 すばらしいところじゃないか。


 夜になった。動物達の鳴き声が田舎だと言うことを知らせる。
 フクロウのホウホウという声が近くから聞こえる。

「ちょっぴり怖いね。街灯も見えないし」
「そうだなぁ。灯りがついてるのはここだけだなぁ」

「あたし、ちょっとトイレ」

 おもむろに立ち上がりトイレに向かう。
 古い作りなので、部屋の中にトイレがない。
 廊下にでて、階段を下り、1階にある共同のトイレだけなのだ。

 1人でていく。

 なにも話さないと、夜の静けさが少し怖い。

 トトトトトと静かに走る音。
 トイレに行った女の子が戻って来て、ドアを静かにしめた。

「ハァハァハァ」

「ど、どした?」

 手招きしてみんなを集める。

「なに?」


「ここ……普通じゃない。おかしいって」


「な、なんで??」


 ゴクリ。


 みんな、息を飲んだ。


























「トイレが……水洗じゃない!」












 みんなで大爆笑!

「そんな、古いんだから当たり前だろ~??」
「だって、だってさぁ~~。初めて見たんだもん。説明もなかったし」

「プフ、プフフ。そんなんでビックリしたのか~」
「いいよぉ……。明日の駅までガマンする」

「オイオイ、そんなに……大丈夫か?」

 そんな感じで夜は更けて行った。
 オレたちは普通にトイレを利用した。


 朝。目が覚めるとそこは野っ原。

 というわけでもなく、布団の上。

 二階から一階におりて、朝食をとる。
 これもまた珍味だった。

 女将さんが

「それじゃぁ、道中お気をつけて」
「あ、はーい。悪いウワサ、消えるといいですねぇ」

「ホントですねぇ」

 手を振りながら旅館を後にした。
 昨日来た道を帰る。
 ガサガサと草をかき分けて。

「しっかし、やっぱ、ネットだねぇ」
「ホントだな。ネットの害を見たわ」

「でもさぁ。オレが見たサイトでは暗い旅館の画像が上がってたんだぞ?」
「そーなの? 信用できない」

「いや、ホント。あの床板だってボロボロだったし。蜘蛛の巣だらけの屋敷だったんだけどなぁ……」
「へぇ。ネットに踊らせられ君」

「なんだよぉ、もう」
「でも料理もおいしかったねぇ!」

「そうだよなぁ。山の下から持って来てもらったって言ってたなぁ」


 そう言いながら、オレたちは立ちすくんだ。





















「──どうやって?」














 オレたちの足跡だけがついた、この一本道にかかる土砂崩れの跡を見ながらつぶやいた。
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