右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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灼熱のドラゴンと城

第68話 ボーエン鉱

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 グレイブにドラゴン討伐の策がないわけではなかった。前に赤色のドラゴンと戦った際にも、敵は多量の火力を放ってきた。
 それを防ぐものがある。『アイスシールド』だ。
 アイスと言われるが氷ではない。ボーエン鉱という鉱石がとても火に強く簡単には溶けない。
 しかし火に強いために加工も難しい。
 特別な方法で盾を作るのだが日数がかかるし、それを作れるものを探さなくてはならない。

「そんな盾があるんですかい」
「そうだ。たしかステイルの中にしまっておいたっけ」

 グレイブはステイルを呼び出し、その口に手を突っ込んだ。

「あった! これだ」

 引っ張り出したのは、鍋の蓋サイズの小さいもの。
 角度によってキラリと輝くが基本、黒い色をして装飾などないみすぼらしいものだった。

「うへぇ。小さい。こんなの兄貴みたいな達人じゃないと身を守れやせんぜ? あっしやレモーネじゃ身を焼かれちまいやす」
「そうだ。その通り。だからもっとボーエン鉱が必要だし、加工する職人が必要だな」

「そのボーエン鉱はどこにあるんで?」

 グレイブは黙って9本目のボトルを出す。

「あっ。そうか」

 そう。中には鉱物を生み出す精霊ボウルドが入っている。
 グレイブが蓋を開けるとボウルドはふて腐れながら登場した。

「人使いが粗いですよ。旦那」
「まぁ、そう言うなボウルド。これだボーエン鉱。これを作り出してくれ」

「……まったく。旦那に付き合うことになった自分に呆れますよ」

 ボウルドは両手を出してボーエン鉱を生み出した。
 しかしそれは手のひら大。到底間に合う大きさではなかった。

「これはなんだボウルド。少ないぞ?」
「……旦那にも呆れますな。私が一日に作れる量にも限りがあります。それが限界ですよ」

 ボウルドはそう言ってボトルの中に自ら引っ込んでしまった。
 グレイブはすぐにボトルの蓋を開けてひっくり返して底を叩いたがボウルドは姿を現さなかった。

「あっ! こらっボウルド!」

 叫んでもどうしてもボウルドは出て来ない。
 グレイブは舌打ちをしながらもう一度大きくボトルの底を叩いた。

「兄貴。仕方ありませんよ。一日出来る量だけ頼みましょうよ」
「バカな。それじゃ間に合わん」

「? なぜです? 期日など決められておりましたっけ?」
「あと二週間もしないで満月ではないか」

「はあ。それが何です?」
「姫はオレの好きなことをしてくれるんだぞ? さっさとドラゴンを倒さなくてはいけないではないか」

 ハーツは呆れて天を仰いだ。
 急にカッコいいことを言い出してやる気になったと思ったら、ただ単に助平な願いを聞いて貰うだけだと言うことが分かった。

「何ですかい! 70年も生きていて、たった数週間が待てませんか! 装備を万端にせねば勝てるものも勝てやせんぜ! そしたら満月のお楽しみどころじゃありやせんぜ?」
「そ、それはそうだが……」

「まずは、この国の国王にお会いになって、懸賞金の確認と約束をしたりして、その間に盾を作ったらいいじゃありやせんか」

 グレイブはハーツの肩を優しく叩いた。

「……そうだな。お前の言うとおりだ。焦って事をし損じたら何にもならない。ハーツやレモーネの危険を守るための盾なのだから疎かにはできんな」
「へぇ。お分かり頂きありがとうごぜいやす」

 二人は共に笑った。


 一行はパイヤパの王都に向けて出発した。
 王へ懸賞金の確約を結び、腕のいい鍛冶屋を探してアイスシールドを三つ作る。
 それには二、三ヶ月かかるかも知れない。

 この国は暑い。姫の身が気になる。
 やはり、日数がかかるのは大変だ。
 デラエアの元気が日に日に悪くなるのだ。
 一行は川に水を求め、生温い高い水を買った。
 すぐにバケツの水位が下がってしまう。ボウルドに氷を作らせようと思うがそうするとボーエン鉱が作れなくなるジレンマに苦しんだ。

「グレイブ。私の分はいいから、みんなに水を回して頂戴」
「な、なにをおっしゃいます姫。姫がいてこその国家です」

「いいえ。民あってこその国家よ。みんなに水を与えて頂戴」

 デラエアはそう言いながら水位の低い生温い水の中で黙ってしまった。
 暑さのための一時昏倒したのだ。最近は夜涼しくなるまでこのような状態が続いた。
 グレイブは泣き出してしまった。

「ええい。この国をもう出てしまおう。姫のこのような姿を見てはおれん」

 みんなもそれに賛成したが、デラエアは苦しそうに目を開けた。

「ダメよ……。ドラゴンを倒せばこの国も涼しくなるわ……。そしたら人々も喜ぶ。私は大丈夫よ。不老不死なんだか……ら……」

 そう言いながら、また気絶したようになった。グレイブは自分の飲み水すらバケツにあけたが、すぐに干上がってしまうのだった。

 しかし姫の言い付けだ。一行は当番制でバケツの水を見ながら王都までの道を進んだ。時には扇で仰ぎ、体感的な涼しさを与えたらどうかと腐心しながら。
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