シーン・グラムーンがハンデを乗り越えて幸せになる

家紋武範

文字の大きさ
50 / 58

第50話 初夜

しおりを挟む
 さて結婚初日である。シーンとサンドラが見つめ合っては照れ、見つめ合っては照れているさまを見ていられないノーイ。二人の間に割り込んでシーンを部屋から出してしまった。

「お、おいノーイ」
「お控えください。お嬢様は初夜のために湯浴みしてお色直しを致します。花婿は花嫁を見れません」

「な、なんだよそれは。おーい」

 シーンの抵抗も空しく、部屋のドアは閉められた。ノーイはイシシと笑い、他の侍女であるマーサとユーリに命じて、純白のドレスとアクセサリーを元のお屋敷に戻って持ってくるよう命じた。力がいるだろうから護衛二人を同行させた。

 さらにこの屋敷の使用人を呼んで、お湯を汲んでくることを命じ、サンドラに湯浴みをさせる。
 サンドラは真っ赤になって質問した。

「はあ初夜かあ。ちょっと怖いわね。どんなものかしら?」
「なにを怖じ気付いておられるんです。私たちを押し切って勇者シーンと一緒になったのでしょう?」

「それはそうだけど……」
「お嬢様は初めてですもんね。痛いですよ、とても。ましてやあの勇者シーンはお嬢様に気を遣わずに優しくなどしませんよ。逆に痛がる様子を楽しむに違いありません。そうですよ、お嬢様との過去を根に持ってますからね。きっと復讐なさいますよ」

「言わないでよ~」

 サンドラは身を縮めて怖がる。それを見てノーイは微笑んだ。

「いい方法があります」
「それってどんな?」

「あんな乱暴者と別れて屋敷に帰りましょう!」

 両手を広げてニコニコ提案するノーイにサンドラは顔を抑えてため息をついた。

「はーっ。どうしてみんなそんなにシーンを嫌うの? やっとシーンが振り向いてくれたのに」

 そう言って泣き出してしまったので、ノーイは慌ててサンドラに寄り添った。

「申し訳ございません。お嬢様。ついついこのようなことを……。お嬢様が心配なのです。またあの男が豹変してお嬢様に危害を加えるのではないかと──」
「ええ、それは怖いわ。でも占いの先生も言ったじゃない。それを耐えなさいと。それを信じます」

「そうですか……」
「ねえノーイ。私はあなたを姉とも母とも頼るのよ? だからお願い」

「ええ。分かりました」

 ノーイは笑顔で頷いた。サンドラもそれに微笑み返した。



 その頃、廊下ではシーンが壁に寄りかかってサンドラがどんな花嫁姿で現れるのかを待っていた。
 そこに侍女と護衛が、宰相邸から持ってきた衣裳やアクセサリー、花や香料を持ってきたので、シーンはどんなものを持ってきたのかと、手を伸ばすと、またまた侍女からの叱責であった。

「なにをなさいます!」
「いやぁサンドラがどんなものを着るのかなと」

「なりません。花婿は花嫁を見るのはままなりません。ご自分の部屋でお待ちください」

 とツンと鼻を鳴らしてサンドラの部屋に入っていく。シーンは仕方なく自室に入っていった。

 さあ侍女たちはサンドラの前に立って一世一代の花嫁を作ることに大忙しとなった。
 やれ白いドレスはこちらだ。いやこっちがいい。アクセサリーは大粒なもの、いやお嬢様は目鼻立ちが整っているから小粒でいい。と大格闘。
 生花を髪に挿し、公爵の娘の証であるティアラを被せ、数時間かかってようやく花嫁が出来上がった。

「お嬢様、お綺麗ですわ! これなら花婿も目を丸くしますよ!」
「ホント。花婿さまがあんな乱暴者じゃなければもっといいのに」
「さあさあ花婿を呼んで来ましょう!」

 とすっかり暗くなった廊下に明かりを灯して三人の侍女はシーンを迎えに行った。
 部屋をノックすると、中から待ちわびたとばかりシーンが飛び出してきたがノーイは眉を吊り上げた。

