右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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クインスロメン王国

第32話 立法

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次の日の朝、バザル出身の三人は早起きして沢の水を汲みに行ったり、朝食の支度をしたりした。
テントを片づけ、荷物を馬車に付け直し、食事が済んだらすぐに出発出来る準備をし終えると、主人の二人を呼んだ。

グレイブは朝食の時から姫に少しでも気に入られようと、一番上等の貴族の服を着用して食卓の席に着いたが、それも見事に空回っていた。
デラエアは自分の食卓に三人を呼び、イスを並べさせ座るように促した。

「え? で、でも……」
「でもじゃありません。これは命令よ」

命令と聞いてようやく三人も食卓に座った。さすがに狭くて三人は身を縮めていた。

「さて、これからみんなで旅をするんだから仲良くやっていきましょう。それぞれ役割分担はあっていいけれど、一人が病気になると機能しなくなるのはマズいと思わない?」

確かにその通りと一堂うなずいた。

「レイバはガッツに馬の御しかたを教えて二人で運転できるようにするのよ。一人が疲れたら寝台で休憩すること。ハーツはグレイブに剣術を習いなさい。グレイブにもしものことがあったらあなたが我々を守るのよ」

三人は姫の指示が的確なのでその通りと賛成した。

「グレイブは? ちゃんとハーツに教えられる?」
「ひ、姫。私は……。私は……」

グレイブには今まで姫を守ってきた自負がある。もしものことなどあり得ない。

「私一人で充分です。姫を守るのは私だけの仕事! どうかその儀、今一度お考え直しを」

しかしデラエアの考えは変わらなかった。

「それは分かってるわよ。でもね、グレイブは無茶をし過ぎよ。自分の体が欠損する戦いなんて、実際私は見てられないのよ? 愛する人が体を切り刻まれるなんて。今度からはハーツと組んで、上手に戦うべきよ」
「な、なるほど……」

言われてみればそうだ。自分が将校だった昔はそのように複数人で戦う戦術が得意と言えば得意だった。
体が欠損して月に一度のお楽しみに影響が出たことは今までもあった。ハーツの協力があれば敵の目を分散できる。面白くはないが、姫の言うことは的を得ていた。

「それに、我々を狙っている暗殺者セイバーもどこかに潜んでいるはずよ。みんなも心に留めて置いて頂戴。グレイブ一人では急な襲撃に対応できないかも知れない。それをたくさんの目で見張るのも大事よ」
「しかし姫、セイバーのような殺人を好む魔物とこの三人では開きがありすぎますぞ!」

「そうかも知れない。でも、心構えは大事よ。この中で一番武で頼りになるのはグレイブ。もちろんあなたよ。でもハーツにも急な対応はして貰いたいの。ハーツいいわね。グレイブ。それにこれは罰よ。私の寝込みを襲った罰」

途端にお供の三人の好奇の目。
今の姫はカエルのお姿。それをどのように寝込みを襲うのだろうと興味津々であった。

「それから、これからは私とグレイブも前の座席に乗ってみんなと苦労を共にすることにするわ。寝台は休憩する者の場所。良いわね。これは法律よ。グレイブは後で今言ったことを書き記しておきなさい」
「は、はい。でも、あの、しかし」

まだ何かを言いたそうなグレイブをギロリと睨みつけると、グレイブは反省した面持ちで肩をすくめて小さくなった。

「まぁ、上下の別があっても楽しくやって行きましょう。私もみんなが窮屈に思わないように振る舞うつもりだけど、ことあるごとに考えて良くしていくつもりよ。これからは食事は五人でまとまってする。グレイブもテント張りくらいに協力すること。グレイブも上手なのよ? みんなもグレイブのやり方を参考にしてね」

まさに鶴の一声。
主君デラエアが五人の旅に新たな法律を作ったのだった。

「取り敢えず、レイバはこの折りたたみ式のテーブルをさらに大きいものに改良なさい。もしくは次の町で買ってもいいけど」
「い、いえ。作り直しやす」

「ふふ、よろしくね」
「へ、へい!」

話がまとまり全員馬車に乗り込んだ。一人が寝台で休憩しにいくと御者席と前座席に全員座れる。楽しいおしゃべりをしながらデラエア姫の一行は国境を目指して駒を進めていった。
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