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セイバー
第59話 閑居
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奇妙な縁。
ロイムはセイバーを受け入れた。
彼らはグランドスミスの領内にある小さな街で土地付きの建て売りを購入した。
不便な土地だが静かで良いところだ。
敷地は木の杭で覆われ、農具や作物を入れる小屋がある。
庭には水路と畑があり、自給自足ができる。
夜、セイバーが耕し、日中はロイムが種を蒔く。
こうして二人は人の目には仲睦まじく暮らし始めた。
作物の芽が出るまで、セイバーは金で食物を買おうとロイムに言った。
「でもお金がもったいないわ」
「しかし、オレは平気でもロイムが餓えるだろう?」
「セイバー。山の中には薪が転がっているわ。それをあなたが夜のうちに集めて、私が日中に売るのよ」
「ああ、そうか! そうやって食糧を買うんだな!」
言われた通りにセイバーは夕方に起きて、ロイムと晩餐を共にした。
それから家の裏から山へこっそり飛んで、薪を拾いロイムが持てる程度に縄でまとめ、それを小屋に押し入れる。
朝方になると、ロイムが目を覚まし、セイバーの食事を作る。
それを食べるとセイバーは自室で寝て、夕方に起きる。といった具合だ。
二人の食卓は徐々に豊かになり、街の人々は二人のことをよく知るようになった。
やがてこの小さな家の屋根の上には教会の目印である飾りが付けられた。
この集落には教会がなかったので、街の人たちはこぞってここに訪れた。人々に混じって、セイバーもロイムの説教を後列で聞いて涙した。
街の人はそんなセイバーに尋ねる。
「あなたもこの教会の人でしょう。神父様ではないのですか?」
「い、いえ。とんでもない! ……私は神父ではありません。ロイムの説教を楽しみに聞くものです」
セイバーはロイムの顔を見つめた。
自分はそんなものになれるわけが無い。
親を殺した男。ロイムのそばにいれればそれだけで。
やがて庭に巻いた麦が実を結んで刈り入れ時となった。
他の家では刈り入れをしているのに、ロイムの家ではそれが行われない。
しかし、次の日の朝になると畑の上にはサッパリ作物がなくなっていたので、人々は不思議に思った。
セイバーが夜のうちに刈り込み、小屋の中に全て押し入れていた。ロイムは次の日にそれを整理する。
そんな役割分担がなされていた。
二人の日課は確定していた。
夕方ごろになるとセイバーは起き出してロイムと晩餐を共にする。
テーブルの前に座り、二人でいつもの神へのお題目を唱え、笑い合って食事をする。
肉食のセイバーもロイムと同じ芋を食べ、蔓の入ったスープを飲むのに何の不満も漏らさなかった。
セイバーはロイムが寝付くまで共に居て、その身を抱きしめた。
セイバーは徐々に集落に溶けていった。
人間と何ら変わりない。セイバーは農業も大工仕事も得意だった。
老人が多いこの街で、曇りや雨の日は積極的に人の手伝いをした。
セイバーは大きめのローブを纏った。
ローブが自然に影を作り、少しばかり日中に外出しても太陽は彼を焼かない。
街の人はこの奇抜なファッションを最初は『最近の若者は』という言葉で眉をひそめたが、働き者のセイバーを見れば徐々にそんな言葉は少なくなった。
「ロイムさんの旦那さんが手伝ってくれるのでワシら年寄りは助かるよ」
「旦那さん? いえ、とんでもない。私はロイムを尊敬するもので、夫ではありません」
「なんと! 結婚してはおらんのか。今流行りの同棲と言うヤツだな。ばーさん」
「ホントですねぇ。おじーさん」
「だったらプロポーズせんとなぁばーさん」
「そうですねぇ。おじーさん」
「プロポーズ……」
実際、ロイムはどう思っているのだろう。
自分は人間のまねごとをしてはいるが、人間ではない。
結婚など出来ない。しかし、ある日ふと現れた男とロイムが結婚するなんてことが起きるかも知れない。
そんなことを考えると、セイバーは大木に息継ぎ荒く寄りかかった。
切ない。胸が押しつぶされそうだ。
そんなことになったら自分はどうすればいいのだろう。
死のうと思っても死ねない身。
ただロイムと生きていきたいと思うだけだ。
