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クインスロメン王国
第30話 楽しい会話
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デラエア姫を慕う一行は、現在のランフラス王国の一番近い関所に向かっていた。そこから国境を抜けるというのは、グレイブの希望であった。
新しく入ってきたバザル出身の三人。
御者をしているのはレイバと言い、少し小太りで背の低い男。鼻の下にチョビ髭を生やした面白い男だ。
その横のガッツは細身の長身。口数は少ないがレイバの話によく笑う。
その二人のリーダーであった男はハーツ。筋肉質の色男だが左目に革製の眼帯をしている。昔、魔物との戦いでやられたらしい。
その三人が主と仰ぐのがカエルの姿のデラエア姫。
そして、その良人である騎士グレイブを兄貴と呼んだが、グレイブはこの三人を快く思わず、バケツを抱えたまま一番後部にある寝台席に腰を下ろして、デラエア姫に会わそうとしなかった。
何しろ若い男が三人だ。姫の美貌に目がくらみ、襲われたならたまったものではないと言う思いだ。
つまり、グレイブは彼らを全く信用していなかった。
その三人の仲はよい。前の座席からキャッキャ、キャッキャと楽し気な笑い声が聞こえてくる。
デラエア姫は生来話し好き。それに参加してともにおしゃべりをしたかったが、グレイブはバケツを抱いて波一つ立てようとしなかった。
「グレイブ。そんな必死にバケツを抑えなくても」
「いいえ。姫の体に障りでもしたら、私は生きて行けません。車酔いするかもしれませんし」
「大丈夫よ。前の三人ともお話したいなぁ」
「な、な、な、なりませぬ! 下賎のものと口をきいたら口が腐りますぞ!」
そんなデラエア姫とグレイブをよそに、前の座席から大きな笑い声。
デラエアはなんの話しか気になって仕方がなかった。
「グレイブ! だったらあなたが私を楽しませなさい!」
「え? わ、私がでございますか?」
「そーよ。前の三人以上に楽しい話を聞かせてちょうだい」
グレイブは頭をひねった。今まで二人でどんな話をしてきただろう?
それは昔の思い出話や将来の夢。
それに、デラエアが話せるようになってからはほとんど話しているのはデラエアの方だ。
自分と言えば、満月の夜にしたいことを話すだけ。
面白い話。それはグレイブにとってモンスターや山賊を倒すことよりも難解だった。
「ええと……ですねぇ」
「ふんふん」
「うぅんとですねぇ」
「はいはい」
「えぇとですねぇ」
「ええ」
「うーん……あのですねぇ」
「次でてこなかったらもう話してあげないわよ」
最後通牒。
グレイブは「うん」とも「すん」とも言えず、首をひねる。
ようやく昔、同僚が話していた面白い話を思い出し、ポンと手を打った。
「えーと。姫。では『馬肉は口に合うか』聞いてください」
「なにそれ。それを言えばいいの? 分かったわ。『馬肉は口に合いますか?』」
「はい。旨いでござる」
自分で言って思わず口を抑えるグレイブ。
しかし、デラエアはさっぱり意味が分からず、呆れた顔をしている。
それに気付いたグレイブ。高貴な人には難しかったかとすぐさま意味を伝えた。
「これの意味はですねぇ。プス。馬肉は馬でございましょう? ですから馬と旨いがかかっておるのです。プフフ」
デラエアは余りのことに白目になった。
「なによそれ! 全然つまらない!」
「ええ? やはり高貴な方には難しかったですか?」
「違うわよ! もっとこう、面白く言えないの? それだったら『馬は旨い』の方が面白いじゃないの!」
途端、グレイブは寝台の下に崩れ落ち、腹を抱えて大笑いだ。
「ヒーヒー。姫、お上手でございます。それ最高ですな」
デラエアはバケツの中で頭を抑えてしまった。
そうこうしていると馬車が路肩に寄って停車した。
外で三人が楽しそうに話しながら、後ろの荷物を降ろしテントを張り始めた。
それに気付いてグレイブはバケツを持って、ドアから首を出した。
「これ。キャンプをする場所を決めたのか?」
すると、眼帯のハーツがグレイブの方を向いて直立不動の姿勢をとった。
「へぇ。兄貴。ちょうど広い場所を見つけたので、テントを立て火をおこしたらお迎えに上がろうと思ってたんでさぁ。どうぞ仲睦まじくお待ちくだせぇ」
そうバザル訛りで答えると、他の二人に混じりキャンプの準備を始めた。
グレイブは言葉に甘え、寝台の上でデラエア姫に甘い言葉をささやいたが、姫はしらけた顔をしていた。
そのうちにうまそうな匂いと話し声。
デラエアは外に飛び出したくて仕方なかった。
