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デスキング
第21話 はじめてのおつかい
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「ちょっと待って! お買い物は?」
「ああん。そんなの後、後。後でございます。さぁさぁ。臣を待たさぬは主のつとめ♡」
そう言って、彼女を抱きかかえてベッドに運ぼうとする。
「あ、ちょっとちょっと。湯浴みくらいさせてよぉ」
「ああもう! ずいぶん水の中におられたのに、まだ湯浴みがしたいのですか!」
そう言いながら、床に彼女の身を降ろし、テキパキと彼女が脱ぐのを手伝った。
やけに鼻息も荒い。王女はもう逃げられぬと覚悟を決めてグレイブに見守られながら湯の中に入った。グレイブはすかさず、薔薇の花弁を湯の中にちりばめ、小瓶に入った香料を回しながら入れた。
そしてしばらく裸のままで王女の様子を見ていたが、思い立ったようにベッドの横に急いだ。
手にかけたのは道具袋。そこに先ほど買った男性用の媚薬が入っている。
袋に入っていたのは数粒の丸薬。それを笑顔で一粒飲み込んだ。
とすんと胃袋の中に落ちて広がって行くのを感じる。
全身に熱いものが走るようだった。グレイブはベッドの上に寝転んで王女の名前を呼んだ。
「デラエア姫ぇ~。どうぞ、どうぞ、こちらにぃ~」
そう言いながらベッドに転がっていた。
デラエア王女は夫であるグレイブがひと月のこの一戦を楽しみにしていることを知っていた。
自分も嫌いではない。しかし、あのように楽しみにされていると意地悪して焦らしたくなるのだ。
ゆっくりと体を洗い、湯船から出ると、またゆっくりと体を拭いた。
デラエア王女がベッドにそっと歩みをすすめ、仕切り板から顔を出すとグレイブはベッドの上に大の字になり、大いびきで寝ていた。
そう。彼がつかまされた薬はまがい物。催淫効果ではなく、催眠効果が多く含まれる成分だったのだ。
「ちょっと。グレイブ!」
しかし、揺すられてもグレイブは起きなかった。夢の中で楽しいことをしているのだろうか?
デラエアの名前を呼びながら笑顔で眠っている。
王女は仕方なく、もう一度薄絹をまとった。
そして小さく手を叩く。
「そーだ。お買い物!」
王女はボトルからステイルを呼び出し、口の中に手を突っ込むと、小さい皮袋を取り出した。そこには二十枚ほどの大判金貨が入っていた。
「あんまりお金って分からないのよね……。これで足りるかしら。あんまり大きな袋は持てないし」
そう言って、グレイブのベルトから、何にでも化けるフオティのボトルを手に取った。そして、もう一つのボトルも万一のために引き抜いた。
「夜市は怖い場所だって言ってたから……。私に何かあったらよろしくね。用心棒さん」
そう言って、寝ているグレイブをそのままに、こっそりと部屋を出て夜市に向かって行った。
ホテルから出て行く王女。その後ろ姿を見ている者がいた。
その姿は町から見えるものは誰もいない。
ホテルの最上階。その上の屋根に腰を下ろしていた。
己が身の肩に得物である大鎌を立てかけて。
「ふーん。あれがグレイブの愛妻かぁ。あんなのは別にいいや。それよりも」
そう言って、屋根に足をかけてコウモリのようにぶら下がりグレイブの部屋を覗き込む男。
不死の刺客セイバーだった。
「なぁんだ。寝てるのかぁ。寝首をかくのはどうもなぁ。まぁ起きたところでボクに勝てるはずはないけど」
そう言って、屋根にかかっている足を軸にしてピンと体を水平に起こした。
そして、大鎌をグルリと振り回して肩に置いた。
「さぁて。グレイブが起きたら攻撃開始だ。それまでお休み」
そう言って、町の外にある森に向けて飛んで行った。
デラエア王女が夜市に向かうとその道々には怪しい姿のものが王女のほうをジロジロと見ていた。
