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第2話 不思議な小袋
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アルベルトの妻ジュノンは、シーンがあんなに楽しそうなのはいつぶりだろうとエイミーに感謝した。
シーンの幸運は、両親が深くこのシーンを、愛していたことだ。貴族の中ではこういう子どもを里子に出したりして名誉を守ったものだが二人はそうせず、アルベルトはシーンとジュノンのみに愛を傾け、妾すらとらなかった。
ジュノンはアルベルトが仕事へと城塞に向かうと、子どものように遊んでいるシーンとエイミーを嬉しそうに眺め、遊び疲れた二人をお茶に誘うのが日課だった。
エイミーはお茶の作法もよく、ジュノンはこの賢い娘が自分の娘になったらどんなにいいだろうと思うようになっていた。
シーンは相変わらずカップをガチャガチャ鳴らしていたが、家族の中でのこととジュノンはそれを許していた。
しかしその日は特別で突然、カナン侯爵夫人とレイス伯爵夫人がおしゃべりをしようと突然押しかけてきたのだ。
二人は意地が悪くて、ヒマになるとすぐに人の悪口を言う。ジュノンはこの二人を困った人達と思ってはいたものの、社交界の付き合いもあるので、愛想良くしてはいたのだ。その二人にこの部屋に乗り込まれて来たら、シーンや若いエイミーを邪険に扱うだろうと、シーンとエイミーの二人を部屋に引き取るようにと思ったが、間に合わず二人の貴婦人は入って来るなり、さっそくシーンの無作法ぶりに口元を扇で隠した。
「あのう。ご夫人方。こちらは私の息子と、その遊び相手ですのよ」
しかし二人はそっぽを向いて汚いものを見るような目をするのでジュノンはいたたまれなかった。
シーンはお菓子で口の周りを汚し、長い髪の毛はティーカップに浸かって濡れていた。
「シーンさま。ほら。お口元をお拭きになって」
エイミーは自分のハンカチを取り出して、優しくシーンの顔を拭き、素早く櫛で髪をとかし、前髪を上げて紐で後ろにまとめると、シーンの隠された男振りが現れる。
太い眉は凛々しくつり上がり、高い鼻とふっくらした唇は力強い男神のよう。いつもは半目でマヌケぶりを示していたが、髪を引かれ後ろでまとめられた勢いで大きく見開いたのだ。その男振りに貴婦人の二人は驚き、まるで手品を見ているかのようで顔を見合わせて目を丸くした。
「ほら、いつもの男前になったわ。そうだ。私の荷物の中に香木がありましたの。奥様の大事なお客様のために少しだけ焚きますね」
エイミーはそう言いながら小袋を取り出し中から木片を出す。香炉に木片を入れるとなんとも香しい香り。エイミーはまたも小袋を取り出し、中から指ほどの長さの鉄棒をシーンへ渡すとシーンは楽しそうに、鉄棒で鈴やティーカップを叩くととても涼しげな音がする。
「まぁ、風流ねぇ」
二人は気に入って、エイミーに話しかける。
「あーた、お名前は? どこのご令嬢?」
「私は、北都ノートストの城塞を守る、パイソーン司令の三女でエイミーと申します」
「まぁパイソーン卿の? お名前はこちらまで轟いております」
「それで、グラムーン家とはどのようなご関係?」
「グラムーン司令は父の旧知で、都見物のためにしばらく逗留させていただいているんです」
「まぁお一人で? 感心だわ。偉いわ~」
二人はジュノンに招かれるまま茶席に入るとエイミーの異郷の話に興味津々。シーンも体を揺すりながらエイミーの話をニコニコとして聞いていた。タイミング良く金棒をならすので、みんなそれにも笑ってしまっていた。
「北都って、そういうところなのね」
「ええ。一度旅行においでください」
「温泉なんて楽しそうだわ」
「お面を被ったお祭りも面白しろそう」