やがて、扉がノックされバケツを持ったグレイブが外に出ると、二人の座席とテーブルが用意されており、その上にはホテルの食事のようなものが並んでいた。
三人には二人よりも小さい簡易用のテーブルにグレードの低い食事があった。
「あらま」
姫が声をあげる。グレイブは当然の用に自分の首にナプキンを巻き、姫を取り出すと自分の前の席に鎮座させた。
姫は我慢の限界だった。
「ちょっと! せっかく五人で旅をしているのにそれぞれ高低差があるなんておかしくない? ましてや私やグレイブは働いていないのに、三人よりもよい食事だなんて!」
「何をおっしゃいます姫。この者たちは我々の家臣でございます。上下の別があるのは当たり前でございます」
「へぇ。そうでやす。あっしらが好きで付いて来たんでやすから、どうぞお気になされずに」
そう言って三人は、自分の食事は後回しにし、二人の給仕を始めた。
グラスにワインを注ぎ、姫の食事を口に入るよう小さく切り分ける。
手が空いている者は、後ろで起立したままの姿勢でいた。
「ほうほう。なかなか旨い。見直したぞ。誰が作ったのだ?」
グレイブが尋ねると、長身のガッツが手を上げた。
「コックの仕事をしてやしたので、それなりの味かと存じやす」
「ううん。旨い。舌の上で溶けるようだ。うーん。なかなかこの味はだせん。気に入った」
「ありがとうございやす」
続いて、小太りのレイバが姫の前に跪いて小さな旗を出して来た。
それにはマスカトの国章が縫い込まれている、馬車用の車旗だった。
「姫のお気に召すかどうか。あっしが縫いやした」
「ええ!? すごい。レイバはこんなことができるのねぇ」
「ありがとうございやす。道具屋の弟子をしてましたんで」
見事な統率と給仕をしてくれたハーツ。
料理作りのガッツ。
御者で道具作りが上手いレイバ。
デラエア姫は思わずため息をもらした。
「本当にあなたたちが来てくれて嬉しいわ。私達なんてなんにも出来ないのに」
姫の賛辞に三人とも照れて頭を下げた。
しかし、グレイブは面白くない。
自分が今までキャンプの準備や姫の水浴びを準備までしてきたし、賞金首を倒して材料の金を出しているのは自分だ。それが『なんにもできない』とは腑に落ちなかった。
だからといって、得意な戦闘は今はできない。
暗殺者セイバーに、今飛び出してこいと願ったほどだ。
しかしふと思いついた。起死回生の会話。これで全員の鼻を明かしてやろうというものだった。
「あ~。レイバ」
「へぇ!」
「君のレイバという名前は今は失われてしまったシャーリ語で『かわいいネズミ』という意味だ。それが第13代のランフラス王の幼名だったためにこの地方では流行する名前となったのだ」
「……へぇ」
グレイブは自分の知識を姫に褒めてもらえるとふふんと鼻を鳴らした。
「ナニソレ。今関係ある?」
バッサリ。切り捨てられた。言葉の袈裟懸け。
姫は楽しそうに三人に話しかける。三人も姫と楽しそうに自分たちは仕えられて光栄だと伝えた。
新しく入ってきたバザル出身の三人。
御者をしているのはレイバと言い、少し小太りで背の低い男。鼻の下にチョビ髭を生やした面白い男だ。
その横のガッツは細身の長身。口数は少ないがレイバの話によく笑う。
その二人のリーダーであった男はハーツ。筋肉質の色男だが左目に革製の眼帯をしている。昔、魔物との戦いでやられたらしい。
その三人が主と仰ぐのがカエルの姿のデラエア姫。
そして、その良人である騎士グレイブを兄貴と呼んだが、グレイブはこの三人を快く思わず、バケツを抱えたまま一番後部にある寝台席に腰を下ろして、デラエア姫に会わそうとしなかった。
何しろ若い男が三人だ。姫の美貌に目がくらみ、襲われたならたまったものではないと言う思いだ。
つまり、グレイブは彼らを全く信用していなかった。
その三人の仲はよい。前の座席からキャッキャ、キャッキャと楽し気な笑い声が聞こえてくる。
デラエア姫は生来話し好き。それに参加してともにおしゃべりをしたかったが、グレイブはバケツを抱いて波一つ立てようとしなかった。
「グレイブ。そんな必死にバケツを抑えなくても」
「いいえ。姫の体に障りでもしたら、私は生きて行けません。車酔いするかもしれませんし」
「大丈夫よ。前の三人ともお話したいなぁ」
「な、な、な、なりませぬ! 下賎のものと口をきいたら口が腐りますぞ!」
そんなデラエア姫とグレイブをよそに、前の座席から大きな笑い声。
デラエアはなんの話しか気になって仕方がなかった。
「グレイブ! だったらあなたが私を楽しませなさい!」
「え? わ、私がでございますか?」
「そーよ。前の三人以上に楽しい話を聞かせてちょうだい」
グレイブは頭をひねった。今まで二人でどんな話をしてきただろう?
