右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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デスキング

第22話 マスカトの国章

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たくさんの店主たちが王女を取り囲んで自分の店の商品をプレゼンをし始めた。

男衆はこりゃ稼ぎ時と王女を豪華な肘かけ付きの椅子に座らせて、神輿のように担いだ。
直接の口利きを許さない。男衆は耳元で付け届けの約束をするものだけを御前に連れて来た。
貴重な本や見事な食器。家具などいろいろなものを購入。
王女は初めての買い物に終始にこやかだった。

そこに、男衆たちに許されて王女の前に現れた男。
口ひげを蓄え、上等な商人の服を着ていた。

「ワタクシめは宝石商です。こんな指輪はどうでしょう?」

そう言って見せてきたのが見覚えのある指輪。それは、自分の母親がつけていた指輪と似ている。
デラエア王女は手に取って食い入るようにそれを見た。

「こ、これは」

宝石商はニンマリと笑った。気に入ってもらった。
自分の店で一番見栄えのいいものを持ってきて良かった。

「マスカトの刻印……」

宝石の後ろにマスカト王国の国章があった。間違いなく母のものだ。
おそらく墓に副葬品として入れられていたものを盗まれ、転売転売で宝石商の手に渡ったのかもしれない。母の形見であるこの品が欲しくなった。

「おいくらかしら?」

そう言って例の革袋を出す。見ているものは騒然となった。また豪奢な買い物が始まる。相手の言い値で買ってしまう。今度はあの指輪にいくら出すのだろう。そういう気持ちで王女の手に釘付けになった。

「さ、さすれば、1万ケラマ……いえ、10万ケラマンです」

すると、王女は平然と革袋から二枚の大判金貨を出した。
あんなに平然と大判金貨をだせるものか?
10万ケラマンは大金だ。通常の住宅なら2、3棟は建つ。
宝石商はさらに切り出した。

「あのぉ。お嬢様。その紋章が入ったものなら、他に首飾りもございます。しかし、宝石の数も多くこちらには持って来れませんでした。お店の方においてございます。ご足労ですがお立ち寄り頂けるとありがたいのですが」

王女は飛びついた。母が胸に垂らしていた首飾りを思い出す。
まさかあれではないだろうか?
大粒の涙型にカットされた宝石。それが滝のように下がる。小さい宝石も数多くちりばめられている。

「それも是非買い求めたい。足りなければ私の良人おっとがもっと持っております」
「さ、さようですか。ありがたい。さぁ、どうぞこちらです」

そう言って、宝石商が案内する小さい店まで男衆が担ぐ神輿が進む。
男衆は肩から神輿を下げ、王女に手を貸して大地に降ろした。

「ご苦労様。ありがとう」
「いえいえ。滅相もございやせん」

「あのう。ここからはお嬢様だけで……大変貴重なものですので……」
「わかったわ。これ。そなたらはここでまちやれ」

「は。ははぁ」

男衆を外で待たせ、自分は店の中に入った。
薄暗くランプが一つしかついていない。小さい宝石の首飾りや、指輪はあるが王女の目当ての首飾りはなかった。

「これ。どこにあるのか」
「こちらでございます」

店主に呼ばれてカウンターに進む。店主は、木箱を置いて王女の前に差し出した。
王女は蓋に手をかけて開けるとそこには何もなかった。

「あら? 何もない?」
「ふふ。そうです」

そう言って、店主は王女の水月みぞおちを殴りつけた。そのまま王女は意識を失う。店主は王女を麻の袋にいれ、もう一つ麻袋を用意し、それに店に並べた宝石類をすばやく入れ、裏口を開けて出て行った。

「ふっふっふ。このお嬢さんの身代金をふっかけてもいいし、上玉だ。そのまま他の町で売ってしまっても良い。そしてあの財布! 一体何万ケラマン入っているのか。そして盗んだ指輪が10万ケラマンだ。大もうけだわい」

そう言いながら裏通りを抜けて町を出て行ってしまった。


店の前に残された男衆。なかなか出てこない王女を気にかけて店の中に声をかけた。

「お嬢さん。目当てのものは買えやしたか?」

しかし返事はない。物音も聞こえない。これは一大事とドアを蹴破ると中はもぬけの殻。やられた!
男衆は、王女が言っていたホテルの最上階に急いだ。

中に入ると、大いびきのグレイブをよそに、たくさんの商人達が荷物を運び入れている最中だった。

「お、おい! ここを借りている旦那はどこだ?」
「さぁて? ベッドで高いびきだ。ゆすっても声をかけても目を覚ましやしない」

男衆はベッドに赴くとグレイブは裸のままで高いびき。

「もし! 旦那! もし!」
「お嬢様が大変でがす!」

グレイブの方も、ようやく騒々しさに気づいて大きなあくびをしながら目を覚ますと、二人きりの部屋のハズがたくさんの人で溢れかえっている。礼儀を知らぬ者たちだと憤慨して叫んだ。

「なんなんだキミ達は!」
「いえ、旦那。大変でがす。お嬢様のお供をつかまつったのですが、どうやら宝石商にさらわれたようです」

「なに!?」

グレイブは飛び起きた。ステイルを呼び出し、さっさと着替えながらわけを聞くと買い物の途中でさらわれたようだ。
怒髪天をつくとはこのことで、グレイブはベルトのバックルから一番近いボトルを開けた。
ポンと音を立てて中からべっとりと黒い液体のようなものが出て来て床に落ちた。

「シャルドウネ! 姫がさらわれた! 探し出せ!」

そういうと、黒い液体はたちまち黒い犬の形になって駆け出して行った。
続いて、その隣りのボトルを開けると、今度はチカチカと光る女の妖精が出てきた。

「スパリグ。シャルドウネの後を追って、姫を見つけたら光の玉を上げて知らせろ」

それを聞くと光の妖精は、ものすごいスピードで黒い犬を追いかけて行った。

「クソ!」

そう言いながら、完全にいつものスタイルになると、男衆の方でも彼の姿を聞いた事があった。
美形で腰に大剣を帯びている。そしてベルトには8つのボトル。

「カエルの騎士……」
「いかにも。キミ達の世話になったのはそのカエルの姫だ」

「え? あのお嬢様がカエル?」
「そうだ。私の妻だ。クソ! 姫は一体どこに!」
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