右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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灼熱のドラゴンと城

第72話 遭遇!

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 それからひと月。二枚のアイスシールドが出来上がった。
 形はいびつだが、前方からのブレス攻撃を避けるのは容易な大きさだ。
 グレイブのみが古い小さなアイスシールドを持った。
 戦功を焦り、不老不死を過信している。
 それで充分だと思ったのだ。

 腰のボトルで頼りになるのは、風のカヴェルーネ。雷鎚のリスリグ。不死王デスキング。今回は地獄の門は当てにならない。
 ドラゴンは大きいので門の中に入れられないだろうと言うことだ。
 最悪、小魔王ビンテジで力を倍増させて倒すのもありだと考えた。

 三人は新しい馬車に物資を詰め込んで目的のアスローラ山へ向かった。馬車を進ませて三日目。辺りに荒野が広がり樹木の影で休息をとることも出来なくなった。

「ひー。暑い。馬も可哀相でやす」
「誠に。まだ山につかんのに、ここまで影響があるのか。厄介だな。何にしろ姫を連れてこなくて良かった」

 道中に水が期待できない。そして噴き出す汗。
 グレイブは決断した。一時戻って水を入れたステイルを持ってこなくてはこの先は無理であろうと。
 馬首を返して王都へ戻ることにした。

 三日の道中を三日かけて戻る。
 準備が足りなかった。大量の水が必要だ。
 レイバからステイルを引き取り、水の入った革袋をいくつもいくつも押し込んで再出発。

 また三日かけて同じ場所に。
 しかし今度は水が大量にある。馬の身体だって毎日洗ってやれる量だ。三人はキャンプをしながら山に進んでいった。
 どこまでも砂漠。空が黄色い。やがて山が見えてきて、草木のない裸の山の上には大きな城が見える。

「ははぁ。あれがアスローラ山の古城か。結構デカいな」

 グレイブたちは山麓に馬車を停め、馬のために水桶に水を張って自分たちは徒歩で登山を始めた。
 すでに戦闘態勢だ。ここには身を隠す場所は盾しかない。
 城まで行けば城壁に身を隠せるかも知れないがそれ以外は枯れ木くらいしかない。

「ふぅ。暑い。ドラゴンめ。普段何を食べて生きているのであろう?」

 ドラゴンは生物の中でも上級だとは先に記した。
 食事。実は彼らは適応した温度環境で暮らすので極端にエネルギー消費が少ない。それがために数年でも食事をしなくても生きていけるのだ。
 これが長生の秘密だ。無駄にエネルギーを使わず生きるために生きる。この灼熱のドラゴンが何年、何百年とここにいるのはただ自分が生きるためなだけだ。

 そして今、食事が自らやって来た。
 ドラゴンは古城の中で首をもたげた。

「グォォォオオオーーーン!」

 地響きのような咆哮。ドラゴンは城の壁を粉砕しながら現れた。
 体長15メートルほどの巨大なものが三つの食糧の方に首を向けている。

「兄貴! デカいでやすよ!」
「その通り。こりゃ困ったぞ!」

「え?」

 ドラゴンは大きく息を吸い込んで炎のブレス攻撃を仕掛けてきた。直線で20メートル程まで伸び、幅は3メートル程広がるブレスだ。
 凄まじい熱波が三人を襲う。
 だが熱波だけだ。炎は三人には届かない。
 三人はブレスの射程外にいた。

「退却」
「はい?」

 レモーネがグレイブの方を見るとすでに15メートルほど離れて駆け足の姿勢のまま手招きしていた。
 驚いてハーツもレモーネも駆け出した。

 地響きを立ててドラゴンは追ってきたが、これは小回りの利く人間の勝利だったようで三人は無事に山麓までたどり着いていた。

「ひどいでやすよ! 兄貴!」
「バカ! あんなのに敵うもんか!」

「姫の話ではグレイブさまは他のドラゴンを倒したことがあるのでしょう!?」
「あるが、あれはその三倍の大きさだ! ブレス攻撃だって桁違い。危険度SSS級だ!」

 とレモーネにまで問い詰められる始末。
 しかし、これほどまでの強敵に出会ったことがない。

「これは一時姫の元に帰って、やはり無理があると申請した方がいい」
「まぁ、兄貴がそう言われるならそうなんでしょうね。あっしらではもちろん到底敵いようもありません。退くのも勇気ですからね。姫のご褒美は諦めると言うことで……」

 グレイブの動きがピタリと止まる。

「……まさか兄貴……」
「ともかく作戦が必要だな。これより10キロほど後方でキャンプし、計画を練ろう」

 三人は馬車を戻しドラゴンの危険より免れる場所まで下がり野営することにした。
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