右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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クインスロメン王国

第42話 頑張れハーツ!

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だがグレイブは躊躇してしまった。
いじけた呪いをするだけの魔物と思えば良かったのだ。
そんな躊躇が命取りだと知っていた。
魔女とは言え、老婆で女。
一瞬の迷いがあった。

その瞬間、魔女はゴニョゴニョと口を動かした。
呪いの魔法だ。グレイブはようやく剣を突き出した!
だが、その剣は魔女に届かない。刀身が短くなってゆく。
魔女の魔法が剣を破壊して行っているのだ。
球形と化した呪いの言葉は回転しながら形あるものを破壊してゆく。
それはグレイブの腕すらかすめ、後方の壁に丸い穴を開けた。

「ひいいいいい!」

ハーツの叫び声が塔の中に響き渡る。
両腕の肘から下を失ったグレイブはバランスを失ってそこに倒れ込んでしまった。
続いて魔女は、ゴニョゴニョと呪文を唱えたかと思うと今度はグレイブの左足を指差す。

ドゴンと言う音と共に、その床に穴が空き、そこにあったグレイブのくるぶしから下もなくなってしまった。

「ちょっとばかし外したかねぇ。まぁこれでカエルの騎士も動けんだろう。後は雑魚だし」
「は、話の通じる相手じゃない」

「そうさ。人間を呪い、戦争を呪うのさ。国が彼を殺したんだ」

魔女はまたも呪文を唱え始めた。
今度はグレイブのどこに穴を開けるのか?
その時、魔女の肩にぶっつりと矢が刺さる。
それはハーツが放った弩からの矢であった。
魔女はそれを引き抜こうとしたが、強く突き刺さっているので簡単に抜けない。
彼女はグレイブのことなど忘れたようにハーツの方に目をやった。

「ひい!」
「なんと、弱そうな。そんなヤツにコケにされたなんてねぇ。もう生かしちゃおけないよ。呪いの魔法でじわじわと身を削ってやるっ!」

魔女はハーツの足元に指先を向けた。
だがハーツはダメージ一つ負わない。
ハーツの周りにはグルグルと髪の毛のようなものが巻き付いて何も寄せ付けなかった。

「こ、これが鎧の精霊!? ともかく今しかねぇ!」

ハーツはグレイブの元へ急いだ。
魔女はハーツへ数弾、魔法を放ったが効果はなかった。

「アニキ! 逃げるでやす!」
「オレは無理だ。時間がない。ハーツ。君だけ逃げろ」

「バカな!」

鎧の制限時間は3分。
すでに半分は経過していた。
ハーツはグレイブを担いで逃げようとしたが、この部屋を出る頃には無敵の鎧は効果を失う。

ハーツがふと目をやるとグレイブの腰にボトルが見えた。
起死回生の精霊を使う。
だがハーツは中身をよく分かっていない。
何か良いもの。何か良いもの。
ハーツは一本のボトルを引き抜いた。

グレイブもそれを見てニコリと笑う。
この難局にはこのボトルで正しかったらしい。
ハーツはその蓋を親指で弾いた。

8本目のボトルがら現れたそれは徐々に姿を現してゆく。
魔女の方でも驚いて身構えた。
それはデスキングだった。
魂でありながら、力強い攻撃を期待できる。
グレイブはそれを見て勝ちを確信した。

「おやおや、我が息子よ。最近はよく倒れるな」
「父君。ふがいないグレイブにお力添えを」

「このようなもの、手こずる相手でもない」

デスキングは手を大きく広げた。
強いエネルギーが形となっているその手は、畳ほどの大きさで宙に浮いていた。
魔女の方でもデスキングに呪いの魔法を呟く。
デスキングは直撃を受けたが、全くの平気であった。

「形あるものは砕けてしまうようだな。だがこれは余を砕かん」
「なっ……!」

魔女の方でも自信のあった魔法だ。
だが目の前の精霊にはノーダメージ。
魔女は身じろぎした。

「強い魂だ。恨めしい。でも制限時間がある。それは一分程だろう。その後は暗所で休まなくてはならない。どうだ!」
「はっはっは。その通りだ」

魔女の言うとおりだった。
デスキングも無敵の力ではあるが長くは持たない。
魔女はニヤリと笑った。

「だったら逃げ切れば後は二人を料理するだけだ」
「そうだな。逃げ切れれば」

デスキングはボトルを手にしていた。
それは11本目のボトル。彼はその蓋を開けた。

「地獄の門だ。異世界で悔やむといい」

そこには扉が一つ。中には延々と荒野が広がり、赤い炎が燃えているのが見えた。
魔女は逃げようとするも、デスキングの腕はすでに彼女の元へ飛び左腕と首筋をがっしりと摑んでいた。

「な、何と恨めしい」
「話の通じぬものはこうするより他あるまい」

そう言って、門の中に投げ込むとドアを閉めボトルに戻してしまった。
棘の魔女の悔しさを呻く断末魔だけが部屋に残ったが、それもすぐに消えた。

「全く、昔から無茶をする息子だ」

デスキングは一言つぶやくと自らボトルに収まって蓋を閉じた。
制限時間が来たのだ。
強いエネルギーは長い間ボトルから出ていられない。
ボトルの暗く狭い中だとエネルギーもたまるのだ。
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