王子な姫君の国王救出物語【水晶戦記】

本丸 ゆう

文字の大きさ
24 / 136
第一章 レント城塞

第二十三話 エランと僕

しおりを挟む
 領主の妻サフィーナの部屋の前に二人の護衛とは別に、もう二人男が立っていた。
 僕の幼馴染みのエラン・クリスベインと、王の薬師マール・サイレスだ。
 彼等は僕に微笑みながら、《王族》に対する礼を取る。
 顔を上げたエランには、明らかに王配候補としての喜びが見て取れる。
 僕はなんとなく腹が立ち、さりげなく彼に近寄り、小声で文句を言ってやった。

「どうしてここにいるんだよ? 君はまだベルン長官の従騎士だろ? 早く持ち場に帰れよ!」

 彼にドレス姿を見られたくなくて、追い払おうと少し強めの口調で言った。
 最もエランは一向に気にする様子がなく、逆に喜んでいるように見える。

「エアリス姫の側にいるように、陛下に命じられたんだ。その姿で男言葉は変だよ。君は本当に姫君か? 怪しいからヴェールを上げて、僕だけにこっそり顔を見せてくれよ」
「絶対に嫌だ!」

 僕達はヴェール越しに牽制けんせいしあい、睨みあう。
 唐突に領主ハルビィンが割って入り、彼に忠告した。

「クリスベイン、国王軍がレント領を出るまでは、君はまだ私の指揮下にある。仮初かりそめでもセルジン王の婚約者であるエアリス姫の横に立てるのは、国王陛下だけだ。君は一番後ろに就け!」
「…………はい」

 辺境伯である領主と、トルエルド公爵家の次期領主であるエランは、僕を廻って事ある毎に対立してきた。
 僕は十歳までエランの館に暮らしていたので、養父として僕達の仲は面白くないらしく、城に僕が移り住んでからは、ことごとくエランと引き離すように仕向けられた。
 それでも彼とこっそり会っていたのは、僕にとって一番大切な親友だから。
 親は王国中心部からの避難民だけど、僕達はこのレント領で生まれた。
 親の身分はどうあれ共に孤児で、まるで兄弟のように育った。
 今さら引き離そうたって、それは無理だよ。
 ……でも、セルジン王への想いを、エランにすり替える事は出来ない。
 不機嫌そうに最後尾に行く彼に、僕はヴェールの中で親しみを込めて手を振った。
 不意に横から、太い威嚇するような声が聞こえてくる。

「なぜ、お前がここにいる、マール・サイレス?」

 王の薬師に、トキが憮然と問い質す。
 僕は一瞬、この二人の仲が悪いのかと心配になった。
 マールは慣れた様子で、トキを睨み返す。

「陛下が到着なさるまで、部屋の守りを固めておくよう申し付けられた。魔法を使う竜騎士が場内に入って行くのを、エランが目撃したらしい」
「エランが?」

 トキが問うように視線を向け、エランはそれが本当であると、少し離れた場所から返事を返す。

「では殿下、極力姫君らしく振舞うように。どこで魔法使いが見ているか、判らない」

 僕は苛立ちと同時に緊張し、辺りを見回しながら頷いた。
 あの男――――テオフィルスはどこにでも入り込める不思議な魔法を使う、まったく厄介な存在だ。
 トキが皮肉に微笑みながら、マールの鳩尾に剣の柄を当てた。

「まずは、お前が魔法使いじゃないかを確認する。俺達が初めて会った場所を言ってみろ」
「…………」

 マールが呆れ顔で、盛大な溜め息をついた。

「まだ根に持っているのか? 十年前、コトリのイルー河畔で、初めて会ったお前を打ち負かしたのは、私だ」
「薬師のお前が、なぜ俺より強い? 怪しいんだよ、お前は!」
「偶然に運が味方しただけと、何度も言っているだろう。薬師には薬師の戦い方がある。それ以降は負け続けているんだ、いい加減疑うのは止めろ」
「ふふんっ。だったら、その薬師の戦い方とやらを、もう一度見せてもらおうじゃないか」

 そう言ってニヒルに笑い、扉を開けと指示を出した。
 仲は悪くないのだと、僕は少しホッとした。
 国王軍内の人間関係を、もっと知っておくべきだ。

 前室の扉が開き、少しきな臭いけど良い香りが漂い始める。
 サフィーナの部屋でこんな香りを嗅ぐのは初めてで、僕は違和感を覚えた。
 義母はまだ息子ハラルドが、〈沈黙の獄〉に入れられた事を知らない。
 領主がどう伝えるのか、彼女がどう反応するのか、緊張しながら領主の後に続き、部屋へ入った。
 広い部屋にはサフィーナとお気に入りの侍女一人と護衛二人だけが、美しい調度品に囲まれ静けさの中に存在していた。
 領主の奥方としては地味なドレスを装い、僕の姿に気を遣っているのが見てとれる。
 夫に挨拶のくちづけをしてから、楚々そそと部屋に入る僕に微笑みかける。
 ミアがヴェールを持ち上げ、変装した僕は姫君の意識を装う。

「まあ、素敵。お母様の若い頃にそっくりだわ。陛下もお喜びになられたでしょう。思った以上に姫君の所作も身に付いていて。頑張りましたね、オリアンナ姫」

 彼女は僕の母とは友達で、セルジン王とも親しい。
 だから余計に、僕に執着している。
 気持ちは解らなくもないけど、今は本当の名前を呼ばれるのはまずい。

「あの……」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

独孤皇后物語~隋の皇帝を操った美女(最終話まで毎日複数話更新)

結城 
歴史・時代
独孤伽羅(どっこ から)は夫に側妃を持たせなかった古代中国史上ただ一人の皇后と言われている。 美しいだけなら、美女は薄命に終わることも多い。 しかし道士、そして父の一言が彼女の運命を変えていく。 妲己や末喜。楊貴妃に褒姒。微笑みひとつで皇帝を虜にし、破滅に導いた彼女たちが、もし賢女だったらどのような世になったのか。 皇帝を操って、素晴らしい平和な世を築かせることが出来たのか。 太平の世を望む姫君、伽羅は、美しさと賢さを武器に戦う。 *現在放映中の中華ドラマより前に、史書を参考に書いた作品であり、独孤伽羅を主役としていますが肉付けは全くちがいます。ご注意ください。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...