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クインスロメン王国
第33話 女の国
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国境近くとなると、ランフラス王国の軍勢が関所の前にたむろしていた。隣国のクインスロメン王国と有事の際にはすぐに動けるようにだ。
そんな中、デラエア姫一行の馬車は進んでゆく。
関所で隣国に向かう手続きをしていると、兵士がグレイブをカエルの騎士であることに気が付いた。
「ご高名なカエルの騎士さまが他国に行ってしまわれるのは寂しく残念な気持ちです。どうか、隣国のお味方などされませんようお願い申します」
「はっはっは。戦争にはあまり興味がない。ハイリスクだからな。恨みをもたれて入国禁止にされては困る。私は賞金稼ぎだ。あちらでもよい稼ぎが出来ればいいのだが」
「あちらでも、いろいろと困りごとがあるようです。よい仕事が出来るのでは?」
「そう望んでいるよ」
グレイブは御者のレイバに駒を進めさせ、無事に国境を抜けることが出来た。
関所の大きな壁を抜けると、今度はクインスロメン王国の軍隊のテントが立ち並んでいる。
異様な雰囲気だ。それほど一触即発ではない。なにもこれほど緊張しなくても良いのではないかと思った。
中央の道を進んでいくと、小さい宿場町があった。そこには、クインスロメン王国の鎧を着用した兵士たち。非番か交代で兵舎より離れてここに遊びに来ているのだろう。他の国でもよくある風景だ。
だが、そこからグレイブ達一行の姿を見ると黄色い歓声が上がった。
なんと、兵士たちはみな女だったのだ。
「へいへい! お兄さんたちどこ行くのー?」
「私たちと遊ばなーい?」
血気盛んな女兵士たちは、一行をはやし立てた。
町には数件の店がある。開放されたドアより店内が伺えた。
酒場にも女兵士でごった返しており、一人しかいない若いウェイターの尻を触るなどしてちょっかいをかけている。ウェイターは嫌悪の表情で注意しているようだが、女兵士たちは意に介せぬ顔をしてますますイタズラを繰り返していた。
奥には壮年のハゲたバーテンがいるものの、それにも数人の女子が固まっているようだった。
男の数が異常に少ない。
なんと娼館まで男娼だ。女兵士を相手に商売をしているのだろう。露出の少ない服装を着て女兵士の目を引いている。客引きなど必要がないほど繁盛していた。
「こ、これは?」
「兄貴! 止まりやすかい? 通り過ぎやすかい?」
「これは明らかに異常だ。通り過ぎよう!」
グレイブの言葉で馬車は町の中央にある石畳の道を急いで通り過ぎた。
後ろから女兵士たちの恨み言が追いかけてくる。
今までなかったような不気味な恐ろしい町だった。
やがて日も暮れ始め、どこかキャンプに良い場所を探すと、道の脇に大きな牧場と麦畑のある農家を見つけた。
そこで食糧や馬の秣でも買い込み、土地の片隅でキャンプをさせて貰おうと立ち寄ることにした。
グレイブとハーツの二人が農家の家の扉を叩くと出て来たのは、中年の女性。奥には老婆と若い女が三人。ここにも男がいなかった。それらはグレイブとハーツを見るなり嬉しそうに『まぁ』と声を上げた。
食糧や秣はすんなり買うことが出来、それをステイルの腹の中に預けた。
敷地内でのキャンプの話になると、女主人はキャンプなどしないで、屋敷の中に部屋がたくさんあるから一人ずつ泊まって欲しいと歓待した。
「すいません。お礼は存分に致します」
バケツの中から声がするものだから、女たちはみんな驚いた。
見ると、バケツの縁からカエルが顔を出している。
「ひぃ!」
っと声を上げる若い女たち。
グレイブはバケツを抱えながらその者たちを睨み倒した。
「これは私の主人である。そのような不遜な態度は許さんぞ」
女たちはピンときた。
おとぎ話だとばかり思っていたが、美男で大剣を持つこの姿。
これこそがカエルの騎士であろうと。
「失礼を致しました。どうぞご主君さまと騎士さまは上座へ。お供の方々もどうぞ。どうぞ」
