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カエルの騎士
第9話 月の石の亡霊
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「おいでなすったな!」
グレイブは跳ね起きて、カエル姫のバケツの蓋を開けた。
「姫。出ましたよ。亡霊です!」
カエル姫は驚いてグレイブの鎧に貼り付き、あっという間に後ろに回った。
それはまるでオバケが怖い子どものようだった。
亡霊らしき者は、アテが外れたようにガッカリした顔をして、崩れた城の塔の下まで来るとグレイブの方に右手を上げてフラフラと腕を上げ下げしながら指差した。
グレイブはバケツを下げながらそれに近づいた。
「キミはもうこの世の者ではない。何故に迷いながらこの地に留まるのか?」
しかし、そのものは何も語らない。ただ腕を揺さぶりながらグレイブの方を指差すばかり。
だがよく見ると、グレイブの方ではなかった。彼が身をひねると、どうやら二人の宿営地のようだった。
「ふぅん。あそこにキミが埋まっているのかな? それを知らせないと成仏できないのか?」
しかし、やはり何も答えない。よく見ると口がブツブツと動いている。
グレイブはその口元に近づいてみた。カエル姫は恐ろしいのか鎧に吸盤の跡がつくほどしがみついていた。
グレイブの耳に亡霊の声が小さく聞こえてくる。
「ラディ……ラディ……。帰りを待ってる……」
「ラディ? 男の名前だな。恋人か? 夫か? 帰ってこなかったのか。それは辛かったろうな。オレにも妻がいるが一時も離れたくないからな。」
背中のカエル、デラエア王女は少しムッとした。自分に対しては“オレ”なんて絶対言わない。“わたし”、“わたくし”、“わたくしめ”だ。それが始めて会った女に“オレ”?
ずいぶんフランクに話すじゃない。
と少しばかり嫉妬したが、その後の“一時も離れたくない”で照れて前足で顔を押さえようとして鎧から落ちそうになり、慌ててしがみつき直した。
「ふぅん。会いたいだろうな……。ここは城だし……。伝令か、兵士か……何かだったのかな? 離れ離れになったのか? それともここで戦死してしまったのか?」
すると、亡霊は体を反転させて町の方を指差した。先ほどまでいた水の町だ。
「ラディはあの町に行ったのか。ふうん。じゃあ手掛かりがつかめそうだな。分かった。ラディの情報を集めてきてやろう」
そう言うと、亡霊は始めてグレイブの顔をまともに見た。
「ほ ん と う に?」
「本当だとも。キミの名前は?」
「チェ イ リ ー」
「チェイリーだな。少しばかり昔の名前か。分かった」
亡霊のチェイリーは言い終わるとフッと消えてしまった。
カエルのデラエア王女は前に回ってグレイブの顔に貼り付いてガタガタ震えた。
「ちょ! 姫! 前が見えませんよ!」
グレイブは顔からカエル姫をはがすと鎧の前で抱きしめた。
「スイマセン。怖かったのですね。でも、もう大丈夫ですよ」
カエル姫は、鎧に顔をうずめて片手でピチピチと鎧を叩いた。
その姿がまたなんとも可愛らしくて、グレイブは抱きしめたくなったが、壊してしまいそうなのでその気持ちを抑えた。
その晩はそこに野宿した。バケツの中のカエル姫は亡霊が怖くてまんじりともしなかったが、疲れたグレイブの寝息を聞いているうちにいつしか眠っていた。
朝起きて準備を整えると、グレイブはまた水の町に戻った。そしてあのホテルに。ボーイはまた最上階の部屋をとってもらえると思い顔がニヤけた。だが、グレイブがとったのは安い部屋。満月の日は程遠い。自分の身を休めるだけなら安い部屋で充分なのだ。だが食事だけは高級なものを二食分とった。
そして浴槽。各部屋には浴室はあっても体を拭く場所なだけだ。浴槽は贅沢なものだ。ボーイ数人がかりで水やお湯を運ばなくてはならない。
それがために高いオプション設定になっている。もっともこの水の町では他の町よりも安い目玉のオプションだ。
部屋に案内され、いらない荷物を置くと浴槽にぬるま湯を入れるように指示し部屋を出た。情報を集めるためだ。
手っ取り早くボーイに聞いた。
「実は昨晩、君に聞いた古城に行ってね。亡霊と会って来た。」
それを聞くとボーイは目をむいて身をすくめガタガタ震えた。
「いや、なにも恐れることはない。成仏させてやる方法がある。」
「そ そ そ そ そ」
「それは?」
「そうそうそうです」
「何でも恋人がいたらしい。名前をラディという。聞いたことはないか?」
「あ あ あ あ あ」
「あるのか?」
ボーイは、カウンターに置いてある客用の水差しからコップに水を入れて一息で飲んだ。
「そ、そりゃぁ聞いたことはあります。ありふれた男性名ですし……」
「古い言い伝えか何かでは?」
「さて知りません。でも古い言い伝えならば老人たちなら知ってるのかも……」
「老人たちとは?」
ボーイは水辺の東屋を指差した。
そこでは、数人の男女の老人たちがお菓子を食べながら談笑していた。
昔から変わらない風景だ。若者が働き、老人たちはゆったりとした余生を送る。
グレイブは昔から見る風景に思わず微笑んだ。まともに年を取っていれば自分も姫とともにあそこにいたのかもしれない。そんな思いを老人たちに重ねた。
「町の老人たちですよ。あの中に古い話しを知っている人がいるのかも」
「そうか。ありがとう」
そう言ってボーイにいくらかチップを渡した。
グレイブはバケツを下げて老人たちに近づいて行った。
「こんにちわ」
その言葉に全員がグレイブを見る。近くにいた老貴人が座ることを進める。
「旅人だね。どこからきなすった?」
「さて、もう旅だってずいぶん経ちます。もう忘れてしまいました」
それに老人たちはドッと笑う。
「忘れるとはいいことだ。昔から言うだろ? ……それも忘れちまったが」
とにかくそんな調子で新しい客に老人たちは沸いた。
古い冗談もグレイブは楽しくものだった。いつもカエル姫と一緒だが、話すと言うことが余りないのだ。
しばらく老人たちの話に耳を傾けて笑い合っていた。
グレイブは跳ね起きて、カエル姫のバケツの蓋を開けた。
「姫。出ましたよ。亡霊です!」
カエル姫は驚いてグレイブの鎧に貼り付き、あっという間に後ろに回った。
それはまるでオバケが怖い子どものようだった。
亡霊らしき者は、アテが外れたようにガッカリした顔をして、崩れた城の塔の下まで来るとグレイブの方に右手を上げてフラフラと腕を上げ下げしながら指差した。
グレイブはバケツを下げながらそれに近づいた。
「キミはもうこの世の者ではない。何故に迷いながらこの地に留まるのか?」
しかし、そのものは何も語らない。ただ腕を揺さぶりながらグレイブの方を指差すばかり。
だがよく見ると、グレイブの方ではなかった。彼が身をひねると、どうやら二人の宿営地のようだった。
「ふぅん。あそこにキミが埋まっているのかな? それを知らせないと成仏できないのか?」
しかし、やはり何も答えない。よく見ると口がブツブツと動いている。
グレイブはその口元に近づいてみた。カエル姫は恐ろしいのか鎧に吸盤の跡がつくほどしがみついていた。
グレイブの耳に亡霊の声が小さく聞こえてくる。
「ラディ……ラディ……。帰りを待ってる……」
「ラディ? 男の名前だな。恋人か? 夫か? 帰ってこなかったのか。それは辛かったろうな。オレにも妻がいるが一時も離れたくないからな。」
背中のカエル、デラエア王女は少しムッとした。自分に対しては“オレ”なんて絶対言わない。“わたし”、“わたくし”、“わたくしめ”だ。それが始めて会った女に“オレ”?