だか将来は不安だ。ロイムは結婚どうこうよりも先に死んでしまう。セイバーはいたたまれなくなって、家に向かって駆け出した。
ロイムはセイバーを受け入れた。
彼らはグランドスミスの領内にある小さな街で土地付きの建て売りを購入した。
不便な土地だが静かで良いところだ。
敷地は木の杭で覆われ、農具や作物を入れる小屋がある。
庭には水路と畑があり、自給自足ができる。
夜、セイバーが耕し、日中はロイムが種を蒔く。
こうして二人は人の目には仲睦まじく暮らし始めた。
作物の芽が出るまで、セイバーは金で食物を買おうとロイムに言った。
「でもお金がもったいないわ」
「しかし、オレは平気でもロイムが餓えるだろう?」
「セイバー。山の中には薪が転がっているわ。それをあなたが夜のうちに集めて、私が日中に売るのよ」
「ああ、そうか! そうやって食糧を買うんだな!」
言われた通りにセイバーは夕方に起きて、ロイムと晩餐を共にした。
それから家の裏から山へこっそり飛んで、薪を拾いロイムが持てる程度に縄でまとめ、それを小屋に押し入れる。
朝方になると、ロイムが目を覚まし、セイバーの食事を作る。
それを食べるとセイバーは自室で寝て、夕方に起きる。といった具合だ。
二人の食卓は徐々に豊かになり、街の人々は二人のことをよく知るようになった。
やがてこの小さな家の屋根の上には教会の目印である飾りが付けられた。
この集落には教会がなかったので、街の人たちはこぞってここに訪れた。人々に混じって、セイバーもロイムの説教を後列で聞いて涙した。
街の人はそんなセイバーに尋ねる。
「あなたもこの教会の人でしょう。神父様ではないのですか?」
「い、いえ。とんでもない! ……私は神父ではありません。ロイムの説教を楽しみに聞くものです」
セイバーはロイムの顔を見つめた。
自分はそんなものになれるわけが無い。
親を殺した男。ロイムのそばにいれればそれだけで。
やがて庭に巻いた麦が実を結んで刈り入れ時となった。
他の家では刈り入れをしているのに、ロイムの家ではそれが行われない。
しかし、次の日の朝になると畑の上にはサッパリ作物がなくなっていたので、人々は不思議に思った。
セイバーが夜のうちに刈り込み、小屋の中に全て押し入れていた。ロイムは次の日にそれを整理する。
そんな役割分担がなされていた。
二人の日課は確定していた。
夕方ごろになるとセイバーは起き出してロイムと晩餐を共にする。
テーブルの前に座り、二人でいつもの神へのお題目を唱え、笑い合って食事をする。
肉食のセイバーもロイムと同じ芋を食べ、蔓の入ったスープを飲むのに何の不満も漏らさなかった。
セイバーはロイムが寝付くまで共に居て、その身を抱きしめた。
セイバーは徐々に集落に溶けていった。
人間と何ら変わりない。セイバーは農業も大工仕事も得意だった。
老人が多いこの街で、曇りや雨の日は積極的に人の手伝いをした。
セイバーは大きめのローブを纏った。
ローブが自然に影を作り、少しばかり日中に外出しても太陽は彼を焼かない。
街の人はこの奇抜なファッションを最初は『最近の若者は』という言葉で眉をひそめたが、働き者のセイバーを見れば徐々にそんな言葉は少なくなった。
「ロイムさんの旦那さんが手伝ってくれるのでワシら年寄りは助かるよ」
「旦那さん? いえ、とんでもない。私はロイムを尊敬するもので、夫ではありません」
「なんと! 結婚してはおらんのか。今流行りの同棲と言うヤツだな。ばーさん」
「ホントですねぇ。おじーさん」
「だったらプロポーズせんとなぁばーさん」
「そうですねぇ。おじーさん」
「プロポーズ……」
実際、ロイムはどう思っているのだろう。
自分は人間のまねごとをしてはいるが、人間ではない。
結婚など出来ない。しかし、ある日ふと現れた男とロイムが結婚するなんてことが起きるかも知れない。
そんなことを考えると、セイバーは大木に息継ぎ荒く寄りかかった。
切ない。胸が押しつぶされそうだ。
そんなことになったら自分はどうすればいいのだろう。
死のうと思っても死ねない身。
ただロイムと生きていきたいと思うだけだ。
だか将来は不安だ。ロイムは結婚どうこうよりも先に死んでしまう。セイバーはいたたまれなくなって、家に向かって駆け出した。
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