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クインスロメン王国
第41話 決戦! 棘の魔女
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やがて塔の全貌が見えてきた。
細長くてっぺんは大きく膨らんでいる。おそらくそこが魔女の居住地なのだろう。
国への恨みつらみだけで、長生の魔法を使い、永遠に男が生まれない呪いをする。
「なんともあわれでやすなぁ」
「誠に以て。だがそのエネルギーは軽蔑にしか繋がらん」
グレイブは塔の入り口にある古ぼけた扉に手をかけて開けると、中から勢いよく槍を束にした振り子がグレイブを襲った。
「いいいいい!」
ハーツは驚いて声を上げたが、グレイブにしてみれば簡単なトラップだ。入り口近くに人骨が無数に転がっている。
昔、魔女を討伐に来た勇士達のものであろう。
グレイブはすでに備えており、その尖端を指二本で抑え、短刀を投げて振り子を吊してある軸の縄を切って落とした。
「さすがアニキ……」
「ハーツ。気を付けろ。周りは罠だらけだ」
「へ、へい」
長い長いらせん階段を上る。
時折、レンガが頭上から落ちてくるがグレイブが拳で破壊してしまう。横から矢が飛びだしてハーツを襲うが、それもグレイブが手で握って阻止した。
「す、すいやせんアニキ。足手まといで……」
「うん?」
グレイブは不思議とそう感じていなかった。
前までは、姫との旅に不要なヤツたちと思っていたが、姫から言われた、連携して戦うことという言い付け。
あれ以来剣術を教え、共に行動するようになって、ハーツと一緒にいるのが当たり前になってきており、守るのも一部となっていたので、そんな思いは少しもなかった。
ハーツといるのは楽しいし、斥候や先導として役に立ってくれていた。
「まぁそう思うな。オレは君より50年も多く生きているし、ダメージを受けても痛みがない。なるべくオレの後ろに隠れて、飛び道具で敵を攻撃するといい」
「へ、へぇ!」
「ふふ」
塔の中はじっとりしていて灯りも何もない。グレイブが持つたいまつが頼りだ。
そして、えげつないトラップ。
侵入者を拒み誰も寄せ付けない。
これが魔女によるタニップという恋人への愛かとグレイブは苦笑した。
やがて塔の最上階に到着した。
トラップがなければすんなりと上れる距離だが、それのおかげで多くの勇士達は命を落としたであろう。
「さて誰も戻って来れなかったと言うことは魔女も強いんだろうな」
ハーツは震えるが、グレイブは最上階の部屋の扉に手をかけて開けた。
中は広く、魔法を行う様相だった。
左右には黒いカバーの本がたくさん収められた本棚がある。
虫やおぞましい生き物の干物や標本。
足元には人骨がゴロゴロし、香炉からは嫌ったらしい香りの煙りが立ち上がっていた。
窓辺には50センチメートルほどの腰の曲がった老婆がこちらを見ずに窓の外を見ていた。
だがそれが口を開く。
「来たか。カエルの騎士と、その伴よ」
地の底から響くような声にハーツはまたも震えたがグレイブはいつものことと落ち着いて話を始めた。
「ああ。知っていたのなら話は早い。君の恋人のタニップより言付けを頼まれたんだ」
「タニップ……」
「そうさローズ。彼は君のことを死しても気にしていた。いじけた呪いなどやめ、余生を送り彼の待っている天国へ向かうといい」
「ふっ」
棘の魔女がグレイブを指差し、何かを呟くとグレイブの耳の横をかすめて後ろの壁に穴が開く。
それは壁に球形の跡を残し、物質を根こそぎ無いものにしていた。
呪いの言葉が物理的な攻撃を持つ魔法となっているのだ。
「なんて力強い呪いの魔法だ! ハーツ! いつでもヴリュトを開けられるようにしておけ!」
「へぇ!」
グレイブは叫んで大剣を抜いた。
彼女は聞く耳を持たない。
「よくも私の風の精霊を奪ったね。生かしちゃおけない」
「くそ! 何でも恨むんだ! 何でも呪いのエネルギーにするんだ!」
グレイブに向けられた指先。
それから身をかわす。
その瞬間、後ろの壁に丸い穴が開く。
「カエルの騎士。お前のせいで塔のトラップをやり直さなくちゃならん。壁に穴も空いた。恨めしい。なんて恨めしいのだろう」
「おいローズ。タニップは今でも君を愛している。こんなこと、彼は望まない。やめろ。やめるべきだ」
「知らないね。タニップ? 誰だそれは」
説得が空しく終わる。
グレイブは白銀の大剣を構えた。