農家の女主人はテーブルの上に上質な燭台を起き、焼きたてのパンや生ハム、野菜がゴロゴロ入ったスープで接待し、グラスに並々と酒を注いだ。一行は全員嫌いじゃない。その酒を一気に痛飲した。
冷えていて味がよい。無作法にも何度もおかわりを頼むほどだった。
しかし異変はすぐに起きた。レイバが食卓に突っ伏して寝てしまったのだ。
ガッツも朦朧としている。グレイブとハーツは急激に下がってくるまぶたを精神力で上げ続け、冷静に女主人に尋ねた。
「はは……。旅の疲れが出てしまったようだ。失礼だが寝所に案内して欲しい」
言ったところでピーンと来た。先の宿場町での様相。
男に群がる女たち。
ここも同じだ。アルコール度数が高いのではない。この食事や酒に毒でも盛ったのであろう。
眠ってしまったところを強引にわがものにするつもりかもしれない。
女たちの動きは急に牛の歩みになった。のろりのろりと布団や枕を部屋に運び入れるが、たった一枚の毛布やたった一つの枕を数人で運び時間稼ぎをしているのが明白だった。
おそらく薬が回ることを期待しているのだろう。
グレイブとハーツは互いに顔を見合わせ頷いた。
グレイブは立ち上がって階段を駆け上り、ハーツはレイバを肩に担ぎ、ガッツの背中を押した。
二階に四部屋の寝室があり、そこに一人一人案内されたが、女たちが奥の部屋に向かった時に、グレイブは手前の部屋のドアを開け放しにした。ドアが廊下を塞いで女達がこちらにこれないうちに、グレイブはハーツ達の体を部屋に押し込み扉を閉め、その扉に寄りかかった。
「ハーツ。気付いたか!?」
「ええ。兄貴。薬でやす。もう頭がフラフラです!」
扉の向こうでは女たちの叫んでいる。
「もし。旅のお方。一人一部屋を用意してございます。皆さんで一部屋は狭いでございましょう?」
ハーツはレイバを一つの寝台に下ろし、その横にガッツを寝かせた。
「く、くそう。兄貴! あっしもダメでやす」
ハーツはそう言って膝をつき、壁に寄りかかっていびきをかいてしまった。
グレイブもすでに意識が朦朧。
しかし、この部屋の扉には鍵がついていなかった。
「クソ! 眠い!」
扉の向こうからドアノブが執拗にひねられている。
扉の前に何か置こうにも、動いたら扉を開けられてしまうだろう。
目の前にはチェストや重そうな洋ダンスがあるのに、ここで力尽きてしまうのか?
そんな中、デラエア姫一行の馬車は進んでゆく。
関所で隣国に向かう手続きをしていると、兵士がグレイブをカエルの騎士であることに気が付いた。
「ご高名なカエルの騎士さまが他国に行ってしまわれるのは寂しく残念な気持ちです。どうか、隣国のお味方などされませんようお願い申します」
「はっはっは。戦争にはあまり興味がない。ハイリスクだからな。恨みをもたれて入国禁止にされては困る。私は賞金稼ぎだ。あちらでもよい稼ぎが出来ればいいのだが」
「あちらでも、いろいろと困りごとがあるようです。よい仕事が出来るのでは?」
「そう望んでいるよ」
グレイブは御者のレイバに駒を進めさせ、無事に国境を抜けることが出来た。
関所の大きな壁を抜けると、今度はクインスロメン王国の軍隊のテントが立ち並んでいる。
異様な雰囲気だ。それほど一触即発ではない。なにもこれほど緊張しなくても良いのではないかと思った。
中央の道を進んでいくと、小さい宿場町があった。そこには、クインスロメン王国の鎧を着用した兵士たち。非番か交代で兵舎より離れてここに遊びに来ているのだろう。他の国でもよくある風景だ。
だが、そこからグレイブ達一行の姿を見ると黄色い歓声が上がった。
なんと、兵士たちはみな女だったのだ。
「へいへい! お兄さんたちどこ行くのー?」
「私たちと遊ばなーい?」
血気盛んな女兵士たちは、一行をはやし立てた。
町には数件の店がある。開放されたドアより店内が伺えた。
酒場にも女兵士でごった返しており、一人しかいない若いウェイターの尻を触るなどしてちょっかいをかけている。ウェイターは嫌悪の表情で注意しているようだが、女兵士たちは意に介せぬ顔をしてますますイタズラを繰り返していた。
奥には壮年のハゲたバーテンがいるものの、それにも数人の女子が固まっているようだった。
男の数が異常に少ない。