それは昔の思い出話や将来の夢。
それに、デラエアが話せるようになってからはほとんど話しているのはデラエアの方だ。
自分と言えば、満月の夜にしたいことを話すだけ。
面白い話。それはグレイブにとってモンスターや山賊を倒すことよりも難解だった。
「ええと……ですねぇ」
「ふんふん」
「うぅんとですねぇ」
「はいはい」
「えぇとですねぇ」
「ええ」
「うーん……あのですねぇ」
「次でてこなかったらもう話してあげないわよ」
最後通牒。
グレイブは「うん」とも「すん」とも言えず、首をひねる。
ようやく昔、同僚が話していた面白い話を思い出し、ポンと手を打った。
「えーと。姫。では『馬肉は口に合うか』聞いてください」
「なにそれ。それを言えばいいの? 分かったわ。『馬肉は口に合いますか?』」
「はい。旨いでござる」
自分で言って思わず口を抑えるグレイブ。
しかし、デラエアはさっぱり意味が分からず、呆れた顔をしている。
それに気付いたグレイブ。高貴な人には難しかったかとすぐさま意味を伝えた。
「これの意味はですねぇ。プス。馬肉は馬でございましょう? ですから馬と旨いがかかっておるのです。プフフ」
デラエアは余りのことに白目になった。
「なによそれ! 全然つまらない!」
「ええ? やはり高貴な方には難しかったですか?」
「違うわよ! もっとこう、面白く言えないの? それだったら『馬は旨い』の方が面白いじゃないの!」
途端、グレイブは寝台の下に崩れ落ち、腹を抱えて大笑いだ。
「ヒーヒー。姫、お上手でございます。それ最高ですな」
デラエアはバケツの中で頭を抑えてしまった。
そうこうしていると馬車が路肩に寄って停車した。
外で三人が楽しそうに話しながら、後ろの荷物を降ろしテントを張り始めた。
それに気付いてグレイブはバケツを持って、ドアから首を出した。
「これ。キャンプをする場所を決めたのか?」
すると、眼帯のハーツがグレイブの方を向いて直立不動の姿勢をとった。
「へぇ。兄貴。ちょうど広い場所を見つけたので、テントを立て火をおこしたらお迎えに上がろうと思ってたんでさぁ。どうぞ仲睦まじくお待ちくだせぇ」
そうバザル訛りで答えると、他の二人に混じりキャンプの準備を始めた。
グレイブは言葉に甘え、寝台の上でデラエア姫に甘い言葉をささやいたが、姫はしらけた顔をしていた。
そのうちにうまそうな匂いと話し声。
デラエアは外に飛び出したくて仕方なかった。
やがて、扉がノックされバケツを持ったグレイブが外に出ると、二人の座席とテーブルが用意されており、その上にはホテルの食事のようなものが並んでいた。
三人には二人よりも小さい簡易用のテーブルにグレードの低い食事があった。
「あらま」
姫が声をあげる。グレイブは当然の用に自分の首にナプキンを巻き、姫を取り出すと自分の前の席に鎮座させた。
姫は我慢の限界だった。
「ちょっと! せっかく五人で旅をしているのにそれぞれ高低差があるなんておかしくない? ましてや私やグレイブは働いていないのに、三人よりもよい食事だなんて!」
「何をおっしゃいます姫。この者たちは我々の家臣でございます。上下の別があるのは当たり前でございます」
「へぇ。そうでやす。あっしらが好きで付いて来たんでやすから、どうぞお気になされずに」
そう言って三人は、自分の食事は後回しにし、二人の給仕を始めた。
グラスにワインを注ぎ、姫の食事を口に入るよう小さく切り分ける。
手が空いている者は、後ろで起立したままの姿勢でいた。
「ほうほう。なかなか旨い。見直したぞ。誰が作ったのだ?」
グレイブが尋ねると、長身のガッツが手を上げた。
「コックの仕事をしてやしたので、それなりの味かと存じやす」
「ううん。旨い。舌の上で溶けるようだ。うーん。なかなかこの味はだせん。気に入った」
「ありがとうございやす」
続いて、小太りのレイバが姫の前に跪いて小さな旗を出して来た。
それにはマスカトの国章が縫い込まれている、馬車用の車旗だった。
「姫のお気に召すかどうか。あっしが縫いやした」
「ええ!? すごい。レイバはこんなことができるのねぇ」
「ありがとうございやす。道具屋の弟子をしてましたんで」
見事な統率と給仕をしてくれたハーツ。
料理作りのガッツ。
御者で道具作りが上手いレイバ。
デラエア姫は思わずため息をもらした。
「本当にあなたたちが来てくれて嬉しいわ。私達なんてなんにも出来ないのに」
姫の賛辞に三人とも照れて頭を下げた。
しかし、グレイブは面白くない。
自分が今までキャンプの準備や姫の水浴びを準備までしてきたし、賞金首を倒して材料の金を出しているのは自分だ。それが『なんにもできない』とは腑に落ちなかった。
だからといって、得意な戦闘は今はできない。
暗殺者セイバーに、今飛び出してこいと願ったほどだ。
しかしふと思いついた。起死回生の会話。これで全員の鼻を明かしてやろうというものだった。
「あ~。レイバ」
「へぇ!」
「君のレイバという名前は今は失われてしまったシャーリ語で『かわいいネズミ』という意味だ。それが第13代のランフラス王の幼名だったためにこの地方では流行する名前となったのだ」
「……へぇ」
グレイブは自分の知識を姫に褒めてもらえるとふふんと鼻を鳴らした。
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