29 / 79
デスキング
第29話 国民を得る
しおりを挟む
全てが終わる頃には朝日が射し、王女の姿は見慣れたカエルの姿になっていた。バザルっ子達はそれを目の当たりにした。
「あの素晴らしいお嬢様がカエルだなんて」
「ああ。彼女は元はデラエア王女。今はなきマスカト王国の公女様だったのだが呪いをかけられて今に至るのだ」
「へぇ!」
彼らは驚いていたが、グレイブは切り出した。
「さてでは巨人を倒した報酬10万ケラマンを貰おうか」
バザルっ子達は顔を見合わせた。リーダーの男が、
「それより、今日はお疲れになったでしょう。町の上役に巨人討伐の話をしますので元のホテルでおやすみになって下さい。明朝話を致しましょう」
グレイブはその言葉に甘えた。まだ体は本調子ではなかったのだ。セイバー襲撃は怖かったが体は睡眠を欲しがっておりその欲求には勝てずそのまま部屋で就寝した。
朝、目を覚まし出立の準備をした。ホテルのロビーではあの時のバザルっ子のリーダーの男を含む3人がそれぞれが槍を持って待っていた。
金を払えず殺そうというのか? グレイブは苦笑した。普通の人間では相手になるまいと。
グレイブの姿を見ると3人は床に平伏した。
「あっしら、騎士様と王女様に惚れ込みやした! どうか、旅のお供をさせてくだせえ!」
「あっしら3人、忠義をもって仕えやす。それで10万ケラマンはご容赦くだせぇ」
と懇願した。カエル姫はバケツの縁まで上がり込んでニコリと笑った。しかし、グレイブは多少怒り口調で
「お供だと? ふざけるな。10万ケラマンはどうした。それに姫の従者は俺一人で充分だ!」
「……寝てたクセに?」
すぐさまカエル姫がグレイブの言葉を打ち消す。
「え?」
「グレイブは寝てたじゃない。私がお買い物したいときに。この者達はね、そんな私の道案内やお手伝いをしてくれたのよ?」
「いや、姫、それは」
「何よ」
グレイブはバツが悪そうな顔をして平伏している3人に
「こ、これ。少し姫と話をして参る。ここで暫時待て」
そう言ってバケツを抱えて柱の陰に隠れた。
「姫、どんな者かも分かりませんぞ。我らの金が目的に相違ありません」
「そーだ。お金。彼の者たちは夕べ無償でお供をしてくれたの。グレイブ。あの者達に謝礼を払いなさい」
「それが、彼の者たちと約束しまして。姫がいない間に土の巨人に町が襲われたのですが、その謝礼に10万ケラマンを払う約束なのでございます」
「なによ。私の恩人からお金を取ろうと言うの? 寝てたクセに!」
「いえ、そう言うわけでは。しかし男は信用出来ませんぞ! 姫の美貌が目的なのかも」
「いーじゃないの。寝てたクセに! しつこいよ」
そう言いながら姫は顔をプイと背けた。グレイブは二人きりの旅に邪魔が入るのが嫌なのだ。
「それに、私たちの国の国民よ。今は国は無いけど、人がいる。国づくりには人が根幹に必要なのよ!」
そう。二人の目的はマスカト王国の再建だ。どこかの領地を買ってそこを拠点に国を作るのだ。王女は三人を大声で柱の陰に呼ばわった。
「これ。足下達を召し抱えるぞ。そこもと達の名は何という」
3人はカエル姫の言葉に平伏しながらリーダーの男から順に答えた。
「あっしはハーツです」
「あっしはガッツでがす」
「あっしはレイバと言いやす」
「なるほどね。足下達はこれから私の愛すべき国民。ハーツは近衛隊長。ガッツは親衛隊長。レイバは警護隊長の任に付き、グレイブの指示を仰ぎなさい」
「へぇ!」
3人はまとめて返事をした。おままごとのような人事だったが王女は本気だった。それから、王女はすでに見つけていたようで、町の中を4人に進ませた。そこは車屋で、見事な馬車が置いてあった。
「ハーツたちは馬車は運転出来る?」
「もちろんでやす」
「グレイブ。馬車を買いなさい」
「は、はい」
王女の指示の元、3頭立ての馬車を買った。御者席は2人掛け。後ろの備えは屋根付きの3人掛け座椅子。その後ろに狭いが仕切られた個室があり寝台が2つあった。さらに小さいが最後部に荷台もあった。
「完璧じゃない。我々5人の旅には」
「ま、誠にもって完璧でございます」
グレイブは一人、涙声で答えた。いつの間にか10万ケラマンの約束は反故にされ、二人きりの旅に付録が付いてしまった。しかも男。グレイブは嫌で嫌で仕方なかった。
王女の為を思ってこの夜市の町バザルにやって来て、二人きりの楽しみのために薬を買ったらまがい物。寝ている間に姫は30万ケラマンほどの買い物をし、さらわれ、強敵に追い詰められ、危機を脱したら二人の旅に邪魔者が3人も。この町に来て良いことなど一つもなかった。国の外れだし、さっさとこの土地を抜けてしまおうと考えた。
