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クインスロメン王国
第46話 愛に震えて
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女刀匠は、突然の男の来訪に目をキラキラさせており、いいところをみせようと張り切った。
グレイブはボトルからボウルドを呼び出し、上白銀を生成させ刀匠にそれを差し出した。
「こ、これで大剣でございますね。かしこまりました。精一杯やらせていただきます」
「どのくらいかかる? 金に糸目はつけんが」
「さすれば10日……。いえ一週間で」
「そのくらいはかかるのを覚悟しているよ。ではよろしく頼む」
グレイブのスマイルに真っ赤な顔をした刀匠はすぐさま仕事に取りかかった。
二人は外に出ると、花のある庭園があり、そこにはベンチも置かれていた。
「ハーツ。少しばかりそこで話をしよう」
「へ、へぇ」
花畑より吹く風が爽やかなよい香りを運んでくる。
「それでどうなんだ? あの将軍の娘とは」
「いやぁ。無理。無理でやす。あんな男みたいなの」
「本心は? 違うだろ?」
「……まぁそのぉ~なんですか」
ハーツは何時になく照れていた。
グレイブは微笑みがちにその回答を待っていた。
「レモーネはあの通りの顔立ちですし、あっしに合わせてのきっぷのよさ。そして惚れっぷり。どれをとってもあれ以上の女は今後あらわれやせん。仲間もみんなレモーネを慕っておりやした」
「ふむ。それでなぜ彼女をあのように突っ撥ねる。身分の差が気になるのか?」
「まさか……。あっしはレモーネに会うためにホテルの最上階まで壁を登った男でやすよ? 攫ってでも一緒になりやしたよ」
「それではなぜ……」
「オルレンジ将軍はランフラス王国では名将の名が高い将軍でやす。誰しもが尊敬するお方。そもそも、私の母は彼の将軍の世話をする侍女だったのです。いつしか二人は愛し合い、母は身ごもりました。しかし、将軍にはランフラス王の王女であります奥様がおられやした。大変嫉妬深いお方で、それを知られたら母は腹に宿った子ごと、なにをされるか分かったものではありやせん。母はその事実を隠し、顔に墨を塗って都から国境近いバザルまで逃げたのでやす」
「ま、まさか……」
「そうなんでやす。あっしとレモーネは腹違いの兄妹でやす。知らぬとは言え背徳な行いをしてしまいました。なんということでやしょう。レモーネはあっしのような兄に見初められなければ幸せな結婚を送ったのでやす。言えるはずがありやせん。あっしはレモーネが来る度に、馬車に乗せて都へ冷たく帰しやした。嫌われなくてはいけないのでやす。あの子には幸せになってもらわないと……」
なんということであろう。
二人は兄妹であったのだ。ハーツにはそんな暗い過去があった。
だがベンチの後ろからハーツにスライディングハグをかます女。
まさしく妹のレモーネであった。
突然抱きしめられ、ハーツの息はつまった。
「ぐ、ぐは!」
「ふーん。そういうわけだったのね~」
とガッツにバケツをうやうやしく持たれ中から顔を出して話しかけたのはデラエア王女であった。
「ごめんね。後を付けて聞いちゃった」
しかし、ハーツに絡まるレモーネ嬢。
まるで大型犬が飼い主にじゃれるようだ。
「れ、レモーネ苦し……。死ぬ……」
「ハーツのバカ! なんで言ってくれなかったの?」
「お前にまで背徳を背負わせたくなかったんだ。分かってくれ」
「違うの! 違うのぉ! あなたは将軍の息子!」
「そうさ……。そしてキミの兄なんだ」
「お父様とお母様にはとうとうお子様が出来なかったわ。そのために私を五歳の時に親戚から養女として迎えたの。もしも息子を見つけたら、結婚させるって……」
「え!?」
「お父様はあなたのお母様が妊娠していたのを知っていたわ。もしかして男子かもしれないって。だからその日が来るまで私にレディとしての教育、そして万が一の為に武官としての教育もしたの。バザルに行ったのは、隠れてしまったあなたのお母様を探すためよ。でも遂に見つからなかった」
「お、おう。母ちゃんはあっしが14の時に死んじまったからなぁ……」
「ランフラスをくまなく探した父は、私に仕官するか女の幸せを掴むかを選ばせてくれたの」
「それはつまり……」
「ハーツ! 私達結婚出来るのよ!」
「ああ! レモーネ!」
あれほど嫌がっていた鎧姿のレモーネをつぶれるほどハーツは抱きしめた。
それをバザルからついて来た二人も涙を流して拍手し祝福した。
グレイブとデラエア王女もそれを温かく見守る。
「姫。この町にはしばらく滞在せねばなりません」
「そうなの? 武器かなにかを作ってるのね」
「御意にございます。私の大剣を作っておりますので」
「そうなんだ」
「ですので、明日にでも我ら二人が仲人となって結婚式をあげてやりましょう」
「あらいいじゃない。……でもなんで明日?」