なんと娼館まで男娼だ。女兵士を相手に商売をしているのだろう。露出の少ない服装を着て女兵士の目を引いている。客引きなど必要がないほど繁盛していた。
「こ、これは?」
「兄貴! 止まりやすかい? 通り過ぎやすかい?」
「これは明らかに異常だ。通り過ぎよう!」
グレイブの言葉で馬車は町の中央にある石畳の道を急いで通り過ぎた。
後ろから女兵士たちの恨み言が追いかけてくる。
今までなかったような不気味な恐ろしい町だった。
やがて日も暮れ始め、どこかキャンプに良い場所を探すと、道の脇に大きな牧場と麦畑のある農家を見つけた。
そこで食糧や馬の秣でも買い込み、土地の片隅でキャンプをさせて貰おうと立ち寄ることにした。
グレイブとハーツの二人が農家の家の扉を叩くと出て来たのは、中年の女性。奥には老婆と若い女が三人。ここにも男がいなかった。それらはグレイブとハーツを見るなり嬉しそうに『まぁ』と声を上げた。
食糧や秣はすんなり買うことが出来、それをステイルの腹の中に預けた。
敷地内でのキャンプの話になると、女主人はキャンプなどしないで、屋敷の中に部屋がたくさんあるから一人ずつ泊まって欲しいと歓待した。
「すいません。お礼は存分に致します」
バケツの中から声がするものだから、女たちはみんな驚いた。
見ると、バケツの縁からカエルが顔を出している。
「ひぃ!」
っと声を上げる若い女たち。
グレイブはバケツを抱えながらその者たちを睨み倒した。
「これは私の主人である。そのような不遜な態度は許さんぞ」
女たちはピンときた。
おとぎ話だとばかり思っていたが、美男で大剣を持つこの姿。
これこそがカエルの騎士であろうと。
「失礼を致しました。どうぞご主君さまと騎士さまは上座へ。お供の方々もどうぞ。どうぞ」
農家の女主人はテーブルの上に上質な燭台を起き、焼きたてのパンや生ハム、野菜がゴロゴロ入ったスープで接待し、グラスに並々と酒を注いだ。一行は全員嫌いじゃない。その酒を一気に痛飲した。
冷えていて味がよい。無作法にも何度もおかわりを頼むほどだった。
しかし異変はすぐに起きた。レイバが食卓に突っ伏して寝てしまったのだ。
ガッツも朦朧としている。グレイブとハーツは急激に下がってくるまぶたを精神力で上げ続け、冷静に女主人に尋ねた。
「はは……。旅の疲れが出てしまったようだ。失礼だが寝所に案内して欲しい」
言ったところでピーンと来た。先の宿場町での様相。
男に群がる女たち。
ここも同じだ。アルコール度数が高いのではない。この食事や酒に毒でも盛ったのであろう。
眠ってしまったところを強引にわがものにするつもりかもしれない。
女たちの動きは急に牛の歩みになった。のろりのろりと布団や枕を部屋に運び入れるが、たった一枚の毛布やたった一つの枕を数人で運び時間稼ぎをしているのが明白だった。
おそらく薬が回ることを期待しているのだろう。
グレイブとハーツは互いに顔を見合わせ頷いた。
グレイブは立ち上がって階段を駆け上り、ハーツはレイバを肩に担ぎ、ガッツの背中を押した。
二階に四部屋の寝室があり、そこに一人一人案内されたが、女たちが奥の部屋に向かった時に、グレイブは手前の部屋のドアを開け放しにした。ドアが廊下を塞いで女達がこちらにこれないうちに、グレイブはハーツ達の体を部屋に押し込み扉を閉め、その扉に寄りかかった。
「ハーツ。気付いたか!?」
「ええ。兄貴。薬でやす。もう頭がフラフラです!」
扉の向こうでは女たちの叫んでいる。
「もし。旅のお方。一人一部屋を用意してございます。皆さんで一部屋は狭いでございましょう?」
ハーツはレイバを一つの寝台に下ろし、その横にガッツを寝かせた。
「く、くそう。兄貴! あっしもダメでやす」
ハーツはそう言って膝をつき、壁に寄りかかっていびきをかいてしまった。
グレイブもすでに意識が朦朧。
しかし、この部屋の扉には鍵がついていなかった。
「クソ! 眠い!」
扉の向こうからドアノブが執拗にひねられている。
扉の前に何か置こうにも、動いたら扉を開けられてしまうだろう。
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