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セイバー
第64話 化け物、町を出る
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馬蹄の響きは、小さな教会の畑を踏み潰した。
「セイバーの妻よ。出て来い! 大人しく縄にかかれ!」
中にいたロイムとピロウは驚いた。
これは軍隊が職権を乱用し、無実なロイムまで自分の慰み者にするためだとピロウは直感し、裏口から逃げるように言ったがロイムはそれが正しいのか分からず一度自室に引っ込んで窓から様子をうかがった。
兵士たちは火矢をつがえて引き絞った。
この家ごと燃やし、ロイムをいぶり出すつもりだ。
家の中からピロウが転がるように出て来た。
「おやめ下さい。この家の者たちは、誰にも危害を加えません」
「邪魔するか町人。公務の執行を妨害するとは命知らずな」
一人の放った火矢は屋根に刺さり、それは赤々と燃えだした。
ロイムは咳をしながら出てくるしかなかった。
セイバーは憤怒した。
この土地の兵士たちは皆そうだ。
お上を傘に好き勝手なことをする。
前にもロイムを犯そうとした。
セイバーの縄からきしむ音が聞こえ始めた。
隊長はそれに目をやる。
「はっ。そんなに身をよじったところで切れるものではないわ! そなたが化け物でもない限りな」
だが縄はブツリと大きな音を立てて弾け飛んだ。
セイバーは街の人に向かって礼を言った。
「お世話になりました。生きていればまたお目にかかることもあるでしょう。私は不死の一族のセイバーだッ!」
そう叫び戦闘機のように低く飛んだかと思うと、高く回転しながら舞い上がり、あっという間に二人の教会まで飛んだ。
ロイムはあわや縄をかけられるところだったが、空中を滑り込んで彼女を胸に抱いた。
「セイバー!」
「無事だな。ロイム。家もアヒルも豆も諦めねばならん。行くぞ!」
セイバーは小屋に体を突っ込ませると、天井に吊っていた大鎌のみを取り出して、隊長がいる近くの屋根まで飛び、彼らを見下ろした。
「ふふふふ。兵士の皆さん、お役目ご苦労。この街の人間を残らず食ってやろうと思ったが残念だ。計画は頓挫だ。さらばだ!」
そう言って闇夜に飛び上がった。
その背中を弩から放たれる矢が追いかけるが、セイバーの身には一つも当たらず、見失った軍隊は帰るほか無かった。
後日、住民たちは語りあった。
セイバーは自分が化け物であることで匿った街の罪を不問にした。
街を去る最後まで人間の中の人間であったと。
セイバーとロイムはどこに行ってしまったのだろう。
彼らは国境にある大きな壁を、セイバーの飛行で難なく越え、隣国のプパリカ国に入っていた。
「しかし、持ってきたものは大鎌だけ。普段使わなくなったこんなものを持ってくるなんて、オレも相当なマヌケだなぁ。ゴメンな。ロイム」
「ふふ。これなーんだ?」
ロイムは胸の中から金袋を取り出した。
それは二人の家では一番小さな金袋。
だが高価な500ケラマン銀貨が3枚と、100ケラマン銅貨、10ケラマン銅貨が十数枚入っていた。
「す、凄いじゃないか。ロイム」
「主婦の力を思い知った?」
「ふふふ。恐れ入りました」
「でも……どうして自首を辞めたの?」
「……ああ。あの隊長はキミを慰み者にしようとした。それだけはどうしても嫌だったんだ。それに……」
「それに?」
「生き抜いて、殺してしまった者たちに詫びながら生きていくんだ。オレはたくさんの魂を背負った。彼らの魂を慰められるよう、神父になりたい。君の父がそうだったように」
「……なれる。あなたならきっとなれるわ。セイバー」
「セイバーの妻よ。出て来い! 大人しく縄にかかれ!」
中にいたロイムとピロウは驚いた。
これは軍隊が職権を乱用し、無実なロイムまで自分の慰み者にするためだとピロウは直感し、裏口から逃げるように言ったがロイムはそれが正しいのか分からず一度自室に引っ込んで窓から様子をうかがった。
兵士たちは火矢をつがえて引き絞った。
この家ごと燃やし、ロイムをいぶり出すつもりだ。
家の中からピロウが転がるように出て来た。
「おやめ下さい。この家の者たちは、誰にも危害を加えません」
「邪魔するか町人。公務の執行を妨害するとは命知らずな」
一人の放った火矢は屋根に刺さり、それは赤々と燃えだした。
ロイムは咳をしながら出てくるしかなかった。
セイバーは憤怒した。
この土地の兵士たちは皆そうだ。
お上を傘に好き勝手なことをする。
前にもロイムを犯そうとした。
セイバーの縄からきしむ音が聞こえ始めた。
隊長はそれに目をやる。
「はっ。そんなに身をよじったところで切れるものではないわ! そなたが化け物でもない限りな」
だが縄はブツリと大きな音を立てて弾け飛んだ。
セイバーは街の人に向かって礼を言った。
「お世話になりました。生きていればまたお目にかかることもあるでしょう。私は不死の一族のセイバーだッ!」
そう叫び戦闘機のように低く飛んだかと思うと、高く回転しながら舞い上がり、あっという間に二人の教会まで飛んだ。
ロイムはあわや縄をかけられるところだったが、空中を滑り込んで彼女を胸に抱いた。
「セイバー!」
「無事だな。ロイム。家もアヒルも豆も諦めねばならん。行くぞ!」
セイバーは小屋に体を突っ込ませると、天井に吊っていた大鎌のみを取り出して、隊長がいる近くの屋根まで飛び、彼らを見下ろした。
「ふふふふ。兵士の皆さん、お役目ご苦労。この街の人間を残らず食ってやろうと思ったが残念だ。計画は頓挫だ。さらばだ!」
そう言って闇夜に飛び上がった。
その背中を弩から放たれる矢が追いかけるが、セイバーの身には一つも当たらず、見失った軍隊は帰るほか無かった。
後日、住民たちは語りあった。
セイバーは自分が化け物であることで匿った街の罪を不問にした。
街を去る最後まで人間の中の人間であったと。
セイバーとロイムはどこに行ってしまったのだろう。
彼らは国境にある大きな壁を、セイバーの飛行で難なく越え、隣国のプパリカ国に入っていた。
「しかし、持ってきたものは大鎌だけ。普段使わなくなったこんなものを持ってくるなんて、オレも相当なマヌケだなぁ。ゴメンな。ロイム」
「ふふ。これなーんだ?」
ロイムは胸の中から金袋を取り出した。
それは二人の家では一番小さな金袋。
だが高価な500ケラマン銀貨が3枚と、100ケラマン銅貨、10ケラマン銅貨が十数枚入っていた。
「す、凄いじゃないか。ロイム」
「主婦の力を思い知った?」
「ふふふ。恐れ入りました」
「でも……どうして自首を辞めたの?」
「……ああ。あの隊長はキミを慰み者にしようとした。それだけはどうしても嫌だったんだ。それに……」
「それに?」
「生き抜いて、殺してしまった者たちに詫びながら生きていくんだ。オレはたくさんの魂を背負った。彼らの魂を慰められるよう、神父になりたい。君の父がそうだったように」
「……なれる。あなたならきっとなれるわ。セイバー」
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