23 / 79
デスキング
第23話 土の巨人
しおりを挟む
グレイブはスイートルームの中でイライラしていた。
王女を見失い、どこにいるかもわからない。自分が放った精霊二体だけが頼みの綱だ。
美しい己の妻。治安の悪い町だ。すでに誰かにさらわれて体を好きなようにされていたらどうしよう。そう思うと居ても立っても居られなかった。しかしこう言うときは動き回らない方がいい。信頼する精霊からの信号を待った。
その様子を、町の外にある森の高い大木に立ち見ているものがいた。
まさに不死の刺客セイバーだ。青い顔が月の光にさらされて黄色く光る。
「ふははは。グレイブめ。目を覚ましたか。今まさに戦いの刻」
セイバーの腰にもボトルが一本あった。8本のグレイブに比べれば少なすぎる。しかし大きい。グレイブのボトルはこれに比べればハーフサイズだ。よほど強力な精霊が入っていると思われた。
彼は蓋に親指を当ててそれをはじく。
ポン。と勢いのいい高い音がする。そこから泥が流れ出し、大地に降り注いでは固まってゆく。
ドシャドシャと音を立ててあっという間にセイバーの高さまで降り積もった。
「土の巨人よ。町を破壊しろ!」
そう言って、巨大な土の巨人の肩に飛び移った。
町は賑わっている。夜市の真っ最中だ。
ところが、町の外から地響きが聞こえる。
「なんだ?」
買い物をしているもの。食事をしているもの。夜だから寝ているもの。
みんな表に飛び出して音のする方向に顔を向けた。
それは25メートルほどの高さの怪物。人型だが顔はない。満月の光に照らされて鈍く体が照っていた。
「か、怪物だぁー!」
一人が大声を上げると町は騒然となった。
怪物が、町を囲う壁に到達し、軽々と踏みつけた。
この町の壁は侵入者を防ぐために人の二倍の高さはあったのだが、巨人に踏みつけられてはたまらない。あっという間に瓦解した。
当然、その様子をグレイブもホテルの最上階から見ていた。
グレイブを囲むのは、王女のお供をしていたバザルっ子8人。彼らはグレイブに取りすがった。
「ダンナ! カエルの騎士のダンナ! あんな見たこともねぇ怪物に町を壊されちまう。アンタ強いんだろ? あれを倒してくんねぇ!」
しかし、グレイブは無言だ。爪を噛みながら外を見ていた。
精霊からの信号がこない。姫の居場所が分からないのだ。
巨人の速度はゆっくりだった。
ゆっくりと、ゆっくりとグレイブのいるホテルに向けて進んで来ていた。
「ダンナ! ダンナってば!」
バザルっ子たちも自分たちの町を守るために必死だった。
「クソッ! うるさい! オレには関係ない!」
「そ、そんな……」
グレイブの返答にバザルっ子たちは絶句してしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方その頃、町の外で宝石商であった盗賊は、小川を渡って森の中に入った。
ここならば誰にも見つからない。
早速麻袋を開けてみると、そこには王女の姿はない。
「へ? へ? へ? カエル?」
そこには、金の入った革袋の横に二本の筒を抱えたカエルが白い腹を出して気絶していた。
月の光の魔力を失い、デラエア王女はカエルへと変貌してしまっていたのだ。
盗賊はうなった。知らぬ間にお嬢さんは抜け出してしまったのか、店に置いてきてしまったのだと。
つまらないカエルが入っている。盗賊はカエルを掴むと外に放り投げた。
そして、金の入った革袋を開けてみると70万ケラマン以上入っている。
大儲けだ。遊んで暮らせる。お嬢さんがいなくても十分な稼ぎだった。
「へへ。やった!」
大金を手に入れた男は、それを持って逃げようと走り出した。
しかし、夜の闇の中だ。何かにぶち当たって倒れてしまった。
盗賊はスッ転んで、何に当たったのか月の光を頼りに見上げてみると、黒い鎧を纏い、大きなハンマーのような斧のような武器を下げている気味の悪い男だった。デスキングだったのだ。
「す、すいません」
盗賊は謝って逆の方向に立ち上がろうとした。
「おおお、おい。おまえ」
デスキングに呼び止められた盗賊が足を止める。振り返ると、デスキングは容赦なくハンマーを振り下ろしてその盗賊の体を潰してしまった。そして、その死体を持ち上げ、体を雑巾のようにひねり血を絞って己の身にかける。
「グゥゥゥウウウウ、血が足りん。グレイブと戦うための力が欲しい……」
ふと、匂いなのかなんなのか? デスキングが体を向けた方向。そこにいたのはカエルと化したデラエア王女。
「グレイブの臭いがする。グレイブの妻の臭いだ。カエルの臭い」
デスキングが目を回しているカエルの前に立ち、武器のハンマを大きく振りかぶった。
「仇の妻を殺せる。グフフフフフフ」
そう言って、カエルの身にハンマーを振り下ろした。
ズドンという音が地震のように響いた。カエルはぺしゃんこになったのか?