「あの素晴らしいお嬢様がカエルだなんて」
「ああ。彼女は元はデラエア王女。今はなきマスカト王国の公女様だったのだが呪いをかけられて今に至るのだ」
「へぇ!」
彼らは驚いていたが、グレイブは切り出した。
「さてでは巨人を倒した報酬10万ケラマンを貰おうか」
バザルっ子達は顔を見合わせた。リーダーの男が、
「それより、今日はお疲れになったでしょう。町の上役に巨人討伐の話をしますので元のホテルでおやすみになって下さい。明朝話を致しましょう」
グレイブはその言葉に甘えた。まだ体は本調子ではなかったのだ。セイバー襲撃は怖かったが体は睡眠を欲しがっておりその欲求には勝てずそのまま部屋で就寝した。
朝、目を覚まし出立の準備をした。ホテルのロビーではあの時のバザルっ子のリーダーの男を含む3人がそれぞれが槍を持って待っていた。
金を払えず殺そうというのか? グレイブは苦笑した。普通の人間では相手になるまいと。
グレイブの姿を見ると3人は床に平伏した。
「あっしら、騎士様と王女様に惚れ込みやした! どうか、旅のお供をさせてくだせえ!」
「あっしら3人、忠義をもって仕えやす。それで10万ケラマンはご容赦くだせぇ」
と懇願した。カエル姫はバケツの縁まで上がり込んでニコリと笑った。しかし、グレイブは多少怒り口調で
「お供だと? ふざけるな。10万ケラマンはどうした。それに姫の従者は俺一人で充分だ!」
「……寝てたクセに?」
すぐさまカエル姫がグレイブの言葉を打ち消す。
「え?」
「グレイブは寝てたじゃない。私がお買い物したいときに。この者達はね、そんな私の道案内やお手伝いをしてくれたのよ?」
「いや、姫、それは」
「何よ」
グレイブはバツが悪そうな顔をして平伏している3人に
「こ、これ。少し姫と話をして参る。ここで暫時待て」
そう言ってバケツを抱えて柱の陰に隠れた。
「姫、どんな者かも分かりませんぞ。我らの金が目的に相違ありません」
「そーだ。お金。彼の者たちは夕べ無償でお供をしてくれたの。グレイブ。あの者達に謝礼を払いなさい」
「それが、彼の者たちと約束しまして。姫がいない間に土の巨人に町が襲われたのですが、その謝礼に10万ケラマンを払う約束なのでございます」
「なによ。私の恩人からお金を取ろうと言うの? 寝てたクセに!」
「いえ、そう言うわけでは。しかし男は信用出来ませんぞ! 姫の美貌が目的なのかも」
「いーじゃないの。寝てたクセに! しつこいよ」
そう言いながら姫は顔をプイと背けた。グレイブは二人きりの旅に邪魔が入るのが嫌なのだ。
「それに、私たちの国の国民よ。今は国は無いけど、人がいる。国づくりには人が根幹に必要なのよ!」
そう。二人の目的はマスカト王国の再建だ。どこかの領地を買ってそこを拠点に国を作るのだ。王女は三人を大声で柱の陰に呼ばわった。
「これ。足下達を召し抱えるぞ。そこもと達の名は何という」
3人はカエル姫の言葉に平伏しながらリーダーの男から順に答えた。
「あっしはハーツです」
「あっしはガッツでがす」
「あっしはレイバと言いやす」
「なるほどね。足下達はこれから私の愛すべき国民。ハーツは近衛隊長。ガッツは親衛隊長。レイバは警護隊長の任に付き、グレイブの指示を仰ぎなさい」
「へぇ!」
3人はまとめて返事をした。おままごとのような人事だったが王女は本気だった。それから、王女はすでに見つけていたようで、町の中を4人に進ませた。そこは車屋で、見事な馬車が置いてあった。
「ハーツたちは馬車は運転出来る?」
「もちろんでやす」
「グレイブ。馬車を買いなさい」
「は、はい」
王女の指示の元、3頭立ての馬車を買った。御者席は2人掛け。後ろの備えは屋根付きの3人掛け座椅子。その後ろに狭いが仕切られた個室があり寝台が2つあった。さらに小さいが最後部に荷台もあった。
「完璧じゃない。我々5人の旅には」
「ま、誠にもって完璧でございます」
グレイブは一人、涙声で答えた。いつの間にか10万ケラマンの約束は反故にされ、二人きりの旅に付録が付いてしまった。しかも男。グレイブは嫌で嫌で仕方なかった。
王女の為を思ってこの夜市の町バザルにやって来て、二人きりの楽しみのために薬を買ったらまがい物。寝ている間に姫は30万ケラマンほどの買い物をし、さらわれ、強敵に追い詰められ、危機を脱したら二人の旅に邪魔者が3人も。この町に来て良いことなど一つもなかった。国の外れだし、さっさとこの土地を抜けてしまおうと考えた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる