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終わりからの始まり
5. 婚約破棄のあとのディナー
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その夜、家族が集まったディナーのテーブル席で、フルーリリは両親にカールとの婚約破棄の話を伝えた。
今日のカールの訪問時に、婚約破棄をしたいと告げられた事。カールが学園で出逢った女性を心から愛してしまい、それは真実の愛だと語った事。私との未来はもう考えられないと伝えられた事。
――そしてそれを既に了承した事。
フルーリリは全て事細かに両親に説明した。
既に婚約破棄を受け入れたという突然の話に、両親共々目を剥いたが、フルーリリが放った諜報部員の浮気調査は実は両親にも常々報告されていたため、娘の判断を受け入れてくれた。
家同士で繋がった婚約だったが、両親も娘の不幸を見たいわけではない。浮気を許すような娘でもない。
簡単に長年の婚約者を捨てようとする、そんな相手と進む未来に幸せはないだろう。
今回の婚約破棄は、いつかこうなるかもしれないと両親も予想していた事でもあった。予想してたとはいえ、親にも話さないまま勝手に婚約破棄を了承するとは思っていなかったが。
勝手に了承したという点だけを娘に注意して、そして『冷めないうちに食事をしよう』と食事を始める事にした。
父のカスティル伯爵は、こんな日が訪れた時のため日頃から今後の準備はしていたようだ。
明日にでもバージェント家当主との話し合いを持ってくれるらしい。
バージェント家子息の側に全ての原因があるので、事業面でも有利に働かせる事はいくらでも出来るのだろう、父はむしろ機嫌が良さそうな顔を見せた。
母は政略的な事よりも、フルーリリの未来を憂いた。
カールはあまりシッカリしているとは言えないが、優しい子だったのだ。こんな娘とでも何とかやっていけると思っていたのにと、残念がった。
「あぁこの子を受け入れてくれる婚約者は他に見つかるのかしら…」
母が深いため息を吐きながら、娘に聞こえるように呟く。
「大丈夫ですよ。お母様。私は生涯独身でも気にしません。お父様とお母様の娘として一生側にいますよ」
娘のフルーリリに母の嫌味は通じず、安心してくださいと言うかのように満面の笑みを向ける。
微妙な沈黙が流れたが、結局は娘に甘い両親なのだ。
「しょうがない子ね。」と苦笑しつつも、いつもの穏やかな夕食の時間に戻っていった。
そして次の日、バージェント夫妻からの深い詫びと共に婚約は正式に解消された。
両家で進められていた共同事業の話も、カスティル家にかなり有利なものとなったらしい。
そしてカスティル家に、いつもの日常が戻った。
秋空の下、フルーリリとエリックは庭園をのんびりと散策する。
少し浮かない顔をした義弟に気づき、フルーリリは声をかける。
「カールとの婚約がなくなって、私が結婚して家を出る予定も白紙になったけど。
心配しないで。カスティル家の跡継ぎはリックよ。私は親に寄生する事はあっても、当主の座を奪ったりしないわ」
優しく微笑むフルーリリを眩しげに見つめて、エリックは言う。
「リリ姉さん…そんな心配はしていないよ。僕はカスティル家の家族であることが誇りなんだ。跡継ぎの座に固執してるわけじゃない。心配なのは――」
そこで言葉を切って黙り込んだエリックに、フルーリリは心配そうな眼差しを送る。
「――心配なのはリリ姉さんの実態がいつか世間に知れ渡ってしまう事だよ」
再び開いた義弟の口から出た言葉は、姉の悪口だった。
どうやら私の義弟は――家に寄生しようとする姉が、問題を起こしてカスティル家を貶めないか不安らしい。
美しく優しい弟は、とても口が悪い。
今日のカールの訪問時に、婚約破棄をしたいと告げられた事。カールが学園で出逢った女性を心から愛してしまい、それは真実の愛だと語った事。私との未来はもう考えられないと伝えられた事。
――そしてそれを既に了承した事。
フルーリリは全て事細かに両親に説明した。
既に婚約破棄を受け入れたという突然の話に、両親共々目を剥いたが、フルーリリが放った諜報部員の浮気調査は実は両親にも常々報告されていたため、娘の判断を受け入れてくれた。
家同士で繋がった婚約だったが、両親も娘の不幸を見たいわけではない。浮気を許すような娘でもない。
簡単に長年の婚約者を捨てようとする、そんな相手と進む未来に幸せはないだろう。
今回の婚約破棄は、いつかこうなるかもしれないと両親も予想していた事でもあった。予想してたとはいえ、親にも話さないまま勝手に婚約破棄を了承するとは思っていなかったが。
勝手に了承したという点だけを娘に注意して、そして『冷めないうちに食事をしよう』と食事を始める事にした。
父のカスティル伯爵は、こんな日が訪れた時のため日頃から今後の準備はしていたようだ。
明日にでもバージェント家当主との話し合いを持ってくれるらしい。
バージェント家子息の側に全ての原因があるので、事業面でも有利に働かせる事はいくらでも出来るのだろう、父はむしろ機嫌が良さそうな顔を見せた。
母は政略的な事よりも、フルーリリの未来を憂いた。
カールはあまりシッカリしているとは言えないが、優しい子だったのだ。こんな娘とでも何とかやっていけると思っていたのにと、残念がった。
「あぁこの子を受け入れてくれる婚約者は他に見つかるのかしら…」
母が深いため息を吐きながら、娘に聞こえるように呟く。
「大丈夫ですよ。お母様。私は生涯独身でも気にしません。お父様とお母様の娘として一生側にいますよ」
娘のフルーリリに母の嫌味は通じず、安心してくださいと言うかのように満面の笑みを向ける。
微妙な沈黙が流れたが、結局は娘に甘い両親なのだ。
「しょうがない子ね。」と苦笑しつつも、いつもの穏やかな夕食の時間に戻っていった。
そして次の日、バージェント夫妻からの深い詫びと共に婚約は正式に解消された。
両家で進められていた共同事業の話も、カスティル家にかなり有利なものとなったらしい。
そしてカスティル家に、いつもの日常が戻った。
秋空の下、フルーリリとエリックは庭園をのんびりと散策する。
少し浮かない顔をした義弟に気づき、フルーリリは声をかける。
「カールとの婚約がなくなって、私が結婚して家を出る予定も白紙になったけど。
心配しないで。カスティル家の跡継ぎはリックよ。私は親に寄生する事はあっても、当主の座を奪ったりしないわ」
優しく微笑むフルーリリを眩しげに見つめて、エリックは言う。
「リリ姉さん…そんな心配はしていないよ。僕はカスティル家の家族であることが誇りなんだ。跡継ぎの座に固執してるわけじゃない。心配なのは――」
そこで言葉を切って黙り込んだエリックに、フルーリリは心配そうな眼差しを送る。
「――心配なのはリリ姉さんの実態がいつか世間に知れ渡ってしまう事だよ」
再び開いた義弟の口から出た言葉は、姉の悪口だった。
どうやら私の義弟は――家に寄生しようとする姉が、問題を起こしてカスティル家を貶めないか不安らしい。
美しく優しい弟は、とても口が悪い。
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