デスキングがハンマーを持ち上げてみると、そこにはへこんだ地面だけだった。
デスキングには顔がない。だが、カエルの位置を感じるのかその方向に体を向けた。
そこには、黒い犬の姿のシャルドウネがカエルを咥えていた。
すばやくデスキングの攻撃から王女の体を守ったのだ。
続いて、月夜に照明弾のようなものが上がる。
グレイブの放ったスパリグの術だ。ここにデラエア王女がいることをグレイブに知らせたのだ。
王女を見失い、どこにいるかもわからない。自分が放った精霊二体だけが頼みの綱だ。
美しい己の妻。治安の悪い町だ。すでに誰かにさらわれて体を好きなようにされていたらどうしよう。そう思うと居ても立っても居られなかった。しかしこう言うときは動き回らない方がいい。信頼する精霊からの信号を待った。
その様子を、町の外にある森の高い大木に立ち見ているものがいた。
まさに不死の刺客セイバーだ。青い顔が月の光にさらされて黄色く光る。
「ふははは。グレイブめ。目を覚ましたか。今まさに戦いの刻」
セイバーの腰にもボトルが一本あった。8本のグレイブに比べれば少なすぎる。しかし大きい。グレイブのボトルはこれに比べればハーフサイズだ。よほど強力な精霊が入っていると思われた。
彼は蓋に親指を当ててそれをはじく。
ポン。と勢いのいい高い音がする。そこから泥が流れ出し、大地に降り注いでは固まってゆく。
ドシャドシャと音を立ててあっという間にセイバーの高さまで降り積もった。
「土の巨人よ。町を破壊しろ!」
そう言って、巨大な土の巨人の肩に飛び移った。
町は賑わっている。夜市の真っ最中だ。
ところが、町の外から地響きが聞こえる。
「なんだ?」
買い物をしているもの。食事をしているもの。夜だから寝ているもの。
みんな表に飛び出して音のする方向に顔を向けた。
それは25メートルほどの高さの怪物。人型だが顔はない。満月の光に照らされて鈍く体が照っていた。
「か、怪物だぁー!」
一人が大声を上げると町は騒然となった。
怪物が、町を囲う壁に到達し、軽々と踏みつけた。
この町の壁は侵入者を防ぐために人の二倍の高さはあったのだが、巨人に踏みつけられてはたまらない。あっという間に瓦解した。
当然、その様子をグレイブもホテルの最上階から見ていた。
グレイブを囲むのは、王女のお供をしていたバザルっ子8人。彼らはグレイブに取りすがった。
「ダンナ! カエルの騎士のダンナ! あんな見たこともねぇ怪物に町を壊されちまう。アンタ強いんだろ? あれを倒してくんねぇ!」
しかし、グレイブは無言だ。爪を噛みながら外を見ていた。
精霊からの信号がこない。姫の居場所が分からないのだ。
巨人の速度はゆっくりだった。
ゆっくりと、ゆっくりとグレイブのいるホテルに向けて進んで来ていた。
「ダンナ! ダンナってば!」
バザルっ子たちも自分たちの町を守るために必死だった。
「クソッ! うるさい! オレには関係ない!」
「そ、そんな……」
グレイブの返答にバザルっ子たちは絶句してしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方その頃、町の外で宝石商であった盗賊は、小川を渡って森の中に入った。
ここならば誰にも見つからない。
早速麻袋を開けてみると、そこには王女の姿はない。
「へ? へ? へ? カエル?」
そこには、金の入った革袋の横に二本の筒を抱えたカエルが白い腹を出して気絶していた。
月の光の魔力を失い、デラエア王女はカエルへと変貌してしまっていたのだ。
盗賊はうなった。知らぬ間にお嬢さんは抜け出してしまったのか、店に置いてきてしまったのだと。
つまらないカエルが入っている。盗賊はカエルを掴むと外に放り投げた。
そして、金の入った革袋を開けてみると70万ケラマン以上入っている。
大儲けだ。遊んで暮らせる。お嬢さんがいなくても十分な稼ぎだった。
「へへ。やった!」
大金を手に入れた男は、それを持って逃げようと走り出した。
しかし、夜の闇の中だ。何かにぶち当たって倒れてしまった。
盗賊はスッ転んで、何に当たったのか月の光を頼りに見上げてみると、黒い鎧を纏い、大きなハンマーのような斧のような武器を下げている気味の悪い男だった。デスキングだったのだ。
「す、すいません」
盗賊は謝って逆の方向に立ち上がろうとした。
「おおお、おい。おまえ」
デスキングに呼び止められた盗賊が足を止める。振り返ると、デスキングは容赦なくハンマーを振り下ろしてその盗賊の体を潰してしまった。そして、その死体を持ち上げ、体を雑巾のようにひねり血を絞って己の身にかける。
「グゥゥゥウウウウ、血が足りん。グレイブと戦うための力が欲しい……」
ふと、匂いなのかなんなのか? デスキングが体を向けた方向。そこにいたのはカエルと化したデラエア王女。
「グレイブの臭いがする。グレイブの妻の臭いだ。カエルの臭い」
デスキングが目を回しているカエルの前に立ち、武器のハンマを大きく振りかぶった。
「仇の妻を殺せる。グフフフフフフ」
そう言って、カエルの身にハンマーを振り下ろした。
ズドンという音が地震のように響いた。カエルはぺしゃんこになったのか?
デスキングがハンマーを持ち上げてみると、そこにはへこんだ地面だけだった。
デスキングには顔がない。だが、カエルの位置を感じるのかその方向に体を向けた。
そこには、黒い犬の姿のシャルドウネがカエルを咥えていた。
すばやくデスキングの攻撃から王女の体を守ったのだ。
続いて、月夜に照明弾のようなものが上がる。
グレイブの放ったスパリグの術だ。ここにデラエア王女がいることをグレイブに知らせたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる