右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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カエルの騎士

第2話 満月の光

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グレイブはヒポグリフの死体を引いている。
これを伯爵家にまで持っていこうという算段だ。
証拠を見せてその場で賞金を貰おうという腹だった。

右手にはヒポグリフを引くための鉄鎖。そして道具袋の紐。
それらを肩にかけ、左手には例のバケツ。

だが、そのバケツの中は今は空だった。
その代わり彼の隣には薄絹をまとった女性。

歳は10代半ばか後半。
金髪で青い目。大きな目には長いまつげが揺れている。その目には気品があふれ、大望を抱いているようにも見える。
高い鼻の下には寒くもないのに紫色の唇。その唇が開く。

「グレイブ。夜に伯爵家を訪れるのは失礼よ?」
「私もそう思っておりました」

「今日はこの辺で野宿しましょうよ」
「姫がそう仰せなら」

グレイブは獲物の体を道の端に寄せ、辺りを確認すると女性の体に小枝や木の葉すらも当たらせまいとしっかりと守りながら藪の中に入り、一際広い場所を見つけると道具袋から分厚い皮の敷物を出し、それを地面に敷いた。
上空には木々の枝葉がなく、大きな月がそこに光を降り注いげていた。

グレイブは女性にうやうやしく頭を下げながら

「姫。準備が整いました」

と言うと女性は笑いながら

「よろしい」

と言って腰を振りながら敷物に向かう。
彼女が敷物に座るか座らないうちにグレイブはその細い腰を抱きすくめ、激しい口づけをした。
熱く熱く互いの唇を吸い続ける。

その間にグレイブは胸にある鎧の留め紐を引くときつく纏われていた鎧は緩み簡単に地面に落ちた。
そして彼女の肩に手を伸ばし薄絹を下げてゆく。
彼女の胸があらわになる頃、彼は自分の皮ズボンをじれったく下げ足首で絡まってなかなか脱げない皮ズボンを片足を降り続けて地面に叩き付けた。

「姫。30日ぶりです……」
「ええ。早う……。月が隠れぬうちに……」

グレイブは欲望のままに彼女に下がる熟れた果実に片手を添え、もう片方にむしゃぶりついた。

「ああ! 姫! 私は……私はぁ……」
「グレイブ。いいのよ。分かってます。さあこの冷えた体にあなたの体温を分けて頂戴……」

「……はい。仰せのままに」

グレイブはどういう訳か、その女性をバケツの中のカエル同様に、うやうやしく姫と呼び、丁重に扱っていた。

だが今だけは別だ。
彼女を激しく壊しそうに抱きしめ、体をぶつけていた。
彼女の方でもその度に嬌声を上げていた。

一度だけではない。何度も何度も時間がないように互いを求め合っていた。

やがて二人はいつしか眠っていた。朝になってグレイブは目を覚ました。女性の姿はいつの間にかなくなっており、その場所にはあのカエル。グレイブは隣に寝ている手のひら大のカエルを丁重に左手に抱きしめ、バケツの中に入れようとした。
だがバケツの中には藪の樹木の木の葉でいっぱいになっている。それは昨晩の二人の夜の激しさを物語っていた。

「いつものこととは言え、まるで大風か地震が起こったようだな。姫にまた咎められそうだ。さて姫。沢から新しい水を汲んできましょう」

そう言ってグレイブは沢を探して新しい水を汲み、バケツの中にカエルを丁重に入れた。

乾いたカエルの体に新しい水が染み込んで行く。カエルは嬉しそうに、ピンピンと後ろ足を伸ばしてバケツの中を泳ぎ始めた。

グレイブは小さな宿営地に戻り火をおこすと、ヒポグリフの足の肉を切り抜いて串を刺して火にかけた。

うまそうな焼き肉の匂いが辺りを充満させる。

その間に彼は道具袋から小さい銀の食器を出し、その食器の前にハンカチ大の敷物をひいた。
そして焼けた上質なところの肉を小さく小さくちぎり銀の皿に置いて行く。その中の一片を口に入れ丹念に毒味をした。支度が終わるとバケツの中からカエルを取り出し

「さぁ姫。朝食の支度が出来ました。ヒポグリフのモモ肉の炙り焼き。ドライフルーツ添えでございます。焼き加減はウェルダン……と言ったところ」

敷物の上に置かれたカエルは舌を伸ばして肉を口に入れ味わうように食べ始めた。グレイブはその姿を微笑ましく見ていた。
グレイブは残りの肉に食らいつき、カエルと食事を共にした。

やがて食事も終わり、グレイブはカエルをバケツの中に入れた。
そしてヒポグリフの体をつないだ鎖を引き、伯爵家に向かって行った。
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