右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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クインスロメン王国

第40話 精霊強化

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馬車で三日間。棘の魔女を求めてキャンプをしながら進んだ。
やがて深い森に差し掛かるとグレイブは馬車を停めさせた。

「さて、ここからは私とハーツで行くことにしよう。ガッツとレイバは魔物や山賊に襲われないよう、近くの集落で信用ある女傭兵を雇って姫と己の身を守り、宿で寝るように」

そう言って、金袋を渡した。

「それから、それぞれにボトルを渡しておく」

ガッツとレイバには、荷物入れのステイルと物真似フオティ、目くらましを使うスパリグと、影の液体シャルドウネ。
いざとなったら、目くらましや物真似フォティで難局を乗り切れとのことだ。

「ハーツにはこれだ」

それはまだ、物語が始まってからグレイブが開けていない6本目のボトルだった。

「こ、これは?」
「それには鎧の精霊ヴリュトが入っている。長い髪の毛の鎧で、あらゆる物理攻撃や魔法攻撃を避けるんだ。重くはない。ただ時間は3分ほどだ。そして一度使うと疲れてしまってすぐには使い直せない。私はこの通り不死だから余り使わないんだ。それはハーツが持っていていい。レイバ。後ほど得意のレザークラフトでハーツのベルトにボトルホルダーを作ってやってくれ」

「へぇ。お安いご用でやす」
「よし。ではハーツ行くぞ」

「へぇ!」

ハーツは取り敢えず、鎧の精霊ヴリュトが入ったボトルをズボンのポケットに入れ、簡易的なキャンプ道具を背負ってグレイブに続いて森の中に入って行った。


森の中は暗く深い。グレイブはたいまつに火を点けて、何十年も使われていない道の跡を辿って進んで行った。
木の枝や蜘蛛の巣が二人の進路に邪魔をする。
それをハーツが先に進み、得意の二刀流で切ったり退かしたりしながら二人は進行した。

人家の跡らしき場所で暖を取り、キャンプを行った。
森は二人に飢えや渇きは与えなかった。
人がいなくなって久しいのであろう。
森の生き物は簡単にグレイブやハーツに捕まり、彼らの食料となった。

やがて森の植物に変化がある。
棘の量が多くなり始めたのだ。
しばらくすると棘だらけで、その固いとげに邪魔され二人は先に進めなくなった。
その棘の森の向こうには高い塔が見える。
それも棘の蔦に覆われているようだった。
目的地はあそこだ。

「ほう。どうやらあそこのようだな」
「ええ。アニキ。ですがこれじゃ前に進めませんぜ?」

「ああ。切ってしまうにも幅や高さがある。難しいな。いかがしたものだろう」

その時だった。強い突風が二人を襲う。
グレイブはすかさず大剣を抜いて地面に突き刺し踏ん張る。
ハーツはその腰にしがみついた。

「アニキ! こりゃ普通の風じゃありやせん!」
「どうやらそのようだな」

風が通り過ぎたと思ったら、今度は逆方向から吹いてきた。
今度はもっと力強い。
どうやら二人を棘の森に吹き飛ばし、とげをもって串刺しにしてしまうつもりだ。

「ははーん。棘の魔女が使う風の精霊らしい。今までの勇士達はこれに飛ばされて森の肥やしになったんだな」
「アニキ! 悠長なことをおっしゃってる場合じゃございやせん! あっしらも同じ運命ですぜ!」

「まぁ見ていよ。この勝負オレたちの勝ちで、この森を抜ける算段も見つかった」
「はぁ!?」

グレイブは腰のボトルに手を伸ばす。
ポンっと勢いよい音が鳴ると、目の前につむじ風の精霊、カヴェルーネが飛び出してきた。
カヴェルーネは突風が来るたびに回転すると、それを飲み込んでしまうようだった。
たちまち突風はカヴェルーネと同化し、カヴェルーネの大きさは二倍以上となってしまった。

「あ、アニキ。これは……」
「この風の精霊たちは同化し合う。カヴェルーネは今まで三体の風の精霊と同化して今の大きさになったのだ。これで四体目。力も強くなり、大きさも増したようだな」

「すげ! アニキはやっぱりすげぇでやす!」
「カヴェルーネ。この棘の森を根こそぎ破壊してしまえ!」

グレイブが命ずると、カヴェルーネは風速何十メートルという台風のように大きく回転し、棘の塔までの棘の森を薙ぎ倒してしまった。

「ふーん。想像したよりはまだ少し弱いな。まだまだ大きくなりそうだ」

グレイブはカヴェルーネをボトルへしまい、抜いた大剣を腰に戻すと、ハーツと共に塔までの道を急いだ。
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