右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

文字の大きさ
67 / 79
灼熱のドラゴンと城

第67話 国を求めて

しおりを挟む
「主人。一つ伺いたい」
「な、なんなりと」

「クインスロメンはこれほど暑い国ではなかった。太陽は平等であろう。なぜ国境を越えた途端このように暑いのか?」
「はぁ。外国のことはよくわかりません。我々が生まれたときからこのような状況ですから」

「なるほど。原因は分からぬか」
「いえ。原因は分かっております」

「なんと。それはなんだ」
「さすれば、アスローラ山に建立されております古城に灼熱のドラゴンが住み着き、彼から発せられる熱でこのように暑いのだとか」

「はぁ? そんな国中に影響を与えるドラゴンなのか?」
「さようでございます。それゆえ国はずっと日照りでして水のあるところにしか人は住めません。弱い作物であればやられてしまうのです」

「それは難儀であろう。いったい何で生活しているのか?」
「さすれば国家の秘中かもしれませんが、暑い為に鉱物の加工が容易なのです。それで武器や防具、やじりや砲弾などの兵器を作り他国に輸出し、麦を買うと言う感じです」

「なるほど、軍需産業というわけか」
「ですが、国もそれは緊急的な処置なのでしょう。出来ればそのような危険なドラゴンを倒したいのです。ですから懸賞金がかけられておりますが、なかなかそのような勇士はおりません」

「得意の砲弾でもダメなのか?」
「左様でございます。砲撃がドラゴンに到達する前に溶かされてしまいます。またそのような攻撃をすると怒り狂い、灼熱をさらに発するのです」

「なるほどなぁ。しかし懸賞金がかけられようとも、君子危うきに近寄らずだな。分かった。ありがとう」

 グレイブはドラゴンとの戦いは避けたかった。
 ドラゴンは生き物の中ではかなり上位な生物だ。
 もちろんドラゴンの種にもよる。特殊の能力もなく力の限り暴れる知能の低いドラゴンもいる。
 だがそれはただの大きなトカゲだ。

 本来のドラゴンとは人語すら解し、強力なブレスと上級な魔法を使ってくる。敏捷性もあり、どこから牙、爪、尻尾で攻撃してくるか分からない。
 ましてや翼を持っているものであれば戦いにならない。

「これ主人。懸賞金とはいかほどなのか?」
「ひ、姫」

 宿の主人に尋ねたのはデラエアだった。
 グレイブの厭戦的な気分とは別に姫の方では金額によっては戦いたいらしい。それを命じられてはグレイブとしては戦うしかない。
 どうか懸賞金よ低くあってくれとグレイブは祈った。

「さすれば、共通通貨で50万ケラマンでございます」

 グレイブはホッとした。懸賞金にしてはかなり低い。
 先の魔女との対戦では1000万ケラマンを得ている。
 50万ケラマンなど微々たるものだった。

「さようか。この国は貧しい。出せる金額にも限界もあろう。そうか。ご苦労であった。姫の代わりに礼を言おう」
「いえ、それは副賞程度のものでございまして、褒美としてドラゴンの住まう城、その四方を領地として与えられます」

「は?」

 デラエアの方でもニンマリと笑った。
 そもそも二人の旅は領地を得て『マスカト王国』の再建だ。城、土地が与えられるのは目的が叶うことであった。

「いいじゃなーい。ねぇみんな!」

 デラエアは仲間達に呼びかける。
 仲間達もそれにうなずいたが困ってしまったのはグレイブの方だ。

「畏れながら申し上げます」
「はい。グレイブくん」

 テンション上がり気味のデラエアのプランに水を差すのははばかられたが、戦うのは自分。言わねばならなかった。

「大砲の砲弾を溶かすほど。国の温度を上げるほどのドラゴンでございますれば、かなり上級。剣や盾も溶かされてしまいます。例えこのグレイブに剣技があろうとも、いささか難ありと思われます」

 グレイブの心配は無理からぬことであった。
 しかし、デラエアは知っている。前にグレイブは赤や緑色のドラゴンと戦ってきたことを。

「もしもこれから私たちが国を手に入れて、国内に魔物がいたらそれを倒さなくてはいけないじゃない。国民の治安を思えば実戦をもっと積んでおくべきだわ」
「そ、それはそうですが、魔物にも領分がございます。彼らの平安を無理になくしてしまうのは人間のエゴかと……」

 たしかにデラエアの思う通りそれらをグレイブは仕留めてきた。
 だからこそその大変さは知っていたのだ。寝ずに5日もにらみ合ってスキを狙ったこともあった。
 彼らを倒したからこそ、この強いグレイブがいる。
 だが戦いとは常に勝つことばかりではないし、無理な場合は退きたいのだ。

「兄貴が心配であるなら無理して戦わなくてもよいのではと、あっしも思いやす」

 ハーツもグレイブに助け船を出した。
 グレイブにとっては嬉しい味方であった。
 デラエアの方でも、仕方なさそうに言った。

「そうねぇ。グレイブにはいつも無理ばかりさせてるし。もしもドラゴンに勝てたらグレイブの好きなことを一つ叶えてやりたいと思ったけど仕方ないわね。諦めましょう」
「好きなこと……」

 グレイブの胸がドキンとなった。
 思わずニヤける口をナプキンで拭う振りをして隠す。

 好きなこと。好きなこと。
 あれにしようか、これにしようか。
 ナプキンの下は嫌らしい笑み。

「姫。諦めるには及びませぬ。我々一行も大所帯になって参りました。落ち着く場所も必要です。土地は国家の大計! そのためにはグレイブ、骨身は惜しみませぬ!」

「まぁ。さすがグレイブね」
「あ……に……き……」

「ハーツ。まぁ心配するな。お前にもレモーネにも手伝って貰うぞ」

 そう言ってグレイブは二人に笑いかけたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...