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第57話 君の名前を
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シーンが骨だけになったエイミーを泣きながら抱き締めると、骨は砕けてばらばらになり、地面に落ちた。
シーンは目を真っ赤にして、金毛の猫に飛び掛かった。
「こいつのせいで!!」
しかし猫はすぐさま後ろに飛び退き、またもや右前足で背中の毛を一本むしり取って、左前足で弓を構える。
シーンはそれに構わず猛獣のようになって猫に飛び掛かったその時。猫はまたもまばゆく光った。
暫時静寂──。
光が収まると、そこには光の矢を胸に受けているシーンがいた。シーンは白目を向いてその場に倒れ込む。
みんな慌てて近付こうとすると、シーンから強い光の玉が飛び出し、空へとゆっくり舞い上がってゆく。
その光を先ほどの猫が空中で受け止めた。猫はいつの間にか、光輝く天使の姿へと変わった。
両方の手に、光の玉を一つずつ持っていた。
みんなはおろおろしてただ天使を見上げるばかり。サンドラのみシーンへと涙を流しながら駆け寄り抱き締めた。
「シーン!!」
しかしシーンは反応がない。代わりに天使が口を開いた。
「シーンは死んではおらぬ」
それにサンドラは鋭い視線を向ける。
「どうしてこんなことを! あなたは一体誰なの? エイミーを殺し、シーンをこんな目に合わせるなんて!」
天使は答えた。
「我が名はイルケイス。エイミーは元々死んでおり、シーンに宿りし竜の魂はこうして分離したまでだ」
「……え?」
「シーンの肉体には、本来のシーンの魂しか残っていない。起き上がれば愛する君の名前を呼ぶだろう」
「そ、それは……」
イルケイスは光輝く二つの魂を抱えて微笑んだ。
「この二つの魂は、普通とは違う。エイミーだったものの魂は竜の身に戻してやればもとに戻ろう。そしてシーンのもう一つの魂はその女にかえしてやるつもりだ。彼らは大きな仕事を終えて余生を仲良く過ごすはずだったのに、こんなことになったのは、我らの責任だ。君たちにも迷惑をかけたな。神の子の魂が宿りしその子に祝福を──」
そう言ってイルケイスは神々しく輝いたかと思うと大きな光の玉となり、北は霊峰メルボルンへと向けて飛び立ってしまった。
回りにいた全員がそれに跪いた。
「慈悲と光の……」
「大天使イルケイス……」
みなそれぞれ彼の名を呼んで祈り、光が空へ消えるまで眺めていた。
◇
さてそれから、エイミーの骨は全て集められ棺へと納められた。そしてグラムーンの屋敷のよい場所に埋められた。日当たりよく、回りには花を植えられ彼女を静かに慰めるように墓を作られたのだ。
エイミーの親であるボア・パイソーン伯爵は、「不思議な話だが、一度死んでしまった娘が結婚をし、孫まで産んでそれを見られたのは幸いだった」と言い、エイミーの産んだ子を抱いた後に北都ノートストへ帰っていった。
エイミーの産んだ子は男児で、どこも異常がなく元気な子であった。
シーンが目を覚ましたら名前をつけさせようということになった。
シーンはあれからベッドに担ぎ込まれて寝たままだった。食事は取らなくとも血色がよかったし、大天使のお言葉もあるから大丈夫だろうと、みな安心していた。
大天使は言った。シーンが目覚めたときに愛するものの名を呼ぶと。サンドラはその瞬間を待ちシーンの側にいて片時も離れなかった。
サンドラの侍女や護衛たちも、いろいろあったがあれはシーンに別な魂があって、それが離れたのでもうお嬢様を愛する魂しか残っていないだろうと思っていた。
期待していた。
そしたら、きっともっと幸せになれるんだと。
エイミーには申し訳ないが、あれはもともと竜の化身で、それも魂だけとなってシーンの魂も分離したのだ。
だからこれからは通常の人間となったシーンと結婚生活を送るだけなのだ。
その時は家族のみんなが集まっていた。
シーンのまぶたがわずかに動き、長い睫毛がひくんとなって目を覚ます徴候が出てきた。
アルベルト、ジュノン、サンドラがその顔を覗き込むと、シーンの大きな目が開いて、それぞれの顔を見て目を左に、右に。
そして起き上がって左右を見てから言う。
「……エイミーは?」
エイミーは?
エイミーは?
エイミーは?
