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第一章 レント城塞
第十八話 欠けた指輪の行方
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「残念だが館はもう何年も前から、別の人間の住居だ。エドウィン殿の持ち物は存在しない」
王は嘘を吐いた。それを彼が信じたかは解らない。
「そうですか。レント領主様は、何か預かってはいませんか?」
王の横に参列しているレント領主ハルビィンは、首を横に振りながら否定する。
「お預かりしたのは、陛下の妹君と姫君だけです。他にはございません。……お二人を、私は守る事が出来ませんでした。今でもその悔しさに、悪夢にうなされます」
恐怖に震える僕は、王の抱きしめる温もりに、徐々に冷静さを取り戻し、領主の言葉が心に届いた。
僕を必要以上に過保護にしたのは、その悔しさが原因なのだ。
義父上も《王族狩り》で、心に傷を受けた一人だ。
僕だけじゃない、きっと他にも大勢いる。
そう思うと、身体の震えが止まった。
王はそれを感じ取り、抱きしめる力を緩めた。
「気に病むな、ハルビィン、悔いても二人は戻らぬ。それより今以上に警備を強化せよ。侵入者は容赦なく殺して構わぬ」
「承知しました」
王の言葉は、城へ安易に入り込んだテオフィルスに対しての警告でもある。
「エドウィン殿はアルマレークとの関わりを断った。レント領には何も残してはいない」
「……そうですか。では我等を、国王軍に参戦させていただけないでしょうか? アルマレーク共和国には、エステラーン王国へ協力する用意がございます」
テオフィルスの真剣な申し入れに、王は声を上げて笑った。
「ハハハ、屍食鬼に覆われた王国の戦いに、どうやって参戦する? 竜の炎で空一面を焼き尽くしても、魔界域から次々湧いて出て限がないぞ」
「承知しております。ただ、空を飛べるのは我等の強み、戦い以外でもお役に立てる事がきっとあると思います」
彼の後ろで控えていたアルマレーク人二人が、真剣な眼差しで王に頷く。
アルマレーク共和国は、本気で魔王と戦うつもりなのだ。
それは、テオフィルスの意志なのだろう、初めて会った時もそれを口にしていた事だ。
《俺はあの屍食鬼の群を、打ち破る!》
竜が協力してくれれば、王国の各地との連絡が容易になり、国王軍には有利に働くはずだが、僕という存在がアルマレークの協力を阻んでいる。
どう持ちかけても、二国は協力し合えない。
僕がいる限り。
王は暗い表情で、首を横に振った。
「参戦は断る! アルマレーク人とは百年前に戦った経緯がある。昔の遺恨は、軍の規律を乱す」
「規律は乱しません。必ずお役に立ちます!」
「肝心な事を忘れているな。エドウィン殿が我が国に留まっていると思うか? こんな危険な地に、十一年も? 他国を捜索した方が、可能性があるのではないか?」
「…………」
王は笑って扉を指し、接見の終了を促す。
出入り口の兵士達が、終了の合図と見なし外への扉を開く。
少し暖かい春の風が、騎士の大広間に流れた。
「国外の事態を知らせてくれた事には感謝するが、貴殿達の要請には答えられぬ。新たな血筋を見つけ出し領主に据えればいい、テオフィルス殿」
二人のアルマレーク人が王の前で再び跪くが、テオフィルスは反抗するようにその場に立ち動こうとしない。
青い瞳に厳しさが表れる。
「新たな血統等、ありえません!」
「なに?」
「竜の指輪は領主となるフィンゼル家の人間を引き寄せる。私が欠けた指輪に引き寄せられ、エステラーン王国まで来たように!」
それは王国に父がいる事を確信している物言いで、彼は王ではなく僕をじっと見つめていた。
僕は連れ去られるかもしれない恐怖に、王にしがみ付く。
「領主家の直系はいずれ七竜レクーマの声を聞き、指輪をはめる。その時に私が必要となるのです」
僕がオリアンナ姫だと、確信しているように。
「貴殿の思い込みに、私のエアリス姫が怯えている。もう少し表情を和らげてもらえぬか? 使者として相応しくなかろう?」
王の言葉にテオフィルスは、僕から視線を逸らした。
彼の苛立ちが、手に取るように解る。
エアリス姫を自分の婚約者だと確かめたいから、父の指輪の話をしているのだ。
七竜レクーマの声?