呪いの破壊呪文から身をかわしながら棘の魔女との間合いをつめていたのだ。
グレイブの射程距離内。
剣撃を突き出せば魔女を刺せる。
細長くてっぺんは大きく膨らんでいる。おそらくそこが魔女の居住地なのだろう。
国への恨みつらみだけで、長生の魔法を使い、永遠に男が生まれない呪いをする。
「なんともあわれでやすなぁ」
「誠に以て。だがそのエネルギーは軽蔑にしか繋がらん」
グレイブは塔の入り口にある古ぼけた扉に手をかけて開けると、中から勢いよく槍を束にした振り子がグレイブを襲った。
「いいいいい!」
ハーツは驚いて声を上げたが、グレイブにしてみれば簡単なトラップだ。入り口近くに人骨が無数に転がっている。
昔、魔女を討伐に来た勇士達のものであろう。
グレイブはすでに備えており、その尖端を指二本で抑え、短刀を投げて振り子を吊してある軸の縄を切って落とした。
「さすがアニキ……」
「ハーツ。気を付けろ。周りは罠だらけだ」
「へ、へい」
長い長いらせん階段を上る。
時折、レンガが頭上から落ちてくるがグレイブが拳で破壊してしまう。横から矢が飛びだしてハーツを襲うが、それもグレイブが手で握って阻止した。
「す、すいやせんアニキ。足手まといで……」
「うん?」
グレイブは不思議とそう感じていなかった。
前までは、姫との旅に不要なヤツたちと思っていたが、姫から言われた、連携して戦うことという言い付け。
あれ以来剣術を教え、共に行動するようになって、ハーツと一緒にいるのが当たり前になってきており、守るのも一部となっていたので、そんな思いは少しもなかった。
ハーツといるのは楽しいし、斥候や先導として役に立ってくれていた。
「まぁそう思うな。オレは君より50年も多く生きているし、ダメージを受けても痛みがない。なるべくオレの後ろに隠れて、飛び道具で敵を攻撃するといい」
「へ、へぇ!」
「ふふ」
塔の中はじっとりしていて灯りも何もない。グレイブが持つたいまつが頼りだ。
そして、えげつないトラップ。
侵入者を拒み誰も寄せ付けない。
これが魔女によるタニップという恋人への愛かとグレイブは苦笑した。
やがて塔の最上階に到着した。
トラップがなければすんなりと上れる距離だが、それのおかげで多くの勇士達は命を落としたであろう。
「さて誰も戻って来れなかったと言うことは魔女も強いんだろうな」
ハーツは震えるが、グレイブは最上階の部屋の扉に手をかけて開けた。
中は広く、魔法を行う様相だった。
左右には黒いカバーの本がたくさん収められた本棚がある。
虫やおぞましい生き物の干物や標本。
足元には人骨がゴロゴロし、香炉からは嫌ったらしい香りの煙りが立ち上がっていた。
窓辺には50センチメートルほどの腰の曲がった老婆がこちらを見ずに窓の外を見ていた。
だがそれが口を開く。
「来たか。カエルの騎士と、その伴よ」
地の底から響くような声にハーツはまたも震えたがグレイブはいつものことと落ち着いて話を始めた。
「ああ。知っていたのなら話は早い。君の恋人のタニップより言付けを頼まれたんだ」
「タニップ……」
「そうさローズ。彼は君のことを死しても気にしていた。いじけた呪いなどやめ、余生を送り彼の待っている天国へ向かうといい」
「ふっ」
棘の魔女がグレイブを指差し、何かを呟くとグレイブの耳の横をかすめて後ろの壁に穴が開く。
それは壁に球形の跡を残し、物質を根こそぎ無いものにしていた。
呪いの言葉が物理的な攻撃を持つ魔法となっているのだ。
「なんて力強い呪いの魔法だ! ハーツ! いつでもヴリュトを開けられるようにしておけ!」
「へぇ!」
グレイブは叫んで大剣を抜いた。
彼女は聞く耳を持たない。
「よくも私の風の精霊を奪ったね。生かしちゃおけない」
「くそ! 何でも恨むんだ! 何でも呪いのエネルギーにするんだ!」
グレイブに向けられた指先。
それから身をかわす。
その瞬間、後ろの壁に丸い穴が開く。
「カエルの騎士。お前のせいで塔のトラップをやり直さなくちゃならん。壁に穴も空いた。恨めしい。なんて恨めしいのだろう」
「おいローズ。タニップは今でも君を愛している。こんなこと、彼は望まない。やめろ。やめるべきだ」
「知らないね。タニップ? 誰だそれは」
説得が空しく終わる。
グレイブは白銀の大剣を構えた。
呪いの破壊呪文から身をかわしながら棘の魔女との間合いをつめていたのだ。
グレイブの射程距離内。
剣撃を突き出せば魔女を刺せる。
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