黒猫君の恋。

エイト

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「いらっしゃいませ」

 そう言ってカウンターから出てきた店員に、奥の小さいテーブルに案内された。
 店員はメニューと水と置いて、またカウンターへ戻っていく。
 将人は身を乗り出して、絋希と共にメニューを覗き込む。

「絋希さん、僕、オムライスにする」

 これ、と写真を指差し、絋希の顔をちらりと見る。

「了解。ケーキは後で頼めばいいか」

 店員を呼んだ絋希は、オムライスとグラタンを注文した。

「ケーキも食べようと思ってるんですが、食べ終わってからでいいですか?」
「はい、構いませんよ」

 そう言って、店員は笑顔で去っていった。

「絋希さん、グラタンにしたんだ」

 なんとなく呟くと、水を一口飲んだ絋希から、

「うん。ここの全部美味しそうだったから迷ったんだけど」

と返された。

「最近どう? 元気にしてた?」

 続けられた言葉に、小さく頷く。

「元気は元気でしたけど、テストあったので忙しかったですね」
「あー、そうか、学生はそんな時期か。期末?」
「そうです」

 テストの話をしていると、店員が食事を運んできた。
 並べられたオムライスとグラタンからは、湯気が立ち上っている。

「美味しそうですね。いただきます」

 手を合わせて、スプーンを手に取る。
 オムライスを口に運べば、ケチャップライスと卵の味が口の中に広がった。

「ん、美味しい」
「そっか。こっちのグラタンも美味しいよ」

 他愛のない話をしながら、食べ進める。
 気が付いたら、将人の皿はあと一口で空になるところまで来ていた。

「将人、食べるの早いな」
「普段はこんなに早くないんですけど……美味しかったから」

 そう言ってはにかむ将人に、紘希はくすりと笑う。

「よかったな」
「はい」

 紘希の柔らかな笑みに、将人の心臓が跳ねる。
 それを隠すように、最後の一口を食べた。

「ごちそうさまでした」

 食べ終えて水を飲む将人に、まだグラタンを食べている紘希が、ショーケースを指差しながら言う。

「将人、先にケーキ選んできたら?」
「いいんですか?」

 将人はわくわくした気持ちを隠しきれず、弾んだ声で問いかける。

「ああ。ゆっくり選んできな」

 絋希の言葉に頷いて立ち上がり、いそいそとショーケースの方に向かう。
 ショーケースの中には、色とりどりのケーキたちがずらりと並んでいる。
 王道のショートケーキからガトーショコラ、チーズケーキにモンブランまで。
 美味しそうなケーキが多くて目移りしていると、グラタンを食べ終えた絋希がこちらへやってきた。

「決まった?」

 その言葉に首を振り、ショーケースのケーキたちに視線を戻す。

「全部美味しそうで、決められなくて……」

 むむむ、と唸った将人だったが、迷いに迷ってショートケーキに決めた。

「絋希さんは?」

 絋希の方を振り向いて尋ねると、絋希は少し迷う仕草を見せる。

「チーズケーキにしようかな」

 ショーケースを見つめてそう呟いた後、絋希は将人の方を見て首を傾けて微笑む。

「チーズケーキも食べたいでしょ? 一口あげる」

 その提案に目を輝かせた将人にくすりと笑った絋希は、店員の方を向いて注文をした。
 店員に飲み物も一緒に注文されますか、と聞かれ、二人とも紅茶を頼む。
 席に戻り、ケーキと紅茶が運ばれてくるのを待った。
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