右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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デスキング

第27話 決死の闘い

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デスキングは、自分の新しい顔を撫でさすった。目、鼻、頬、耳、口。どれもこれもなじみ深いものではない。顔の大きさも小さい。これはまさしくグレイブのもの。
しばらく考えていたが、セイバーから取り上げた大鎌を付けたばかりの首にあてがった。そして、セイバーに向かって重い口を開いた。

「グレイブはな余の敵だ。だが尊敬する相手でもある。何千年も滅びないこの体の首を落とした男だ。その首をつけてまで生き延びようとは思わない。まるで息子のような、盟友のような男の首を」

そう言って、自らグレイブの首を切り離した。

「ああ! 何をなさいます!」
「こここ、これからグレイブと一戦いたす。そのたたた、戦いに水を差すな!」

その頃、グレイブの体は王女を抱いたままデスキングの近くまで来ていた。
デスキングはその方向に首を投げる。体はそれを腕を伸ばしてキャッチした。グレイブの体は自身の首を元の場所に乗せるとその目はゆっくりと開いた。

「何ということだ。オレの頭は一度デスキングの首に乗った。……だが何と心地よいことだったろう」

その言葉は王女には聞こえなかった。気絶したまま目を閉じていたのだ。驚いたのはセイバーだ。グレイブは普通の人間ではない。ただの食糧であるか弱き人間ではなかったのだ。
再度首を失ったデスキングはグレイブに向かって叫んだ。

「グググ、グレイブ! さささ最後の一戦を所望!」

その時、グレイブの大剣が宙を飛んで手元に戻ってきた。シャルドウネだった。犬と変じ剣を咥えて走ってきたのだ。

「本来は金にならないことはしたくない。だがデスキング。君とは最後の一戦をしてみたい」

デスキングに首があったらニヤリと笑ったことだろう。彼は自分の得物ではない大鎌を構えた。グレイブも、大剣を両手持ちにし本気の構えをとった。
にらみ合いなどしない。互いに不死の体だ。斬られようが何しようが関係ない。
問題は四肢の切断だ。戦闘不能になる。それ以外は多少の欠損は許された。

デスキングはいつもの大斧と大槌が一緒になったような武器ではない。セイバーの大鎌だ。これは彼にとっては軽いらしい。大きな腕を振り回して竜巻の如くグレイブに襲いかかる。
グレイブも然る者。それを大剣で打って止める。柄で弾く。

デスキングの大きな旋回。あの大きな体。のっそりと動く体がこの戦闘中はどうだ。俊敏な動物のようだ。戦いを楽しんでいる。
グレイブも身をひねってそれをかわす。互いに一瞬の隙を狙っている。

「今だ!」

グレイブが、デスキングから打ち下ろされた腕を避けた反動を利用してデスキングの大鎌を持った手を切り落とした。
それはわずかな隙間。デスキングは全身を黒金の鎧で覆われている。その繋ぎ目に大剣の刃を差し入れた。よほどの剣技がなければ無理だろう。デスキングの腕はプツリと切れて大鎌を持ったまま宙を飛ぶ。
だがその手の平が動く。ポンともう片方の手に大鎌をパスしたのだ。もう片方の腕が素早く動きグレイブの体を横薙ぎにした。

「そうか……不死……!」

グレイブの体は大剣を持ったまま上下半分に別れてしまった。

「は。はは。はっは。はは。勝った!」

そう叫んだデスキング。グレイブの上半身が宙を回転しながら舞ってゆく。だがそれが高速でブーメランのように戻ってきて、デスキングの鎧の隙間に剣を差し込み切り落としたのだ。
デスキングには油断があった。勝ったと思ってしまった。不死の体を過信したのだ。

続いてグレイブはデスキングの四肢を切断した。武器を取り上げ動かないようにデスキングの鎧を重石として押さえ込んでしまった。

それをセイバーは黙って見ていたが、グレイブの勝利が分かると笑い出した。

「はっはっは。不死。グレイブ。君はなぜ死なないか分かるか?」

グレイブはこの戦いに水を差すセイバーをにらみつけた。

「知らない。だが、姫を守るには必要な能力だ」
「ククク。君は呪われているんだぞ?」

「知っている。不死の呪いだ。呪術師の村にあったものを50年前に飲まされたのだ」
「死ねない体。それが何を意味するか知っているか?」

「愛するものが先に死ぬと言うのであろう。おあいにく様だ。私の姫も不老不死だ」

そう言うとセイバーはデラエア王女を一瞥したが興味がないようにまたグレイブに顔を向けた。

「はっ! では悲しむのは君の妻の方らしい。もうすぐ朝日が昇る。今日はこの辺にしよう。だが覚えておけ。わたしはいつもキミを付け狙っていることを。怯えるが良い。寝ている間の襲撃を。用を足している間の襲撃を。その美しい妻と睦み合っている最中の襲撃を!」

そう言って高く飛び上がった。そして回転しながら大木の天辺に着地する。そのまま月に向かって高笑いだった。

「不死鳥の血を飲んだグレイブか。先王ではないが貴様との戦いに生き甲斐を感じる。ふふふ。はっはっは!」

そう言いながらセイバーは日の光が届かないであろう闇の多いねぐらを探して飛んでいってしまった。
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