ずいぶんフランクに話すじゃない。
と少しばかり嫉妬したが、その後の“一時も離れたくない”で照れて前足で顔を押さえようとして鎧から落ちそうになり、慌ててしがみつき直した。
「ふぅん。会いたいだろうな……。ここは城だし……。伝令か、兵士か……何かだったのかな? 離れ離れになったのか? それともここで戦死してしまったのか?」
すると、亡霊は体を反転させて町の方を指差した。先ほどまでいた水の町だ。
「ラディはあの町に行ったのか。ふうん。じゃあ手掛かりがつかめそうだな。分かった。ラディの情報を集めてきてやろう」
そう言うと、亡霊は始めてグレイブの顔をまともに見た。
「ほ ん と う に?」
「本当だとも。キミの名前は?」
「チェ イ リ ー」
「チェイリーだな。少しばかり昔の名前か。分かった」
亡霊のチェイリーは言い終わるとフッと消えてしまった。
カエルのデラエア王女は前に回ってグレイブの顔に貼り付いてガタガタ震えた。
「ちょ! 姫! 前が見えませんよ!」
グレイブは顔からカエル姫をはがすと鎧の前で抱きしめた。
「スイマセン。怖かったのですね。でも、もう大丈夫ですよ」
カエル姫は、鎧に顔をうずめて片手でピチピチと鎧を叩いた。
その姿がまたなんとも可愛らしくて、グレイブは抱きしめたくなったが、壊してしまいそうなのでその気持ちを抑えた。
その晩はそこに野宿した。バケツの中のカエル姫は亡霊が怖くてまんじりともしなかったが、疲れたグレイブの寝息を聞いているうちにいつしか眠っていた。
朝起きて準備を整えると、グレイブはまた水の町に戻った。そしてあのホテルに。ボーイはまた最上階の部屋をとってもらえると思い顔がニヤけた。だが、グレイブがとったのは安い部屋。満月の日は程遠い。自分の身を休めるだけなら安い部屋で充分なのだ。だが食事だけは高級なものを二食分とった。
そして浴槽。各部屋には浴室はあっても体を拭く場所なだけだ。浴槽は贅沢なものだ。ボーイ数人がかりで水やお湯を運ばなくてはならない。
それがために高いオプション設定になっている。もっともこの水の町では他の町よりも安い目玉のオプションだ。
部屋に案内され、いらない荷物を置くと浴槽にぬるま湯を入れるように指示し部屋を出た。情報を集めるためだ。
手っ取り早くボーイに聞いた。
「実は昨晩、君に聞いた古城に行ってね。亡霊と会って来た。」
それを聞くとボーイは目をむいて身をすくめガタガタ震えた。
「いや、なにも恐れることはない。成仏させてやる方法がある。」
「そ そ そ そ そ」
「それは?」
「そうそうそうです」
「何でも恋人がいたらしい。名前をラディという。聞いたことはないか?」
「あ あ あ あ あ」
「あるのか?」
ボーイは、カウンターに置いてある客用の水差しからコップに水を入れて一息で飲んだ。
「そ、そりゃぁ聞いたことはあります。ありふれた男性名ですし……」
「古い言い伝えか何かでは?」
「さて知りません。でも古い言い伝えならば老人たちなら知ってるのかも……」
「老人たちとは?」
ボーイは水辺の東屋を指差した。
そこでは、数人の男女の老人たちがお菓子を食べながら談笑していた。
昔から変わらない風景だ。若者が働き、老人たちはゆったりとした余生を送る。
グレイブは昔から見る風景に思わず微笑んだ。まともに年を取っていれば自分も姫とともにあそこにいたのかもしれない。そんな思いを老人たちに重ねた。
「町の老人たちですよ。あの中に古い話しを知っている人がいるのかも」
「そうか。ありがとう」
そう言ってボーイにいくらかチップを渡した。
グレイブはバケツを下げて老人たちに近づいて行った。
「こんにちわ」
その言葉に全員がグレイブを見る。近くにいた老貴人が座ることを進める。
「旅人だね。どこからきなすった?」
「さて、もう旅だってずいぶん経ちます。もう忘れてしまいました」
それに老人たちはドッと笑う。
「忘れるとはいいことだ。昔から言うだろ? ……それも忘れちまったが」
とにかくそんな調子で新しい客に老人たちは沸いた。
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しばらく老人たちの話に耳を傾けて笑い合っていた。
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