右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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クインスロメン王国

第43話 尻の危機

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グレイブは両腕を失い、片足も失った。
だがよく見ると左腕はそれほどでもない。人差し指と中指は大きくそがれてしまっていたが、他の三指は残っていたのだ。
グレイブはそれをみてホッと安堵のため息をついた。

「よかった」

何が良いものか。ハーツは呆れた。

「アニキ。無茶ですぜ。そんなに腕や足を失っておいて」
「なぁに。一月もすれば完全に修復する」

「そりゃそうでしょうけど、ヒドいやられかたですぜ」
「そうだな。さすがに今回は参った。ハーツがいなければ塔からも出れなかったろう。スマンが肩を貸してくれ」

「お安い御用でさぁ」

ハーツはグレイブを起こし、座らせ、ほとんど柄しか残っていない大剣を鞘へと戻して立ち上がらせた。
そしてグレイブの短くなってしまった右腕を担いで肩へと回した。

「じゃぁ、歩きやすぜ。もっと寄りかかって結構でございやす」
「はは。ハーツがいてくれて助かった。少し遅くはなるが姫の元に戻れるな」

「全く。道中をお忘れですかい? 森の中にどんな怪物がおりますことやら」
「そうだな。カヴェルーネやリスリグ、デスキングを使ってうまく進んでくれ」

「そうさせてもらいやす」

行きも大変んだったが、帰りも大変だ。
ハーツはグレイブの身を支えて細い螺旋階段を降りねばならなかった。

「アニキ。先ほど『よかった』と申されましたが、何がよかったんで?」
「ああ。まだ指が残っている。オレの体は不死だ。他も蜥蜴の尻尾のように生えては来るが時間がかかる。その間に指がないと尻がふけんだろ?」

「……尻? 尻ですって!? アニキ! あの決戦が終わって一番最初の心配が尻の心配ですかい!」
「当たり前だろう。まさかハーツに拭いてくれとも言えん」

「そのくらい拭きやすよ……」
「おいおい。オレが恥ずかしいわ」

「ホントにアニキはカッコ付けでございやす」
「なんだと?」

「いーえ。こちらの話で」
「全く、主君を主君とも思わんヤツだ」

「そりゃそうでしょう。あっしらの仕官を認めたのは王女さまでございやすからね。アニキはまだまだあっしらをお認めになってない」
「こいつ」

「おやおや。アニキはそんなに体の部分を失っても元気でやすねぇ~。もしもあっしが男色家だったらどうするおつもりで?」
「は!? う、うそだろ?」

「今のアニキの後庭を弄ぶことなんて分けないことでやすからね?」
「ちょ、ちょ、マジ? やめろよ?」

「さてどうでしょうね~」
「おいウソだろ。ウソって言って」

「ウソでやすよ」
「ホッ」

「アニキのお体って温かいでやすねぇ……」
「ヒッ……」

グレイブは小さく悲鳴を上げたが、今はハーツにしがみつくしかなかった。
そんな感じで森を抜けるのに五日。
戦闘よりも緊張した。
途中、大きなモンスターに襲われることもなく森から出ることができた。




さらに一番近くの宿場町に到着するのに一日。
その頃になると、グレイブの左腕は完治。右足はある程度修復し、歩くことが出来た。
グレイブの執念であろう。少しばかり足を引きずりながらもハーツより離れた。

「やれやれ、ウソだって言いましたのに」
「うるさいハーツ。近づくな」

「へぇへぇ」

やがて街に入ると、宿屋の周りに人だかりだ。
そこにはマスカトの国章のある馬車。どうやら仲間たちはここで宿をとっているらしい。
しかも、人だかりはレイバやガッツが目的なのであろう。
彼らをひと目見ようということだ。
なんとも浅ましいと思いながら、グレイブとハーツは近づいた。

「これ。どきたまえ」

グレイブの低くて男らしい声に、女性たちは一斉に振り向いた。

「まぁ、男だわ!」

凄まじい歓声が上がる。だがグレイブの腕を見て引き下がった。

「見ての通りところどころモンスターに食われてしまってね。肝心の部分もこの有様だ。君たちのお役に立てんよ。そしてこっちの眼帯の男は男色家で女には興味がない」
「まぁ!」

女たちは唾棄するような目で二人を見た。
左手の親指で指されたハーツは腑に落ちない顔をしていた。
その時だった。別の歓声が上がった。

「生まれた! トマの子が生まれた! 男の子の双子よ!」

女たちの目がギラリと輝き、その住人の家まで急いだ。
さらに、別の家でも男の子が生まれた。
どうやら、棘の魔女の呪いはとけたようだ。
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