「それは今日が満月だからでございます」
「ま。あきれた」
「私の腕がこんな感じですので姫には是非共主導権を握って頂きたく存じます」
「ますますあきれたわ。あ~あの二人のような時代に戻りたい……」
グレイブはボトルからボウルドを呼び出し、上白銀を生成させ刀匠にそれを差し出した。
「こ、これで大剣でございますね。かしこまりました。精一杯やらせていただきます」
「どのくらいかかる? 金に糸目はつけんが」
「さすれば10日……。いえ一週間で」
「そのくらいはかかるのを覚悟しているよ。ではよろしく頼む」
グレイブのスマイルに真っ赤な顔をした刀匠はすぐさま仕事に取りかかった。
二人は外に出ると、花のある庭園があり、そこにはベンチも置かれていた。
「ハーツ。少しばかりそこで話をしよう」
「へ、へぇ」
花畑より吹く風が爽やかなよい香りを運んでくる。
「それでどうなんだ? あの将軍の娘とは」
「いやぁ。無理。無理でやす。あんな男みたいなの」
「本心は? 違うだろ?」
「……まぁそのぉ~なんですか」
ハーツは何時になく照れていた。
グレイブは微笑みがちにその回答を待っていた。
「レモーネはあの通りの顔立ちですし、あっしに合わせてのきっぷのよさ。そして惚れっぷり。どれをとってもあれ以上の女は今後あらわれやせん。仲間もみんなレモーネを慕っておりやした」
「ふむ。それでなぜ彼女をあのように突っ撥ねる。身分の差が気になるのか?」
「まさか……。あっしはレモーネに会うためにホテルの最上階まで壁を登った男でやすよ? 攫ってでも一緒になりやしたよ」
「それではなぜ……」
「オルレンジ将軍はランフラス王国では名将の名が高い将軍でやす。誰しもが尊敬するお方。そもそも、私の母は彼の将軍の世話をする侍女だったのです。いつしか二人は愛し合い、母は身ごもりました。しかし、将軍にはランフラス王の王女であります奥様がおられやした。大変嫉妬深いお方で、それを知られたら母は腹に宿った子ごと、なにをされるか分かったものではありやせん。母はその事実を隠し、顔に墨を塗って都から国境近いバザルまで逃げたのでやす」
「ま、まさか……」
「そうなんでやす。あっしとレモーネは腹違いの兄妹でやす。知らぬとは言え背徳な行いをしてしまいました。なんということでやしょう。レモーネはあっしのような兄に見初められなければ幸せな結婚を送ったのでやす。言えるはずがありやせん。あっしはレモーネが来る度に、馬車に乗せて都へ冷たく帰しやした。嫌われなくてはいけないのでやす。あの子には幸せになってもらわないと……」
なんということであろう。
二人は兄妹であったのだ。ハーツにはそんな暗い過去があった。
だがベンチの後ろからハーツにスライディングハグをかます女。
まさしく妹のレモーネであった。
突然抱きしめられ、ハーツの息はつまった。
「ぐ、ぐは!」
「ふーん。そういうわけだったのね~」
とガッツにバケツをうやうやしく持たれ中から顔を出して話しかけたのはデラエア王女であった。
「ごめんね。後を付けて聞いちゃった」
しかし、ハーツに絡まるレモーネ嬢。
まるで大型犬が飼い主にじゃれるようだ。
「れ、レモーネ苦し……。死ぬ……」
「ハーツのバカ! なんで言ってくれなかったの?」
「お前にまで背徳を背負わせたくなかったんだ。分かってくれ」
「違うの! 違うのぉ! あなたは将軍の息子!」
「そうさ……。そしてキミの兄なんだ」
「お父様とお母様にはとうとうお子様が出来なかったわ。そのために私を五歳の時に親戚から養女として迎えたの。もしも息子を見つけたら、結婚させるって……」
「え!?」
「お父様はあなたのお母様が妊娠していたのを知っていたわ。もしかして男子かもしれないって。だからその日が来るまで私にレディとしての教育、そして万が一の為に武官としての教育もしたの。バザルに行ったのは、隠れてしまったあなたのお母様を探すためよ。でも遂に見つからなかった」
「お、おう。母ちゃんはあっしが14の時に死んじまったからなぁ……」
「ランフラスをくまなく探した父は、私に仕官するか女の幸せを掴むかを選ばせてくれたの」
「それはつまり……」
「ハーツ! 私達結婚出来るのよ!」
「ああ! レモーネ!」
あれほど嫌がっていた鎧姿のレモーネをつぶれるほどハーツは抱きしめた。
それをバザルからついて来た二人も涙を流して拍手し祝福した。
グレイブとデラエア王女もそれを温かく見守る。
「姫。この町にはしばらく滞在せねばなりません」
「そうなの? 武器かなにかを作ってるのね」
「御意にございます。私の大剣を作っておりますので」
「そうなんだ」
「ですので、明日にでも我ら二人が仲人となって結婚式をあげてやりましょう」
「あらいいじゃない。……でもなんで明日?」
「それは今日が満月だからでございます」
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