「な! 服装が先ほどと同じじゃありませんか!」
「いけない? これで陛下の前に出たんだけどな……」

「初夜なのに、勲章ぶら下げた赤いフロックコートだなんて……」
「赤がいけない?」

「当たり前でしょう。普通は白ですよ!」
「ああそう」

 そう言ってシーンはフロックコートを脱いで放り投げると、バサリとノーイの顔に被さった。
 ノーイは真っ赤になってまた怒る。

「なにをなさるの!」

 とコートを後ろの二人に託したところに今度はパサリとベストが降ってくる。
 これも華麗に剥ぎ取ると、今度は大きいシャツが降ってきたので中でもがいた。
 その時に目の前からカチャカチャとベルトを外す音が聞こえたので、まさかと思い恐る恐るシャツを剥ぎ取ると、目の前にシーンの姿はなかった。下を見るとシーンのボトムスが落ちている。
 慌てて正面に目を凝らすと、筋肉だらけの後ろ姿が暗い廊下を駆けて行くので叫んだ。

曲者くせものぞ! 皆のもの! であえー! であえー! 槍を持てー!」

 とたんに護衛部屋が騒がしくなり、バタバタと聞こえる。ノーイも他の侍女たちも胸元より短刀を出してシーンの後を追いかけた。

 向こうから護衛。こちらからノーイ率いる侍女。挟み撃ちだ。しかしシーンはすでにサンドラの部屋のドアに手を掛けていた。

「ええい! お嬢様に狼藉者を近づけるな!」
「わあ怖い! サンドラ助けてー!」

 シーンは裸のままでサンドラの部屋に突入した。その後ろには武器を持った護衛と侍女。
 サンドラは裸のシーンやら、シーンを殺そうとしている自分の護衛や侍女たちやらで情報がいっぱいになり、完全に停止してしまった。
 しかしシーンはサンドラの手をとった。

「綺麗だよサンドラ。私の花嫁さん」

 誉められてようやく頭が復活したサンドラはシーンに聞く。

「ど、どうして裸なの?」
「だってノーイが私の衣裳がダメだというからさ」

 続いてサンドラは侍女と護衛のほうを向く。

「みんなはなぜ武器を持っているの?」
「それはお嬢様を守るためです!」

 自信をもって答える侍女たちに、サンドラは深くため息をつく。

「シーンは私の良人おっとよ。シーンに刃物を向けるということは私に刃物を向けること。以下まかりなりませんからね」
「しかしお嬢様……」

「今から初夜なのよ? みんな出ていってちょうだい!」

 語尾を強めると、みんなスゴスゴと去って行った。シーンはそれを見て面白そうに笑っている。
 サンドラは今度、シーンを咎めた。

「まったく。この家の主でもやっていいことと悪いことがあるわ。服を着ないで女の部屋に来るなんて。それがこの国の英雄ではみんな笑ってしまうわよ?」

 シーンはサンドラの肩に手を添えて謝罪した。

「ごめんごめん。ノーイの行動が面白くてついさ」
「長年ノーイと一緒にいるけど、あんなに彼女が怒ったのは初めてだわ」

「ふふふ。サンドラも面白かったろう?」
「ぷ。そうね」

 二人は互いに笑いだした。
 だがサンドラはシーンの全身を見れずに視線を別のほうに向けた。

「そのう……。私は初めてで、そういう姿を見るのは慣れてないの」

 そんなサンドラの頭をシーンはポンポンと叩く。

「サンドラ。私はもう一つ脱ぐけどいいかい?」
「え? それ以上に脱ぐものがあるの?」

 サンドラは視線をシーンのほうに向けると、シーンは自分の髪に手を伸ばす。すると、まとめていた髪がざんばらと垂れて、学生時代のシーンの姿と近くなった。

「どう? ねやではもちろんこの格好なんだ。いじめていたシーンの姿に抱かれるのは嫌かな? 屈辱かい?」

 そう言ってシーンは前の姿でにこりと笑う。
 サンドラはシーンの両頬に手を添えて自分からキスをした。

「嫌じゃない。なんでこんな可愛いシーンをいじめていたんだろう。過去の自分をひっぱたいてやりたいわ」

 その言葉を聞いて、今度はシーンがサンドラにキスをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

処理中です...