落語『鶴の恩返し』

家紋武範

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落語『鶴の恩返し』

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ようこそのお運びで、相変わらずおしゃべりをして皆さまのお暇を頂戴しております。

受けた義理とはありがたいもので、いつかお返しに上がりたいものでございますが、なかなか出来るものではありません。

『父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深し』

なんて言葉がございます。昔のかたはうまいことを言いましたなァ。
親の恩とはかけがえのないもの。無償のものですから、誠にありがたいことです。ですが子というものはそれが当然になってなかなか気付くものではありません。

「やい。おはる。明日は平太が大学の宿舎から帰ってくるな」
「やだよ、お前さん。朝から何度聞くんだい」

「分かってらぁ。確認じゃねェか。平太の好きなもん何でも買ってきて食わせてやれよ」
「はいはい。それも何度も聞きました」

「肉もいいねぇ。焼き肉だ。鰻なんかオツなもんじゃねェか。平太のやつ涙流して喜ぶぞ。お刺身なんて何切れでも入っちまうからな。アイツカレーも好きだったな。それにカツレツを乗せてやれよ。寿司に天ぷら、コロッケ、メンチボール……」
「そんなに食べきれますか」

子を待つ親のエネルギーとは物凄いもので、これを労苦に感じません。おとっつぁんとおっかさん。二人で色々買い集めて参ったところに子供が帰って参ります。

「どうだ、おはる。平太は食ってるか?」
「食べてますよ」

「今は何を食ってんだ」
「やだよお前さん。目をつぶってないで自分で見たらいいじゃないか」

「バカヤロウ。目を開けたら涙がこぼれちゃうじゃねぇか。みっともねェ」

なんてね。親が子を思う気持ちは万国共通でございます。
ですが子の方はと言うとそれが当たり前になって、なかなか気付かないようです。

鼠は「チュウ」と鳴き、カラスは「コウ」と鳴く。
畜生ですら「忠孝、忠孝」鳴くのですから我々人間も忠孝と行きたいものです。

『犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ』

と申します。そうかと言えば

『猫は三年の恩を三日で忘れる』

なんてことも申しますね。
猫に聞かれたら怒られちゃいそうですが。



さて、ある若者が罠にかかった鶴を助けますと、若い娘と化した鶴がやって来て、己が身を削って反物を織り、それで若者は大金を得ました。
ところが若者は禁を破って、娘が機を織る姿を見てしまい、鶴の娘は恥じて大空に消えてしまったと言うのが「鶴の恩返し」。

それの続きのお話。
その若者の隣村の若者。鶴の恩返しの話を人づてに聞いてほくそ笑みます。

「へっへっへ。ヤロウ、うまいことやりやがったな。そうかい。鶴を罠から救ゃァ、それが娘になって夜に恩返しに来るってかい。さっそくやってみよう」

男は罠にかかった鶴を求めて田畑を巡りますと、なんともおあつらえ向きに鶴が罠にかかっております。

「お! いた! へっへっへ。鶴ちゃん。今助けてやるからな。オイラは五平てんだ。この村の大きな柿の木が庭にある家でね、屋根に正月に上げ損じた凧が上がってるからすぐに分かる」

なんて自己紹介をしながら鶴を助けてやりますと、鶴は嬉しそうに空を何度か舞いまして、やがて雲の中に消えていきます。
五平の顔からニヤつきが止まりません。
独身ですから若い娘が恩返しに来るのを家の中で今か今かと待ち受けております。

「へっへっへ。これで娘が恩返しに来るぜ?
『五平さん。本日は誠にありがとうございます』
『いやいやいいってことよ』
『やっぱり近くで見るといい男』
 なんて、言うかどうか分からねぇけど。
『お酒をお注ぎいたします』
『そうかい、悪いなァ。お、お、お、おっとっとぉ。かー。うめェ。どうでェ。おメエも一杯ェ』
『そうですか。じゃぁそんなに強くないんで一杯だけ』
 そう言ってオイラから杯を受け取ってこう構えるね。その時、長い髪が邪魔だから後ろに回すんだ。その時に白くて長い首のうなじがキレイでたまらない。
『あら、どこを見なすってらっしゃいますの?』
『い、いやァ。その、なんでェ。そら、一杯』
『あらま。こんなになみなみと。それじゃ頂きます。……あら五平さん、ワタクシ酔っぱらって来ちゃったわァ』
 そう言ってオイラの胸に倒れてくるね。それを優しく介抱してやるんだ。
『五平さん、無調法でごめんなさい。でもワタクシでよかったら……』
『ホントか? こんなオイラのヨメに来てくれるか?』
『ええ。ワタクシ元々そのつもりで来たのよゥ』
 なんつって、二人は隣の寝室に……。やだね。まいっちゃうね。バカ野郎」

誰がバカか分かりません。
そんなことをやってますと、入口の戸を叩くものがあります。

「かー! おいでなすったな」

五平が急いで引き戸を開けますと、白い和服を来たものが頭をペコリと下げました。

「五平さん。ワタクシ本日助けて貰った鶴でございます」
「なんだ、おメエ、オスだったのか」


お時間でございます。
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