右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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灼熱のドラゴンと城

第66話 灼熱の国

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 デラエア王女とそれを慕う一行はパイヤパ王国への関所の門をくぐった。
 ハーツが銀毛の馬に跨がり馬車の前を先導する。
 その瞬間、熱波が彼らを襲う。

「うぉ! なんだこの熱さは!」

 クインスロメンよりも気温が三度以上違うと感じた。
 関所の城壁を越えただけにも関わらずだ。

「な、なんだこの国は。姫の身が危険だ。馬車を布で覆え。レイバはステイルから水袋を数個だせ」

 デラエアはカエルの身だ。温度差に非常に弱い。
 水温が上がってしまうとゆであがってしまう。
 不死とはいえ、仮死状態に陥ってしまうのだ。

 グレイブは暗い寝台室に入り、四つの水袋でバケツをかためた。
 それだけではまだ不安。
 手に握った9本目のボトルの蓋をあけた。
 そこには鉱物を産み出す精霊ボウルドが入っている。

「旦那。御用で?」
「ボウルド。急用だ。この地は異常な熱さらしい。氷のかたまりを出せ!」

「お安い御用で」

 たちまち、ボウルドは氷のかたまりを作り出す。
 グレイブはそれを手に取り、レモーネとガッツに頼んで砕いてもらい、別の三つのバケツに入れ、それでさらに水袋の周囲を囲んで固定した。
 直に氷で囲めば冷たすぎる。外側の氷が一つ内側の水袋の水温を安定させて、中央のデラエラのバケツの水温を一定に保つと言うわけだ。

「ヒィヒィ。旦那。なんて人使いの粗さだ。さすがに目が回りました」

 ボウルドは氷の作り過ぎでクルクルと目を回し、さっさとボトルに収まってしまった。
 みんなこの暑い中で突然の大仕事だったものだから大量に汗をかいてしまったが、グレイブは一人心配そうな顔をしてデラエア王女に尋ねた。

「姫。いかがでしょうか?」
「うん。大丈夫。快適よ。確かに暑いわね。水の底に沈んでいたほうがよさそうね」

「はい。姫が健やかなることが我ら全員の願いです」
「んふ……。みんなのことも労ってやってね」

 そう。王女だけではない。
 人間だってツラい熱さだ。
 グレイブもレモーネも分厚い鎧を脱いでしまった。

「水が心配だ。みんなもツラいだろうが少しずつ飲んでくれ。レイバ。川を探して走れ」
「へぇ! 合点承知でさぁ!」

 一本目の橋が見えたが、小川の跡があるだけで渇いていた。
 続いて山沿いの道を進みながら川を探す。
 渇いた大地の砂が舞い上がり、空に散った。

 見るとこの国の空は黄色かった。
 空に砂が飛び交っているのだ。

「いやはや、姫の身が気がかりだ」

 グレイブの不安が募るが、日が傾く頃に集落が見え、その中央には小さな川があった。
 グレイブはレイバに命じてそのまま川岸まで馬車を寄せ、それに習ってハーツも馬を停めた。

「やれやれ助かった。ハーツとレイバとガッツは馬に水をやって水浴びさせてくれ。姫と私とレモーネでホテルを探しに行こう」
「へぇ。お任せ下さい」

 グレイブは水を並々と入れたバケツを抱え、レモーネを伴って集落を歩いた。
 もの珍しそうに村人が顔を出す。
 小さいが旅籠はたごがあった。ゆったりとした寝台に仲間を眠らせられるとグレイブもホッとした。

「すまん。泊まらせて欲しいのだが」
「おお。お武家様でございますか。もちろんでございます」

「熱くて叶わん。井戸や水浴びが出来る場所はないか?」
「ええ。ございます」

「それはよかった。さっそく仲間を連れてこよう」

 馬車と馬を旅籠の前に停め、一行は汗だくの体を早く水浴びさせようと、男女に分かれて浴場に入ると大きい水瓶と小さい水瓶の半ばに温い水が入っていた。
 これをかけて汗を流せというわけだが水の量が少ない。布に水を染み込ませ体を拭き、少量の水で洗い落とし、ようやく一息ついたのだった。


 夜、食卓につくと人がいないのか宿の主人が給仕をしたのだが、彼は驚いた。
 長いテーブルの上座にはなぜかカエル。そしてそこにいる人々が代わる代わるそのカエルを誉め称えるのだ。
 宿の主人が戸惑っているのに気付いたのは、当人のデラエア王女であった。

「これ主人。私はこのような姿をしてはいるが本来は人間。マスカト王国のキャンベラ国王が公女、デラエアである」

 という言葉にさらに驚いてかしこまった。
 グレイブのほうでも、宿の主人に無礼がないように諭した。
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