124 / 137
第七章――「黄金海岸の砦、奪われるポルトガルの旗」
第8話(後編)――「鐘の合図、サントメ島襲撃」
しおりを挟む
エレナが西へ出た翌日、ディエゴは別働隊をまとめた。狙いはサントメ島だった。ポルトガルの補給の中継地であり、放っておけば兵と物が湧く。
ディエゴの手元の船は7隻だった。うち2隻は砲の数が多く、残りは速さを優先した。兵は合計で240名。火縄銃が90丁、弓と槍が残りを埋める。火薬は湿気を嫌うので、樽は油布で包み、樽の口を毎朝確かめた。船の上では、整った火薬だけが命を救う。
一方、サントメ島の港は小さかった。海辺の砦は石でできているが、砲は多くない。兵も多くない。だが、鐘がある。鐘が鳴れば島の男たちは集まる。集まった男たちが槍を持てば、上陸隊は足を取られる。
ディエゴは船室で地図を広げ、指で港の形をなぞった。
副官が言った。「夜に近づけば、鐘が鳴る前に入れます」
ディエゴは言った。「夜に近づく。だが、暗闇で勝とうとするな。見えない戦いは事故が増える。夜は近づくために使い、勝つのは朝だ」
通訳が尋ねた。「上陸の合図は」
ディエゴは答えた。「砲を2発だけ撃つ。1発目で壁の上を伏せさせ、2発目で門の前を空ける。殺しきるためではない。動きを止めるためだ」
11月7日、夜明け前。船団は灯りを落とし、潮の音に紛れて島へ寄った。空はまだ暗いが、海面は少しずつ明るんでくる。帆の布が湿り、縄が手に張り付く。誰も無駄口を叩かない。無駄口が出るのは、怖さが溢れた時だ。
ディエゴは甲板に出て、岸の影を見た。砦の形が黒く浮いている。港の入口には鎖があるが、閉じるには人が要る。今は寝ている。そこを突く。
合図の直前、見張りが小声で言った。「灯りです」
砦の上に小さな火が動いた。見張りが気づいたのだ。次の瞬間、鐘が鳴った。乾いた金属音が島の奥へ転がり、寝起きの声が遠くで混じった。
ディエゴは迷わず命じた。「撃て」
砲声が2つ続いた。火薬の煙が甲板に流れ、鼻と喉が焼ける。砦の上で火が揺れ、見張りが伏せた。門の前の広場にいた者たちも散る。散ったから、上陸が通る。
上陸用の舟が滑り出した。櫂が水を叩き、浅瀬で砂を掻いた。兵は膝まで海に入り、盾を前に出して走った。海水が靴に入り、砂が爪先を削る。だが、止まれば撃たれる。走れば届く。
砦の門の前で槍が突き出された。ディエゴの兵は盾で受け、横から押し返した。剣が鳴り、叫び声が弾ける。血が出れば足元が滑る。だから、足を止めない。押して、割って、門に密着する。
門の横で火縄銃が鳴った。弾が盾に当たり、木が裂けた。盾の持ち手の手が震える。だが、震えても前へ出すしかない。ディエゴは後ろに下がらず、門の前に立った。
ディエゴは言った。「門を開けろ。開けないなら燃やす」
通訳が叫ぶ。中から返事がない。返事がないなら、時間を切るしかない。副官が松脂を持って来た。火を近づけると甘い焦げのにおいが立つ。門板が鳴り、煙が上がった。
その時、門の内側で騒ぎが起きた。誰かが止めようとし、誰かが止めるなと叫んだ。言い争いは長く続かない。煙は議論を許さない。門が少し開き、槍が突き出されたが、すぐに引っ込んだ。
ディエゴは言った。「武器を捨てて出て来い。逃げても島の外は海だ。死にたくないなら、今ここで終わらせろ」
しばらくして、門が開いた。中から男たちが出てきた。顔が白い。寝ていたところを叩かれたのだ。隊列は崩れ、弾も少ない。砲も多くない。鐘で集めても、集まるまでに押し切られた。勝負は、そこだった。
戦いはそこで終わったわけではない。島の奥から遅れて集まった男たちが槍を持って来た。だが、港はすでに押さえられている。砦の上にもディエゴの兵が立っている。遅れて集まった側は、前に出ると撃たれ、引くと逃げたと言われる。迷いが大きくなり、足が止まった。
ディエゴは港の入口へ兵を回し、船を動かさせた。小舟2隻を押さえ、逃げ道を消す。海が逃げ道なら、海を塞ぐ。そこまでして、島の男たちは武器を落とし始めた。
負傷者は出た。ディエゴの側でも死者が出た。だが、全滅はしない形で押し切った。砲を必要以上に撃たず、門を割って短い時間で終わらせたからだ。長引けば、どちらも死ぬ。
