右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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デスキング

第20話 信賞必罰

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グレイブは一つの店にひょいと首を出してみると、客が全然いないが暗い雰囲気だ。
ピンク色のランプが暗い店の中を照らし、妖しい店だとすぐに分かった。

「いらっしゃい」

中で中年の男が声をかけて来た。

「ここはどういう店だ?」
「さすれば女性を悦ばす店でございます」

「ほう」

グレイブは思うところがあって店の中に入った。
店主は思った。見事な鎧。そこから出ている服もくたびれてはいるが豪華そのもの。長旅の賞金稼ぎだろう。この町で高級な娼婦を買いに来たんだ。まさかこの店に入って裏の水路通りにたむろして男の袖を引く夜鷹ということはあるまい。
高いものを買ってくれると思い、思わず微笑んだ。

「どうやって歓心を買う?」
「さよう。貴方様のような美貌でございますれば、女性から引く手あまたでございましょう」

「まぁ、オレには妻がいるしなぁ」
「はっはっは。奥方だけ? 御冗談を。他にも愛人がおられるでしょう?」

「何を言う。無礼を言うと許さんぞ」

店主はグレイブの言葉に驚いてひれ伏した。

「失礼しました。しかし、奥方だけを愛するなど清廉なお方ですね」
「左様かのう?」

「こちらのお薬などいかがでしょうか」
「なんだそれは」

「怪しい薬ではございません。さまざまな霊薬と虎の睾丸などで作った精力剤でございます。媚薬も入っておりまして、興奮も数倍に。馬のようになりますよ。朝まで奥方を放せませんぞ」

そう言って、グレイブに流し目を送った。
グレイブは眉毛を吊り上げて怒声を発した。

「馬鹿な! オレがこんなものに頼らねばならぬ男だと思ってか!」

店主は上客そうな男を怒らせてしまったと思い、薬に手をかけた。

「し、失礼しました。これは引っ込めましょう」

しかし、グレイブはその手に己の手を乗せた。

「こ、これ。何もしまうことなどあるまい。見ればそれほど客もいないのであろう。武士の情けだ。買ってやろう」

店主はグレイブの焦り顔を見てニヤリと笑う。

「毎度ありぃ」


グレイブはその薬をこっそりと道具袋の一番取り出しやすい場所にしまいホテルを探した。
この町で一番いいホテルは、他の町の並みのホテルよりも豪華だった。窓も大きく、これならば部屋全体に満月の光が入るだろう。
おそらく、他の町から貴族なども遊びに来るのであろう。セキュリティもしっかりしており、大理石の風呂もあった。これはロマンチックな夜になりそうだとほくそ笑んだ。

グレイブは最上階のスウィートルームを取り、姫が起きる前に水浴びをすませ、豪華な私服に着替えて満月が出るのをソワソワしながら待った。

やがてカエルは眠りより目を覚ました。その頃、日も傾き始め大きな満月が空に現れ始める。
大きな窓から満月の黄色い光が降り注ぐと、カエルが美しい女性の姿に。
グレイブが待ちに待ったデラエア王女のお出ましであった。

「話せるようになってから初めて姿を取り戻せたわね。グレイブ」
「はい! お待ち申し上げておりました」

「ここから見る街の景色の見事なこと。もうすでに夜市は始まっているのかしら?」
「ええ。朝までやりますので、あせらなくても大丈夫かと」

そう言いながら、グレイブは街を眺める王女の後ろに回り肩から首を出し、頬にじっくりと口づけをした。

「先にショッピングをしたいわね」
「いえいえ。焦らなくとも。お風呂も沸かせましたし、食事の用意ももうすぐ届くことでしょうから」

「何よ。私が先に買い物を楽しみたいと言っているのに」
「いえいえ。めっそうもございません。あ! そうだった!」

グレイブはデラエア王女の瞳を見ながらステイルを呼び出し、口の中から短い鞭を取り出した。家畜を叩く用の鞭で、人にも刑罰をして用いられる。
それを跪いてデラエア王女に手渡した。

「グレイブ、先の森林に於いて、姫に不遜な振る舞いをいたしました。どうかご存分にお仕置きください」

そう言うや否や、己の下の召し物を全て脱ぎ捨て、上着も肩まで捲り上げ、上半身をベッドに倒し、膝を床について尻をデラエア王女に突き出した。

「さぁ! 姫! さぁ! さぁ!」

デラエア王女は思い出した。グレイブは魚顔になりたくはない。自分はカエルのままなのにというと、姫は別に構わないといった言葉を。それで罰を与えて欲しい。苔刑むちうちを与えて欲しいというのだ。
デラエア王女は鞭の先穂をグレイブの尻に当てると、ピクリと彼の尻が揺れた。背中にゾクゾクとした感覚が走ったのだ。

「もう、許すわよ~。ずいぶん前の話だし忘れちゃってた」
「いえ。グレイブの気が済みませぬ。どうか、どうかお仕置きを!」

「自分の良人おっとのそういう姿も見たくないしねぇ」
「あぁ~。姫ぇ~。早く、早くぅ~」

「あなたちょっとおかしいんじゃない?」

そう言って軽くピシピシと尻を叩いた。

「はひぃ。はひぃ」
「ちょ……痛み感じないんじゃなかった?」

そう。グレイブは痛みは感じない。しかし、生の喜びは感じるのだ。食事の味も感じるし、睡眠の喜びも感じる。快楽の悦びだって当然だった。
つまり、王女の鞭打ちは彼にとって快楽の悦びだったのだ。

「ああ、姫! もっと強くお仕置きください。もう二度とグレイブめが間違ったことを申さぬように」
「やだぁ……。グレイブ、変態だったのね」

「いえいえ、忠臣の鏡と申しましょうか?」

王女は思い切って鞭を振るってみた。
鞭は大きくしなり、尻から背中にかけてグレイブの身を打った。

「ああひぃ……。おおぅ。おおう……」
「だ、大丈夫?」

「ああ、もっと。もっとでございます! 苔刑は10が最低。ご苦労ではございますがどうぞ。どうぞ……」
「やだぁ。もーいーわよ」

デラエア王女は鞭を持った手をダラリとたらした。グレイブはもうお仕置きは貰えないと残念がったが、それはそれ。ベッドから跳ね起きた。

「姫! お仕置きありがとうございます!」

満面の笑みを浮かべながら半裸のグレイブはデラエア王女に抱きつこうとして来た。
すでに彼はベッドインの準備が万端のようだった。
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