右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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カエルの騎士

第11話 月夜の死合

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夜が来た。グレイブはいつものように姫を上座に据え、敷物を引きディナーが来るのを待った。
ボーイはまたあの美しい女性に会えると思いながらドアをひねるとそこにはグレイブしかいない。
しかし、イスの上の敷物の上には少しばかり大きめのカエルがこちらを見てニコリとほほ笑んだように見えた。

ドキリ……
なぜだろう? この感覚、前にも覚えがある……。

そう思いながらもボーイは、料理をテーブルの上に並べた。

「あの……お連れ様がおられませんのに、料理を並べてよろしかったですか?」

というと、グレイブはまたいたずらっぽく笑った。

「君が会いたいマダムはここにいるじゃないか」

とカエルを指さす。カエルの姫も大きくピョーンとジャンプした。
ボーイは驚いてしまって

「失礼しました!」

と言いながら配膳台が宙に浮かぶように急いで引き上げ出て行った。
二人してそれを見て腹を抱えて大笑いした。

「ハァハァ。もう、悪趣味ですね」

そういいながらグレイブは、姫のために料理をちぎって並べた。
姫もそれを一つずつゆっくり上品に食べて行った。

食事が終わると、グレイブは今度はいつもの分厚い鎧を着用した。
腰には大剣をき、底の厚いブーツを履く。完全な戦闘スタイルだった。

ラディの亡霊は剣を構えているらしい。なにかあっては困る。

グレイブはカエル姫の入ったバケツを大きく揺さぶらないようにラディの墓へ向かった。
墓に着くと……。

まだ亡霊は出ていないようだ。
グレイブはラディの石碑の前に腰を下ろして、そこによりかかった。

鎧の音に気付いたのか、小屋のような家から男が出てきた。

「……わ……。生きてる人でしたか……。今日の夜はここは危険です。ラディ様の亡霊がでるかもしれません」

グレイブは男の方を向いて微笑んだ。

「大丈夫。その彼を待っております」
「え? ……もの好きなお方だ……。なにも恐ろしい思いをしなくてもよいと思いますが……」

「なぁに。なにも恐ろしいことなどない」

そう言いながら、グレイブはバケツの蓋を開けて、カエルの姫とともにまだ満月に近い月を眺めていた。
夜市が一体どんな雰囲気なのか。グレイブは予想だがその話をカエルの姫に語ってみせた。
カエルの姫は楽しそうにバケツのフチまで出てその話を聞いていた。

時間が経つと、怪しい雰囲気が漂って来た。時刻にすれば24時ほどだった。
すでにカエルの姫はバケツの中で眠っていた。

ボゥ……。

土饅頭の前に鎖帷子をまとった銀色の武者が前を見据えて微動だにしていない。
だがそれは人ではないとすぐに分かった。

体が透けている。向こうの景色が少しばかり見えた。

グレイブはバケツに蓋を落として、急いでそのラディらしき亡霊に近づいた。

「ラディ。君の仕事はすでに終わっている。もう迷うことは無い。愛する人は城で君を待っているぞ」

と言葉をかけると、亡霊はグレイブに目をやった。その瞬間! 手に握っている剣で襲いかかって来た。

「おっと!」

グレイブは左手の親指で大剣のツバを弾くと、スランッと音を立てて刀身が伸びて行く。

カチン

軽快な音を立てて、大剣の柄の部分がまっすぐ亡霊の剣に当たった。
亡霊は剣を弾かれてよろめいた。

「よせ! オレは敵ではない。君の恋人の使者だ!」

しかし、亡霊はまた剣を構えた。

「ふむぅ。おそらく、一騎打ちが成功せずそれが心残りなのだな。分かった。無骨ものながらお相手しよう」

そう言って、バケツを危険な場所から避けた場所に置き、自分はヒラリとラディの前に立った。

グレイブが剣を抜く。グレイブの剣の方が二倍の長さだ。
さらにバケツは置いている。本気の両手持ちだ。

亡霊は片手剣。もう片手には鉄の盾を持っている。

グレイブの大剣に月明かりが当たって亡霊を影で隠してしまうほどだった。

二人とも微動だにしない。
グレイブは両手持ち。当たれば必殺の剣だ。だが外れればそれが大きなスキとなる。
亡霊の方でもそれを狙っている。
大剣を盾でかわし、グレイブの鎧のすき間に剣をねじこむ。そうでもしなければこの強敵には勝てないだろうと思っている。

そのままで何時間経ったことだろう。亡霊に疲れがあるのだろうか?
グレイブは不老不死といえども疲れはちゃんとある。まだ睡眠もとっていない。それが弱点だ。焦りを感じたグレイブは仕掛けた。

「いやぁ!」

大剣が亡霊を襲う。思ったよりも剣速が早い。亡霊が構えた盾はわずかながらだが間に合った。
盾の上部がグレイブの大剣を避けたのだ。
亡霊は大きく踏み込み全体中をかけて、グレイブの腹部を突き刺した!

グサリ……

「お見事」

そう言ってグレイブは後ろにバタリと倒れた。

亡霊は嬉しそうにわずかにガッツポーズをとった。
そして、思いを遂げたのか体が浮いて少しずつ消えて行く。

だがグレイブはムクリと起きた。
もちろんグレイブは本気ではない。接待立合だ。しかし、本気のように見せなくては話も聞いて貰えないと思い負けたのだった。
彼に一騎打ちのわだかまりはなくなった。話すなら今だ。

「チェイリーはどうする?」

亡霊は空中で止まった。

「チェ イ リ ー?」

「そうだ。未だに城で君を待っている」

「お お そ う だ チェ イ リ ー が」

亡霊の体はみるみる空中を飛び、あっという間に西の古城に向かって行った。

「ああ! 待て! ……くそう……亡霊の相手などしたことないから勝手が分からん。追いかけるか」

グレイブはそう一人つぶやき、バケツを持って西の古城を目指して駆け出した。
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