捕らえたポルトガル人は男女とも集められた。縄は強く締めすぎず、逃げにくい程度にする。締めすぎると、運ぶ前に倒れる。倒れれば荷になる。荷が増えれば、こちらが疲れる。
ディエゴは捕虜の前に立ち、通訳を横に置いた。
ディエゴは言った。「ここで死ぬか、生きて働くか。まずはそれを選べ」
男の一人が叫んだ。通訳が訳す。「俺たちに何をさせる気だ」
ディエゴは言った。「海の仕事ができるなら船だ。大工なら修理だ。読み書きができるなら帳場だ。できないなら力仕事だ。働けば飯は出る。余計なことをする者は縛る。逃げようとする者は、そこで終わりだ」
捕虜の中に、黙ってうなずく男がいた。顔に古い火傷があり、手が固い。船大工の手だった。
ディエゴはその男を指した。「名前は」
男はしばらく黙り、通訳に向かって答えた。通訳が言い直す。「マヌエルだそうです。船大工です」
ディエゴは言った。「忠誠を誓えるか」
マヌエルは唾を飲み、ゆっくりうなずいた。恐怖だけのうなずきではない。生きるための選択だった。ディエゴはその場で兵に命じた。「この男は縄を外し、見張りを付けて働かせろ。裏切ればすぐ縛れ」
女たちは別に集め、まず侍女としての役目を割り振った。水汲み、炊事、布の洗い、薬草の仕分け、負傷者の手当。船と砦は、戦いが終わってからの方が仕事が多い。
女の一人が前に出た。通訳越しに言う。「私は炊事ができます。釜を扱えます」
ディエゴはその女の目を見て、言った。「炊事に回せ。火の扱いを間違えるな」
別の女が小さな声で言った。通訳が耳を寄せる。「あなたのそばに仕えたい、と言っています」
通訳が顔を上げた。「側女の申し出です」
ディエゴは即答しなかった。視線を外さずに、まず尋ねた。
ディエゴは言った。「名前は」
女は名を答えた。声が震えている。震えているから駄目とは限らない。だが、勢いだけで決めると揉める。揉めれば隊が腐る。
ディエゴは続けた。「なぜだ」
女は答えた。通訳がまとめる。「生き残るためです。自分で決めたい、と」
ディエゴはうなずき、最後に言った。「今日は侍女に入れ。明日、もう一度来い。明日も同じ言葉が言えるなら、その時に考える」
女は黙って下がった。
ディエゴはサントメ島の港を押さえ、次の拠点への準備を始めた。
◇ ◇ ◇
12月、エレナの船はイスパニョーラ島へ着いた。港は広く、人の声が多い。潮のにおいに香辛料のにおいが混じり、荷車の軋む音が道に溢れる。ここはミナ砦よりも人が多い。人が多い場所は、噂も多い。
エレナは上陸すると、まず役所へ行った。提督としての任命状を出し、封印を確かめさせた。役人は文面を読み、逃げ道を探す目を一瞬だけ動かしたが、すぐに諦めた。紙は紙だが、紙の裏に船と兵がいる。役人はそれを理解していた。
役人は言った。「鍵をお渡しします。倉は3つ、砦の門が2つ、兵舎が1つ、帳場が1つです」
エレナは答えた。「全部、ここで数える。数が合わないなら、その場で直す」
鍵束が机に置かれた。鉄の冷たさが手に伝わる。エレナは鍵の数を数え、一本ずつ布に包ませ、担当の名を書かせた。言い逃れを潰すのは、最初の1日だけでいい。最初に潰せば、次から楽になる。
サントドミンゴ砦へ入ると、石壁は厚いが、足元が湿っていた。排水が詰まっている。
エレナは砦の責任者に言った。「排水を先に通す。今日からだ。石運びも回す。手を出せる者を全部出して」
責任者は渋った。「港の荷が」
エレナは遮った。「荷は逃げない。砦が崩れたら、荷も人も終わる。だから、先に砦を立て直す」
港には黒人奴隷を積んだ船も入っていた。エレナはそれを見て、目をそらさなかった。見なければ、誰かが勝手にやる。勝手にやらせれば、あとで揉める。
エレナは港の役人に言った。「積み荷の人数と状態を書け。病人がいるなら分ける。食い物と水の配りを決める。売るにしても働かせるにしても、倒れさせたら損になる。ここは帳面で動かす」
夜、砦の中が静かになると、波の音が遠くから聞こえ、火の光が石壁に揺れた。エレナは机に向かい、報告を書いた。海の上で見た死者の顔、船倉の匂い、樽の重さ、港の音。忘れると、次に同じ失敗をする。だから、書く。
