右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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デスキング

第29話 国民を得る

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全てが終わる頃には朝日が射し、王女の姿は見慣れたカエルの姿になっていた。バザルっ子達はそれを目の当たりにした。

「あの素晴らしいお嬢様がカエルだなんて」
「ああ。彼女は元はデラエア王女。今はなきマスカト王国の公女様だったのだが呪いをかけられて今に至るのだ」

「へぇ!」

彼らは驚いていたが、グレイブは切り出した。

「さてでは巨人を倒した報酬10万ケラマンを貰おうか」

バザルっ子達は顔を見合わせた。リーダーの男が、

「それより、今日はお疲れになったでしょう。町の上役に巨人討伐の話をしますので元のホテルでおやすみになって下さい。明朝話を致しましょう」

グレイブはその言葉に甘えた。まだ体は本調子ではなかったのだ。セイバー襲撃は怖かったが体は睡眠を欲しがっておりその欲求には勝てずそのまま部屋で就寝した。


朝、目を覚まし出立の準備をした。ホテルのロビーではあの時のバザルっ子のリーダーの男を含む3人がそれぞれが槍を持って待っていた。
金を払えず殺そうというのか? グレイブは苦笑した。普通の人間では相手になるまいと。

グレイブの姿を見ると3人は床に平伏した。

「あっしら、騎士様と王女様に惚れ込みやした! どうか、旅のお供をさせてくだせえ!」
「あっしら3人、忠義をもって仕えやす。それで10万ケラマンはご容赦くだせぇ」

と懇願した。カエル姫はバケツの縁まで上がり込んでニコリと笑った。しかし、グレイブは多少怒り口調で

「お供だと? ふざけるな。10万ケラマンはどうした。それに姫の従者は俺一人で充分だ!」
「……寝てたクセに?」

すぐさまカエル姫がグレイブの言葉を打ち消す。

「え?」
「グレイブは寝てたじゃない。私がお買い物したいときに。この者達はね、そんな私の道案内やお手伝いをしてくれたのよ?」

「いや、姫、それは」
「何よ」

グレイブはバツが悪そうな顔をして平伏している3人に

「こ、これ。少し姫と話をして参る。ここで暫時待て」

そう言ってバケツを抱えて柱の陰に隠れた。

「姫、どんな者かも分かりませんぞ。我らの金が目的に相違ありません」
「そーだ。お金。彼の者たちは夕べ無償でお供をしてくれたの。グレイブ。あの者達に謝礼を払いなさい」

「それが、彼の者たちと約束しまして。姫がいない間に土の巨人に町が襲われたのですが、その謝礼に10万ケラマンを払う約束なのでございます」
「なによ。私の恩人からお金を取ろうと言うの? 寝てたクセに!」

「いえ、そう言うわけでは。しかし男は信用出来ませんぞ! 姫の美貌が目的なのかも」
「いーじゃないの。寝てたクセに! しつこいよ」

そう言いながら姫は顔をプイと背けた。グレイブは二人きりの旅に邪魔が入るのが嫌なのだ。

「それに、私たちの国の国民よ。今は国は無いけど、人がいる。国づくりには人が根幹に必要なのよ!」

そう。二人の目的はマスカト王国の再建だ。どこかの領地を買ってそこを拠点に国を作るのだ。王女は三人を大声で柱の陰に呼ばわった。

「これ。足下達を召し抱えるぞ。そこもと達の名は何という」

3人はカエル姫の言葉に平伏しながらリーダーの男から順に答えた。

「あっしはハーツです」
「あっしはガッツでがす」
「あっしはレイバと言いやす」

「なるほどね。足下達はこれから私の愛すべき国民。ハーツは近衛隊長。ガッツは親衛隊長。レイバは警護隊長の任に付き、グレイブの指示を仰ぎなさい」

「へぇ!」

3人はまとめて返事をした。おままごとのような人事だったが王女は本気だった。それから、王女はすでに見つけていたようで、町の中を4人に進ませた。そこは車屋で、見事な馬車が置いてあった。

「ハーツたちは馬車は運転出来る?」
「もちろんでやす」

「グレイブ。馬車を買いなさい」
「は、はい」

王女の指示の元、3頭立ての馬車を買った。御者席は2人掛け。後ろの備えは屋根付きの3人掛け座椅子。その後ろに狭いが仕切られた個室があり寝台が2つあった。さらに小さいが最後部に荷台もあった。

「完璧じゃない。我々5人の旅には」
「ま、誠にもって完璧でございます」

グレイブは一人、涙声で答えた。いつの間にか10万ケラマンの約束は反故にされ、二人きりの旅に付録が付いてしまった。しかも男。グレイブは嫌で嫌で仕方なかった。
王女の為を思ってこの夜市の町バザルにやって来て、二人きりの楽しみのために薬を買ったらまがい物。寝ている間に姫は30万ケラマンほどの買い物をし、さらわれ、強敵に追い詰められ、危機を脱したら二人の旅に邪魔者が3人も。この町に来て良いことなど一つもなかった。国の外れだし、さっさとこの土地を抜けてしまおうと考えた。
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