暴力や盗みを生業としているものたちだ。美しい女が独り歩き。
世間知らずの貴族のお嬢様だろうと思い、近づいて来たのだ。
「これはこれはお嬢様。どちらに参りますんで?」
アウトローな男たち8人に囲まれたが、デラエア王女はたじろぎせずに答えた。
「夜市の方に参る。足下らに道案内を所望したい」
突然の王女の申し出。気品あふれる態度に男たちは面食らってしまった。
「後で、私の良人に礼を出させましょう。さぁ。案内しやれ」
「は、はは!」
なぜか大変恐れ入ってしまった男たち。この町の粋な男衆。いわゆるバザルっ子だった。
王女の前後に立って人を割って夜市の方へ進んで行った。
「さぁ、お嬢さん。こちらは服飾のお店です。気に入るものがありますかどうか?」
「ふぅん。なかなかいいわねぇ」
そう言いながら、デラエアは自分の時代にはなかった今のモデルであるドレスを一着手に取り身に合わせて男たちにそれを見せた。
「どうかしら?」
男たちは拍手を送った。
「お奇麗でございやす」
「そう? これで足りるかしらね?」
そう言って金の入った革袋の口を開けて男たちに見せると男たちは震えた。
「ブルブルブル! 1枚もありゃ店ごと買えやすぜ!」
そういうと、姫にもなんとなく貨幣価値が分かった。
「じゃ、このドレス5着と、カジュアルなのも欲しいわね。これとこれと……。ああんもう面倒だわ。全部ちょうだい!」
店主は腰を抜かした。まだ商売を始めたばかりで商品が全部なくなった。渡された大判金貨が1枚。5万ケラマンだ。お釣りに4万ケラマンの分の金貨を8枚。彼女はそれを手に受け取って革袋に入れた。
「なんで金貨の量が増えちゃったんだろう……。買い物って不思議ね。ねぇ。荷物はあのホテルの最上階に運んでくれないかしら?」
「へ、へぇ!」
儲けさせてくれたお礼とばかり、店主はポータを雇って店の品物を運ばせ、自らも部屋に赴く為に腰を上げた。とんでもないお大尽が町の男衆を数人引き連れて買い物をしている。夜市はとたんに騒々しくなった。
「ああん。そんなの後、後。後でございます。さぁさぁ。臣を待たさぬは主のつとめ♡」
そう言って、彼女を抱きかかえてベッドに運ぼうとする。
「あ、ちょっとちょっと。湯浴みくらいさせてよぉ」
「ああもう! ずいぶん水の中におられたのに、まだ湯浴みがしたいのですか!」
そう言いながら、床に彼女の身を降ろし、テキパキと彼女が脱ぐのを手伝った。
やけに鼻息も荒い。王女はもう逃げられぬと覚悟を決めてグレイブに見守られながら湯の中に入った。グレイブはすかさず、薔薇の花弁を湯の中にちりばめ、小瓶に入った香料を回しながら入れた。
そしてしばらく裸のままで王女の様子を見ていたが、思い立ったようにベッドの横に急いだ。
手にかけたのは道具袋。そこに先ほど買った男性用の媚薬が入っている。
袋に入っていたのは数粒の丸薬。それを笑顔で一粒飲み込んだ。
とすんと胃袋の中に落ちて広がって行くのを感じる。
全身に熱いものが走るようだった。グレイブはベッドの上に寝転んで王女の名前を呼んだ。
「デラエア姫ぇ~。どうぞ、どうぞ、こちらにぃ~」
そう言いながらベッドに転がっていた。
デラエア王女は夫であるグレイブがひと月のこの一戦を楽しみにしていることを知っていた。
自分も嫌いではない。しかし、あのように楽しみにされていると意地悪して焦らしたくなるのだ。
ゆっくりと体を洗い、湯船から出ると、またゆっくりと体を拭いた。
デラエア王女がベッドにそっと歩みをすすめ、仕切り板から顔を出すとグレイブはベッドの上に大の字になり、大いびきで寝ていた。
そう。彼がつかまされた薬はまがい物。催淫効果ではなく、催眠効果が多く含まれる成分だったのだ。
「ちょっと。グレイブ!」
しかし、揺すられてもグレイブは起きなかった。夢の中で楽しいことをしているのだろうか?
デラエアの名前を呼びながら笑顔で眠っている。
王女は仕方なく、もう一度薄絹をまとった。
そして小さく手を叩く。
「そーだ。お買い物!」
王女はボトルからステイルを呼び出し、口の中に手を突っ込むと、小さい皮袋を取り出した。そこには二十枚ほどの大判金貨が入っていた。
「あんまりお金って分からないのよね……。これで足りるかしら。あんまり大きな袋は持てないし」
そう言って、グレイブのベルトから、何にでも化けるフオティのボトルを手に取った。そして、もう一つのボトルも万一のために引き抜いた。
「夜市は怖い場所だって言ってたから……。私に何かあったらよろしくね。用心棒さん」
そう言って、寝ているグレイブをそのままに、こっそりと部屋を出て夜市に向かって行った。
ホテルから出て行く王女。その後ろ姿を見ている者がいた。
その姿は町から見えるものは誰もいない。
ホテルの最上階。その上の屋根に腰を下ろしていた。
己が身の肩に得物である大鎌を立てかけて。
「ふーん。あれがグレイブの愛妻かぁ。あんなのは別にいいや。それよりも」
そう言って、屋根に足をかけてコウモリのようにぶら下がりグレイブの部屋を覗き込む男。
不死の刺客セイバーだった。
「なぁんだ。寝てるのかぁ。寝首をかくのはどうもなぁ。まぁ起きたところでボクに勝てるはずはないけど」
そう言って、屋根にかかっている足を軸にしてピンと体を水平に起こした。
そして、大鎌をグルリと振り回して肩に置いた。
「さぁて。グレイブが起きたら攻撃開始だ。それまでお休み」
そう言って、町の外にある森に向けて飛んで行った。
デラエア王女が夜市に向かうとその道々には怪しい姿のものが王女のほうをジロジロと見ていた。
暴力や盗みを生業としているものたちだ。美しい女が独り歩き。
世間知らずの貴族のお嬢様だろうと思い、近づいて来たのだ。
「これはこれはお嬢様。どちらに参りますんで?」
アウトローな男たち8人に囲まれたが、デラエア王女はたじろぎせずに答えた。
「夜市の方に参る。足下らに道案内を所望したい」
突然の王女の申し出。気品あふれる態度に男たちは面食らってしまった。
「後で、私の良人に礼を出させましょう。さぁ。案内しやれ」
「は、はは!」
なぜか大変恐れ入ってしまった男たち。この町の粋な男衆。いわゆるバザルっ子だった。
王女の前後に立って人を割って夜市の方へ進んで行った。
「さぁ、お嬢さん。こちらは服飾のお店です。気に入るものがありますかどうか?」
「ふぅん。なかなかいいわねぇ」
そう言いながら、デラエアは自分の時代にはなかった今のモデルであるドレスを一着手に取り身に合わせて男たちにそれを見せた。
「どうかしら?」
男たちは拍手を送った。
「お奇麗でございやす」
「そう? これで足りるかしらね?」
そう言って金の入った革袋の口を開けて男たちに見せると男たちは震えた。
「ブルブルブル! 1枚もありゃ店ごと買えやすぜ!」
そういうと、姫にもなんとなく貨幣価値が分かった。
「じゃ、このドレス5着と、カジュアルなのも欲しいわね。これとこれと……。ああんもう面倒だわ。全部ちょうだい!」
店主は腰を抜かした。まだ商売を始めたばかりで商品が全部なくなった。渡された大判金貨が1枚。5万ケラマンだ。お釣りに4万ケラマンの分の金貨を8枚。彼女はそれを手に受け取って革袋に入れた。
「なんで金貨の量が増えちゃったんだろう……。買い物って不思議ね。ねぇ。荷物はあのホテルの最上階に運んでくれないかしら?」
「へ、へぇ!」
儲けさせてくれたお礼とばかり、店主はポータを雇って店の品物を運ばせ、自らも部屋に赴く為に腰を上げた。とんでもないお大尽が町の男衆を数人引き連れて買い物をしている。夜市はとたんに騒々しくなった。
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