切り離された魂は忘れていなかった。エイミーの存在を。
シーンは下着のまま立ち上がってふらつきながら屋敷の中にエイミーの姿を探す。しかし、それはもうどこにもない。
食事を取っていないシーンはやがて倒れ、そこをサンドラが支えた。しかしシーンの顔は前を見据えたままだ。
「エイミーを探さないと……」
「シーン! エイミーはここにはいないわ!」
サンドラの言葉にシーンは動きを止める。
「エイミーは……。エイミーはどこに?」
「エイミーはもう土の中だわ。屋敷の庭に埋められているの……」
シーンは窓から見える屋敷の中の丘を指差す。シーンは力なくそこにいって墓石の前で泣き出した。
みんな思った。これは天使イルケイスが間違えて魂を取り出したのではないのかと。
シーンはエイミーの墓の前で食事も取らずに三日三晩泣き通し、誰も声をかけることが出来なかった。
サンドラはシーンに近付いて食事を進めるものの、声が聞こえているのか聞こえていないのか返事もしない。
エイミーが産んだ子を見せて名前を付けるようせがむと、シーンはただ一瞥して我が子と名付けただけだった。
サンドラはエイミーから託された子供をないがしろにされたことを咎めて自分は栄光の子という意味のギルガと名付け、シーンにしっかりするように言ったがシーンは聞き入れなかった。
シーンは目を真っ赤にして、金毛の猫に飛び掛かった。
「こいつのせいで!!」
しかし猫はすぐさま後ろに飛び退き、またもや右前足で背中の毛を一本むしり取って、左前足で弓を構える。
シーンはそれに構わず猛獣のようになって猫に飛び掛かったその時。猫はまたもまばゆく光った。
暫時静寂──。
光が収まると、そこには光の矢を胸に受けているシーンがいた。シーンは白目を向いてその場に倒れ込む。
みんな慌てて近付こうとすると、シーンから強い光の玉が飛び出し、空へとゆっくり舞い上がってゆく。
その光を先ほどの猫が空中で受け止めた。猫はいつの間にか、光輝く天使の姿へと変わった。
両方の手に、光の玉を一つずつ持っていた。
みんなはおろおろしてただ天使を見上げるばかり。サンドラのみシーンへと涙を流しながら駆け寄り抱き締めた。
「シーン!!」
しかしシーンは反応がない。代わりに天使が口を開いた。
「シーンは死んではおらぬ」
それにサンドラは鋭い視線を向ける。
「どうしてこんなことを! あなたは一体誰なの? エイミーを殺し、シーンをこんな目に合わせるなんて!」
天使は答えた。
「我が名はイルケイス。エイミーは元々死んでおり、シーンに宿りし竜の魂はこうして分離したまでだ」
「……え?」
「シーンの肉体には、本来のシーンの魂しか残っていない。起き上がれば愛する君の名前を呼ぶだろう」
「そ、それは……」
イルケイスは光輝く二つの魂を抱えて微笑んだ。
「この二つの魂は、普通とは違う。エイミーだったものの魂は竜の身に戻してやればもとに戻ろう。そしてシーンのもう一つの魂はその女にかえしてやるつもりだ。彼らは大きな仕事を終えて余生を仲良く過ごすはずだったのに、こんなことになったのは、我らの責任だ。君たちにも迷惑をかけたな。神の子の魂が宿りしその子に祝福を──」
そう言ってイルケイスは神々しく輝いたかと思うと大きな光の玉となり、北は霊峰メルボルンへと向けて飛び立ってしまった。
回りにいた全員がそれに跪いた。
「慈悲と光の……」
「大天使イルケイス……」
みなそれぞれ彼の名を呼んで祈り、光が空へ消えるまで眺めていた。
◇
さてそれから、エイミーの骨は全て集められ棺へと納められた。そしてグラムーンの屋敷のよい場所に埋められた。日当たりよく、回りには花を植えられ彼女を静かに慰めるように墓を作られたのだ。
エイミーの親であるボア・パイソーン伯爵は、「不思議な話だが、一度死んでしまった娘が結婚をし、孫まで産んでそれを見られたのは幸いだった」と言い、エイミーの産んだ子を抱いた後に北都ノートストへ帰っていった。
エイミーの産んだ子は男児で、どこも異常がなく元気な子であった。
シーンが目を覚ましたら名前をつけさせようということになった。
シーンはあれからベッドに担ぎ込まれて寝たままだった。食事は取らなくとも血色がよかったし、大天使のお言葉もあるから大丈夫だろうと、みな安心していた。
大天使は言った。シーンが目覚めたときに愛するものの名を呼ぶと。サンドラはその瞬間を待ちシーンの側にいて片時も離れなかった。
サンドラの侍女や護衛たちも、いろいろあったがあれはシーンに別な魂があって、それが離れたのでもうお嬢様を愛する魂しか残っていないだろうと思っていた。
期待していた。
そしたら、きっともっと幸せになれるんだと。
エイミーには申し訳ないが、あれはもともと竜の化身で、それも魂だけとなってシーンの魂も分離したのだ。
だからこれからは通常の人間となったシーンと結婚生活を送るだけなのだ。
その時は家族のみんなが集まっていた。
シーンのまぶたがわずかに動き、長い睫毛がひくんとなって目を覚ます徴候が出てきた。
アルベルト、ジュノン、サンドラがその顔を覗き込むと、シーンの大きな目が開いて、それぞれの顔を見て目を左に、右に。
そして起き上がって左右を見てから言う。
「……エイミーは?」
エイミーは?
エイミーは?
エイミーは?
切り離された魂は忘れていなかった。エイミーの存在を。
シーンは下着のまま立ち上がってふらつきながら屋敷の中にエイミーの姿を探す。しかし、それはもうどこにもない。
食事を取っていないシーンはやがて倒れ、そこをサンドラが支えた。しかしシーンの顔は前を見据えたままだ。
「エイミーを探さないと……」
「シーン! エイミーはここにはいないわ!」
サンドラの言葉にシーンは動きを止める。
「エイミーは……。エイミーはどこに?」
「エイミーはもう土の中だわ。屋敷の庭に埋められているの……」
シーンは窓から見える屋敷の中の丘を指差す。シーンは力なくそこにいって墓石の前で泣き出した。
みんな思った。これは天使イルケイスが間違えて魂を取り出したのではないのかと。
シーンはエイミーの墓の前で食事も取らずに三日三晩泣き通し、誰も声をかけることが出来なかった。
サンドラはシーンに近付いて食事を進めるものの、声が聞こえているのか聞こえていないのか返事もしない。
エイミーが産んだ子を見せて名前を付けるようせがむと、シーンはただ一瞥して我が子と名付けただけだった。
サンドラはエイミーから託された子供をないがしろにされたことを咎めて自分は栄光の子という意味のギルガと名付け、シーンにしっかりするように言ったがシーンは聞き入れなかった。
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