二人は満足気におしゃべりをして、やがて去って行った。ジュノンはますますエイミーに感謝し、シーンの嫁に欲しくなった。だから不思議な小袋のことを決して詮索しようとしなかった。
シーンの幸運は、両親が深くこのシーンを、愛していたことだ。貴族の中ではこういう子どもを里子に出したりして名誉を守ったものだが二人はそうせず、アルベルトはシーンとジュノンのみに愛を傾け、妾すらとらなかった。
ジュノンはアルベルトが仕事へと城塞に向かうと、子どものように遊んでいるシーンとエイミーを嬉しそうに眺め、遊び疲れた二人をお茶に誘うのが日課だった。
エイミーはお茶の作法もよく、ジュノンはこの賢い娘が自分の娘になったらどんなにいいだろうと思うようになっていた。
シーンは相変わらずカップをガチャガチャ鳴らしていたが、家族の中でのこととジュノンはそれを許していた。
しかしその日は特別で突然、カナン侯爵夫人とレイス伯爵夫人がおしゃべりをしようと突然押しかけてきたのだ。
二人は意地が悪くて、ヒマになるとすぐに人の悪口を言う。ジュノンはこの二人を困った人達と思ってはいたものの、社交界の付き合いもあるので、愛想良くしてはいたのだ。その二人にこの部屋に乗り込まれて来たら、シーンや若いエイミーを邪険に扱うだろうと、シーンとエイミーの二人を部屋に引き取るようにと思ったが、間に合わず二人の貴婦人は入って来るなり、さっそくシーンの無作法ぶりに口元を扇で隠した。
「あのう。ご夫人方。こちらは私の息子と、その遊び相手ですのよ」
しかし二人はそっぽを向いて汚いものを見るような目をするのでジュノンはいたたまれなかった。
シーンはお菓子で口の周りを汚し、長い髪の毛はティーカップに浸かって濡れていた。
「シーンさま。ほら。お口元をお拭きになって」
エイミーは自分のハンカチを取り出して、優しくシーンの顔を拭き、素早く櫛で髪をとかし、前髪を上げて紐で後ろにまとめると、シーンの隠された男振りが現れる。
太い眉は凛々しくつり上がり、高い鼻とふっくらした唇は力強い男神のよう。いつもは半目でマヌケぶりを示していたが、髪を引かれ後ろでまとめられた勢いで大きく見開いたのだ。その男振りに貴婦人の二人は驚き、まるで手品を見ているかのようで顔を見合わせて目を丸くした。
「ほら、いつもの男前になったわ。そうだ。私の荷物の中に香木がありましたの。奥様の大事なお客様のために少しだけ焚きますね」
エイミーはそう言いながら小袋を取り出し中から木片を出す。香炉に木片を入れるとなんとも香しい香り。エイミーはまたも小袋を取り出し、中から指ほどの長さの鉄棒をシーンへ渡すとシーンは楽しそうに、鉄棒で鈴やティーカップを叩くととても涼しげな音がする。
「まぁ、風流ねぇ」
二人は気に入って、エイミーに話しかける。
「あーた、お名前は? どこのご令嬢?」
「私は、北都ノートストの城塞を守る、パイソーン司令の三女でエイミーと申します」
「まぁパイソーン卿の? お名前はこちらまで轟いております」
「それで、グラムーン家とはどのようなご関係?」
「グラムーン司令は父の旧知で、都見物のためにしばらく逗留させていただいているんです」
「まぁお一人で? 感心だわ。偉いわ~」
二人はジュノンに招かれるまま茶席に入るとエイミーの異郷の話に興味津々。シーンも体を揺すりながらエイミーの話をニコニコとして聞いていた。タイミング良く金棒をならすので、みんなそれにも笑ってしまっていた。
「北都って、そういうところなのね」
「ええ。一度旅行においでください」
「温泉なんて楽しそうだわ」
「お面を被ったお祭りも面白しろそう」
二人は満足気におしゃべりをして、やがて去って行った。ジュノンはますますエイミーに感謝し、シーンの嫁に欲しくなった。だから不思議な小袋のことを決して詮索しようとしなかった。
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