最後にエレナは記した。サントドミンゴ砦は動き始めた、と。
◇ ◇ ◇
ミナ砦ではルイーザが夜も帳面を閉じなかった。砦に残る者の口を減らし、井戸の列をし、修理の手を止めない。沖から帰ってきた伝令がサントメ島の戦いを報告すると、ルイーザは一度だけ顔を上げた。
ルイーザは言った。「死者と負傷者の数を先に。次に火薬の残り。船の傷み。捕虜の内訳。働ける者の数。そこまで分かれば、次の手が切れます」
伝令はうなずき、順に答えた。ルイーザは聞きながら紙に写し、数字が揃うまで筆を止めなかった。
ディエゴは海の上で次の一手を考え、エレナはサントドミンゴの鍵と倉と名簿を集め、ルイーザはミナ砦の水と火薬を守る。
―――――――――――――――――
挿絵は、『ポルトガル人によるアフリカ沿岸周航』です。
出典は、『講談社現代新書「新書アフリカ史」P253』です。
挿絵は、『アフリカ地図』です。
出典は、『帝国書院編集部編「地歴高等地図」P35』です。
挿絵は、『アフリカ』です。
出典は、『筑摩書房「大航海時代」ボイス・ペンローズ著。荒尾克己訳。巻末地図。』です。
―――――――――――――――――
ディエゴの手元の船は7隻だった。うち2隻は砲の数が多く、残りは速さを優先した。兵は合計で240名。火縄銃が90丁、弓と槍が残りを埋める。火薬は湿気を嫌うので、樽は油布で包み、樽の口を毎朝確かめた。船の上では、整った火薬だけが命を救う。
一方、サントメ島の港は小さかった。海辺の砦は石でできているが、砲は多くない。兵も多くない。だが、鐘がある。鐘が鳴れば島の男たちは集まる。集まった男たちが槍を持てば、上陸隊は足を取られる。
ディエゴは船室で地図を広げ、指で港の形をなぞった。
副官が言った。「夜に近づけば、鐘が鳴る前に入れます」
ディエゴは言った。「夜に近づく。だが、暗闇で勝とうとするな。見えない戦いは事故が増える。夜は近づくために使い、勝つのは朝だ」
通訳が尋ねた。「上陸の合図は」
ディエゴは答えた。「砲を2発だけ撃つ。1発目で壁の上を伏せさせ、2発目で門の前を空ける。殺しきるためではない。動きを止めるためだ」
11月7日、夜明け前。船団は灯りを落とし、潮の音に紛れて島へ寄った。空はまだ暗いが、海面は少しずつ明るんでくる。帆の布が湿り、縄が手に張り付く。誰も無駄口を叩かない。無駄口が出るのは、怖さが溢れた時だ。
ディエゴは甲板に出て、岸の影を見た。砦の形が黒く浮いている。港の入口には鎖があるが、閉じるには人が要る。今は寝ている。そこを突く。
合図の直前、見張りが小声で言った。「灯りです」
砦の上に小さな火が動いた。見張りが気づいたのだ。次の瞬間、鐘が鳴った。乾いた金属音が島の奥へ転がり、寝起きの声が遠くで混じった。
ディエゴは迷わず命じた。「撃て」
砲声が2つ続いた。火薬の煙が甲板に流れ、鼻と喉が焼ける。砦の上で火が揺れ、見張りが伏せた。門の前の広場にいた者たちも散る。散ったから、上陸が通る。
上陸用の舟が滑り出した。櫂が水を叩き、浅瀬で砂を掻いた。兵は膝まで海に入り、盾を前に出して走った。海水が靴に入り、砂が爪先を削る。だが、止まれば撃たれる。走れば届く。
砦の門の前で槍が突き出された。ディエゴの兵は盾で受け、横から押し返した。剣が鳴り、叫び声が弾ける。血が出れば足元が滑る。だから、足を止めない。押して、割って、門に密着する。
門の横で火縄銃が鳴った。弾が盾に当たり、木が裂けた。盾の持ち手の手が震える。だが、震えても前へ出すしかない。ディエゴは後ろに下がらず、門の前に立った。
ディエゴは言った。「門を開けろ。開けないなら燃やす」
通訳が叫ぶ。中から返事がない。返事がないなら、時間を切るしかない。副官が松脂を持って来た。火を近づけると甘い焦げのにおいが立つ。門板が鳴り、煙が上がった。
その時、門の内側で騒ぎが起きた。誰かが止めようとし、誰かが止めるなと叫んだ。言い争いは長く続かない。煙は議論を許さない。門が少し開き、槍が突き出されたが、すぐに引っ込んだ。
ディエゴは言った。「武器を捨てて出て来い。逃げても島の外は海だ。死にたくないなら、今ここで終わらせろ」