そんなの僕には聞こえないよ。
王の影に隠れ、彼を見ない事にした、怖い存在から身を隠すように。
「何度も言うが、オリアンナ姫は亡くなっている。貴殿の言う欠けた竜の指輪が、王国のどこかに在るとしても、私は参戦を許可しない」
「なぜですか?」
「貴殿の思い込みは、周りの者達を危険に晒すと判断したからだ。国に帰り別の方法を考えられよ、その方が賢明だ」
「……」
立ち尽くす彼の後ろで、跪く随行者が注意を促す。
「若君、ご挨拶を……」
敗北感を滲ませながらテオフィルスは跪き、肩を落として礼を取った。
「陛下に拝謁を賜り、感謝致します。別の方法を考えたいと思います」
「貴国にこれ以上迷惑が掛らぬように、こちらもアドランの動きを今以上に阻む努力をしよう。それだけは約束する」
「ありがとうございます」
そう言って顔を上げた彼は、今まで以上に無表情だ。
三人のアルマレーク人は一礼した後、踵を返して騎士の大広間を出て行った。
王は嘘を吐いた。それを彼が信じたかは解らない。
「そうですか。レント領主様は、何か預かってはいませんか?」
王の横に参列しているレント領主ハルビィンは、首を横に振りながら否定する。
「お預かりしたのは、陛下の妹君と姫君だけです。他にはございません。……お二人を、私は守る事が出来ませんでした。今でもその悔しさに、悪夢にうなされます」
恐怖に震える僕は、王の抱きしめる温もりに、徐々に冷静さを取り戻し、領主の言葉が心に届いた。
僕を必要以上に過保護にしたのは、その悔しさが原因なのだ。
義父上も《王族狩り》で、心に傷を受けた一人だ。
僕だけじゃない、きっと他にも大勢いる。
そう思うと、身体の震えが止まった。
王はそれを感じ取り、抱きしめる力を緩めた。
「気に病むな、ハルビィン、悔いても二人は戻らぬ。それより今以上に警備を強化せよ。侵入者は容赦なく殺して構わぬ」
「承知しました」
王の言葉は、城へ安易に入り込んだテオフィルスに対しての警告でもある。
「エドウィン殿はアルマレークとの関わりを断った。レント領には何も残してはいない」
「……そうですか。では我等を、国王軍に参戦させていただけないでしょうか? アルマレーク共和国には、エステラーン王国へ協力する用意がございます」
テオフィルスの真剣な申し入れに、王は声を上げて笑った。
「ハハハ、屍食鬼に覆われた王国の戦いに、どうやって参戦する? 竜の炎で空一面を焼き尽くしても、魔界域から次々湧いて出て限がないぞ」
「承知しております。ただ、空を飛べるのは我等の強み、戦い以外でもお役に立てる事がきっとあると思います」
彼の後ろで控えていたアルマレーク人二人が、真剣な眼差しで王に頷く。
アルマレーク共和国は、本気で魔王と戦うつもりなのだ。
それは、テオフィルスの意志なのだろう、初めて会った時もそれを口にしていた事だ。
《俺はあの屍食鬼の群を、打ち破る!》
竜が協力してくれれば、王国の各地との連絡が容易になり、国王軍には有利に働くはずだが、僕という存在がアルマレークの協力を阻んでいる。
どう持ちかけても、二国は協力し合えない。
僕がいる限り。
王は暗い表情で、首を横に振った。
「参戦は断る! アルマレーク人とは百年前に戦った経緯がある。昔の遺恨は、軍の規律を乱す」
「規律は乱しません。必ずお役に立ちます!」
「肝心な事を忘れているな。エドウィン殿が我が国に留まっていると思うか? こんな危険な地に、十一年も? 他国を捜索した方が、可能性があるのではないか?」
「…………」
王は笑って扉を指し、接見の終了を促す。
出入り口の兵士達が、終了の合図と見なし外への扉を開く。
少し暖かい春の風が、騎士の大広間に流れた。
「国外の事態を知らせてくれた事には感謝するが、貴殿達の要請には答えられぬ。新たな血筋を見つけ出し領主に据えればいい、テオフィルス殿」
二人のアルマレーク人が王の前で再び跪くが、テオフィルスは反抗するようにその場に立ち動こうとしない。
青い瞳に厳しさが表れる。
「新たな血統等、ありえません!」
「なに?」
「竜の指輪は領主となるフィンゼル家の人間を引き寄せる。私が欠けた指輪に引き寄せられ、エステラーン王国まで来たように!」
それは王国に父がいる事を確信している物言いで、彼は王ではなく僕をじっと見つめていた。
僕は連れ去られるかもしれない恐怖に、王にしがみ付く。
「領主家の直系はいずれ七竜レクーマの声を聞き、指輪をはめる。その時に私が必要となるのです」
僕がオリアンナ姫だと、確信しているように。
「貴殿の思い込みに、私のエアリス姫が怯えている。もう少し表情を和らげてもらえぬか? 使者として相応しくなかろう?」
王の言葉にテオフィルスは、僕から視線を逸らした。
彼の苛立ちが、手に取るように解る。
エアリス姫を自分の婚約者だと確かめたいから、父の指輪の話をしているのだ。
七竜レクーマの声?
そんなの僕には聞こえないよ。
王の影に隠れ、彼を見ない事にした、怖い存在から身を隠すように。
「何度も言うが、オリアンナ姫は亡くなっている。貴殿の言う欠けた竜の指輪が、王国のどこかに在るとしても、私は参戦を許可しない」
「なぜですか?」
「貴殿の思い込みは、周りの者達を危険に晒すと判断したからだ。国に帰り別の方法を考えられよ、その方が賢明だ」
「……」
立ち尽くす彼の後ろで、跪く随行者が注意を促す。
「若君、ご挨拶を……」
敗北感を滲ませながらテオフィルスは跪き、肩を落として礼を取った。
「陛下に拝謁を賜り、感謝致します。別の方法を考えたいと思います」
「貴国にこれ以上迷惑が掛らぬように、こちらもアドランの動きを今以上に阻む努力をしよう。それだけは約束する」
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三人のアルマレーク人は一礼した後、踵を返して騎士の大広間を出て行った。
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