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灼熱のドラゴンと城
第76話 敗戦報告
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ややもすると馬車が見えて来た。
そのままの形のまま。
ホッとしながら近づくと、三人は寝台の上で大いびきで寝ていた。
ローラに近づいて見ると、まさしく赤い衣は怪しく光るウロコのままだ。
レモーネは長剣を抜いて馬車に登った。
今、彼女の寝首を掻いてしまえば全てが解決する。
賞金も手に入り、領土を手に入れることもできる。
しかしレモーネは剣をおさめた。
もしも殺すならば昨晩の内にしている。
それに本当の人なのかも知れない。……ウロコの生えた変わった人。
そのうちに三人とも大きなアクビをして目を覚ました。
ローラの大きな目が笑顔でレモーネを見ていた。
「おはようございます。レモーネ」
「ええ。ローラ。おはよう」
そこで朝食を取った。ローラはせっかく焼いた肉を二、三度匂いを嗅いだだけで食べなかった。
「おやローラ。二日酔いかな? 昨晩はずいぶん飲んでいたからな」
「ええグレイブ。食事はいいのでお酒を飲みたいわ」
「む、迎え酒か。大トラだな。ローラは」
そんなことを言って出立。
グレイブもハーツも肌で感じた。なぜか涼しくなったと。
馬車もスムーズに進み、三日の道程を二日と半日で王都についた。
城壁から歓声が聞こえる。
これは国王から放たれた偵察が、アスローラ山にドラゴンがいなくなったことをいち早く国王に知らしていたためだ。
国王も領土をとられるのは嫌ではあったが、長年苦しめられたドラゴン討伐の労はねぎらいたかったのだ。
城門を入ると、高い建物から紙吹雪が舞い降り、さながら英雄を迎えるようであった。
「なんだ? 何かの祭りでもあるのかな……。その中央を馬車で走るのはバツが悪いな。裏道からホテルへ向かおう」
グレイブは御者のハーツに命じて裏道へ入ったがそこでも歓声が上がり、人々が英雄を迎えるように拍手をしていた。
「くそう。こちらが祭りの順路だったようだな」
「なんか、あっしらが歓迎を受けているようで恥ずかしいでやすねぇ」
「まったくだ。一度ホテルに戻り、姫に討伐失敗と、新たなる国民の報告をしよう」
逃げるようにホテルに入り、一目散に自室に入り込んだ。
入った途端、ガッツもレイバも声を上げた。
「やりやしたねアニキ」
「な、なにがだ」
「何がって……ドラゴンを倒したのでやしょう?」
「た、倒してない。誰がそんなデマを」
「しかし街中それでお祭り騒ぎですぜ?」
「は、はぁ?」
グレイブはこれは国王の計略だと思った。
領土を得たいなどと不遜なことを言ったから、国民に倒したのだとデマを流し自分たちに恥ずかしめを与える作戦なのだと感じた。
「クソッ! 国王め! ……とりあえず姫にご報告申し上げよう。お、おい。ハーツ。レモーネ。ローラ。一人じゃ心細いから来てくれ」
これほど弱気なグレイブは初めてだ。
デラエアのいる浴槽まで来ると、伏して目的が達成できなかったことを詫びた。
「姫。申し訳ございません。大言壮語した割りに、ドラゴン討伐は不調に終わりました」
「あら。レイバとガッツは討伐したって言ってたけど」
「滅相もございません。根も葉もない流言飛語でございます。おそらくこの地の王は、領土を申請したグレイブめを敵とみなし、恥辱により追い払おうとしておるのでございます」
「なるほどね。考えられなくないわね。どんな国だって国の中に国ができるのは嫌だものね。それにしても、初めての敗戦じゃない? グレイブらしくもない」
「は。今までの中で一番強い敵でした。傷は誰一人負わなかったのは幸いですが、敵う相手ではありませんでした。なぁ、ハーツ」
「アニキは空を飛んでいました」
「お前も飛んだくせに」
それを聞いて、ローラは口を押さえて笑っていた。
そのままの形のまま。
ホッとしながら近づくと、三人は寝台の上で大いびきで寝ていた。
ローラに近づいて見ると、まさしく赤い衣は怪しく光るウロコのままだ。
レモーネは長剣を抜いて馬車に登った。
今、彼女の寝首を掻いてしまえば全てが解決する。
賞金も手に入り、領土を手に入れることもできる。
しかしレモーネは剣をおさめた。
もしも殺すならば昨晩の内にしている。
それに本当の人なのかも知れない。……ウロコの生えた変わった人。
そのうちに三人とも大きなアクビをして目を覚ました。
ローラの大きな目が笑顔でレモーネを見ていた。
「おはようございます。レモーネ」
「ええ。ローラ。おはよう」
そこで朝食を取った。ローラはせっかく焼いた肉を二、三度匂いを嗅いだだけで食べなかった。
「おやローラ。二日酔いかな? 昨晩はずいぶん飲んでいたからな」
「ええグレイブ。食事はいいのでお酒を飲みたいわ」
「む、迎え酒か。大トラだな。ローラは」
そんなことを言って出立。
グレイブもハーツも肌で感じた。なぜか涼しくなったと。
馬車もスムーズに進み、三日の道程を二日と半日で王都についた。
城壁から歓声が聞こえる。
これは国王から放たれた偵察が、アスローラ山にドラゴンがいなくなったことをいち早く国王に知らしていたためだ。
国王も領土をとられるのは嫌ではあったが、長年苦しめられたドラゴン討伐の労はねぎらいたかったのだ。
城門を入ると、高い建物から紙吹雪が舞い降り、さながら英雄を迎えるようであった。
「なんだ? 何かの祭りでもあるのかな……。その中央を馬車で走るのはバツが悪いな。裏道からホテルへ向かおう」
グレイブは御者のハーツに命じて裏道へ入ったがそこでも歓声が上がり、人々が英雄を迎えるように拍手をしていた。
「くそう。こちらが祭りの順路だったようだな」
「なんか、あっしらが歓迎を受けているようで恥ずかしいでやすねぇ」
「まったくだ。一度ホテルに戻り、姫に討伐失敗と、新たなる国民の報告をしよう」
逃げるようにホテルに入り、一目散に自室に入り込んだ。
入った途端、ガッツもレイバも声を上げた。
「やりやしたねアニキ」
「な、なにがだ」
「何がって……ドラゴンを倒したのでやしょう?」
「た、倒してない。誰がそんなデマを」
「しかし街中それでお祭り騒ぎですぜ?」
「は、はぁ?」
グレイブはこれは国王の計略だと思った。
領土を得たいなどと不遜なことを言ったから、国民に倒したのだとデマを流し自分たちに恥ずかしめを与える作戦なのだと感じた。
「クソッ! 国王め! ……とりあえず姫にご報告申し上げよう。お、おい。ハーツ。レモーネ。ローラ。一人じゃ心細いから来てくれ」
これほど弱気なグレイブは初めてだ。
デラエアのいる浴槽まで来ると、伏して目的が達成できなかったことを詫びた。
「姫。申し訳ございません。大言壮語した割りに、ドラゴン討伐は不調に終わりました」
「あら。レイバとガッツは討伐したって言ってたけど」
「滅相もございません。根も葉もない流言飛語でございます。おそらくこの地の王は、領土を申請したグレイブめを敵とみなし、恥辱により追い払おうとしておるのでございます」
「なるほどね。考えられなくないわね。どんな国だって国の中に国ができるのは嫌だものね。それにしても、初めての敗戦じゃない? グレイブらしくもない」
「は。今までの中で一番強い敵でした。傷は誰一人負わなかったのは幸いですが、敵う相手ではありませんでした。なぁ、ハーツ」
「アニキは空を飛んでいました」
「お前も飛んだくせに」
それを聞いて、ローラは口を押さえて笑っていた。
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