しばらくして、門が開いた。中から男たちが出てきた。顔が白い。寝ていたところを叩かれたのだ。隊列は崩れ、弾も少ない。砲も多くない。鐘で集めても、集まるまでに押し切られた。勝負は、そこだった。
戦いはそこで終わったわけではない。島の奥から遅れて集まった男たちが槍を持って来た。だが、港はすでに押さえられている。砦の上にもディエゴの兵が立っている。遅れて集まった側は、前に出ると撃たれ、引くと逃げたと言われる。迷いが大きくなり、足が止まった。
ディエゴは港の入口へ兵を回し、船を動かさせた。小舟2隻を押さえ、逃げ道を消す。海が逃げ道なら、海を塞ぐ。そこまでして、島の男たちは武器を落とし始めた。
負傷者は出た。ディエゴの側でも死者が出た。だが、全滅はしない形で押し切った。砲を必要以上に撃たず、門を割って短い時間で終わらせたからだ。長引けば、どちらも死ぬ。
捕らえたポルトガル人は男女とも集められた。縄は強く締めすぎず、逃げにくい程度にする。締めすぎると、運ぶ前に倒れる。倒れれば荷になる。荷が増えれば、こちらが疲れる。
ディエゴは捕虜の前に立ち、通訳を横に置いた。
ディエゴは言った。「ここで死ぬか、生きて働くか。まずはそれを選べ」
男の一人が叫んだ。通訳が訳す。「俺たちに何をさせる気だ」
ディエゴは言った。「海の仕事ができるなら船だ。大工なら修理だ。読み書きができるなら帳場だ。できないなら力仕事だ。働けば飯は出る。余計なことをする者は縛る。逃げようとする者は、そこで終わりだ」
捕虜の中に、黙ってうなずく男がいた。顔に古い火傷があり、手が固い。船大工の手だった。
ディエゴはその男を指した。「名前は」
男はしばらく黙り、通訳に向かって答えた。通訳が言い直す。「マヌエルだそうです。船大工です」
ディエゴは言った。「忠誠を誓えるか」
マヌエルは唾を飲み、ゆっくりうなずいた。恐怖だけのうなずきではない。生きるための選択だった。ディエゴはその場で兵に命じた。「この男は縄を外し、見張りを付けて働かせろ。裏切ればすぐ縛れ」
女たちは別に集め、まず侍女としての役目を割り振った。水汲み、炊事、布の洗い、薬草の仕分け、負傷者の手当。船と砦は、戦いが終わってからの方が仕事が多い。
女の一人が前に出た。通訳越しに言う。「私は炊事ができます。釜を扱えます」
ディエゴはその女の目を見て、言った。「炊事に回せ。火の扱いを間違えるな」
別の女が小さな声で言った。通訳が耳を寄せる。「あなたのそばに仕えたい、と言っています」
通訳が顔を上げた。「側女の申し出です」
ディエゴは即答しなかった。視線を外さずに、まず尋ねた。
ディエゴは言った。「名前は」
女は名を答えた。声が震えている。震えているから駄目とは限らない。だが、勢いだけで決めると揉める。揉めれば隊が腐る。
ディエゴは続けた。「なぜだ」
女は答えた。通訳がまとめる。「生き残るためです。自分で決めたい、と」
ディエゴはうなずき、最後に言った。「今日は侍女に入れ。明日、もう一度来い。明日も同じ言葉が言えるなら、その時に考える」
女は黙って下がった。
ディエゴはサントメ島の港を押さえ、次の拠点への準備を始めた。
◇ ◇ ◇
12月、エレナの船はイスパニョーラ島へ着いた。港は広く、人の声が多い。潮のにおいに香辛料のにおいが混じり、荷車の軋む音が道に溢れる。ここはミナ砦よりも人が多い。人が多い場所は、噂も多い。
エレナは上陸すると、まず役所へ行った。提督としての任命状を出し、封印を確かめさせた。役人は文面を読み、逃げ道を探す目を一瞬だけ動かしたが、すぐに諦めた。紙は紙だが、紙の裏に船と兵がいる。役人はそれを理解していた。
役人は言った。「鍵をお渡しします。倉は3つ、砦の門が2つ、兵舎が1つ、帳場が1つです」
エレナは答えた。「全部、ここで数える。数が合わないなら、その場で直す」
鍵束が机に置かれた。鉄の冷たさが手に伝わる。エレナは鍵の数を数え、一本ずつ布に包ませ、担当の名を書かせた。言い逃れを潰すのは、最初の1日だけでいい。最初に潰せば、次から楽になる。
サントドミンゴ砦へ入ると、石壁は厚いが、足元が湿っていた。排水が詰まっている。
エレナは砦の責任者に言った。「排水を先に通す。今日からだ。石運びも回す。手を出せる者を全部出して」
責任者は渋った。「港の荷が」
エレナは遮った。「荷は逃げない。砦が崩れたら、荷も人も終わる。だから、先に砦を立て直す」
港には黒人奴隷を積んだ船も入っていた。エレナはそれを見て、目をそらさなかった。見なければ、誰かが勝手にやる。勝手にやらせれば、あとで揉める。
エレナは港の役人に言った。「積み荷の人数と状態を書け。病人がいるなら分ける。食い物と水の配りを決める。売るにしても働かせるにしても、倒れさせたら損になる。ここは帳面で動かす」
夜、砦の中が静かになると、波の音が遠くから聞こえ、火の光が石壁に揺れた。エレナは机に向かい、報告を書いた。海の上で見た死者の顔、船倉の匂い、樽の重さ、港の音。忘れると、次に同じ失敗をする。だから、書く。
最後にエレナは記した。サントドミンゴ砦は動き始めた、と。
◇ ◇ ◇
ミナ砦ではルイーザが夜も帳面を閉じなかった。砦に残る者の口を減らし、井戸の列をし、修理の手を止めない。沖から帰ってきた伝令がサントメ島の戦いを報告すると、ルイーザは一度だけ顔を上げた。
ルイーザは言った。「死者と負傷者の数を先に。次に火薬の残り。船の傷み。捕虜の内訳。働ける者の数。そこまで分かれば、次の手が切れます」
伝令はうなずき、順に答えた。ルイーザは聞きながら紙に写し、数字が揃うまで筆を止めなかった。
ディエゴは海の上で次の一手を考え、エレナはサントドミンゴの鍵と倉と名簿を集め、ルイーザはミナ砦の水と火薬を守る。
―――――――――――――――――
挿絵は、『ポルトガル人によるアフリカ沿岸周航』です。
出典は、『講談社現代新書「新書アフリカ史」P253』です。
挿絵は、『アフリカ地図』です。
出典は、『帝国書院編集部編「地歴高等地図」P35』です。
挿絵は、『アフリカ』です。
出典は、『筑摩書房「大航海時代」ボイス・ペンローズ著。荒尾克己訳。巻末地図。』です。
―――――――――――――――――
0
あなたにおすすめの小説
【アラウコの叫び 】第4巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日21:40投稿】
4巻は、序盤は「推理もの」、中盤から後半は「ロマンスもの」が展開されます。
・サンティアゴで起こる「事件」と「裁き」
・「アンデスの悪魔」として悪名を轟かせた狂気の老人カルバハルの存在感
・ニドス家の兄妹の「行く末」
・イネスとバルディビアとの「出逢い」と「結末」
大きく分けてこの様な展開になってます。
-------------------
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。
【登場人物】
帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。
織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。
斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。
一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。
今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。
斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。
【参考資料】
「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社
「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳) KADOKAWA
東浦町観光協会ホームページ
Wikipedia
【表紙画像】
歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる


