8 / 43
ここからの始まり
3. 転生少女の立ち位置②
しおりを挟む
食の伝道師の道は閉ざされた。
というより最初から隙間ぶんさえ開いていない道だった。
しかし、ひとつの所に立ち止まってる暇はない。
更なる可能性を模索するべきだ。
この世界は前世にはないものがある。
それが魔法だ。
治癒魔法もあれば、攻撃魔法もある。魔法で火や水、土や風を操る事もできる。
才能あるものだけが使うことが出来る能力――魔法。
まさか私は―!
新しい可能性に気づく。
永い眠りより目覚めた魔王から、世界を救うために遣わされた救世主では…!!
ピシャーンと天啓を受ける。
そうだわ。なぜこんな大事な事に気づかなかったんだろう。
前人生の一生分の記憶を持つことに、意味がない訳がない。
前人生で重ねてきた様々な経験が、長い人生の中で培われた冷静な思想が、これからの危険な討伐の旅に役立つことは間違いない。
そう考えると、前人生から引き継ぐ中途半端な料理の記憶は、旅の中で活かせる能力なんだろう。
料理を極めるためではなく、仲間を生かす能力なのだ。それは皆の胃袋をも掴み、生命を左右するほどの重要な役割を持つ。
料理人かつ魔法を操る救世主。ここから私の伝説が始まるのだ。
世界滅亡の危機が、近い将来に訪れることを確信した私は、居ても立ってもいられず父親の執務室に急いだ。
魔法の勉強がしたい、良い師を付けてほしいと懇願する。
父は、思いがけない娘の突然のお願いに驚きながらも、娘の興味を持つ芽を伸ばしたいと、魔法の先生を付けてくれることを約束した。
何かに興味を持ち、学びたいと目をキラキラさせる娘を微笑ましく見つめながら。
翌週。さっそく魔法の授業が始まった。
トーマス・ダランソン。
後に通う学園で教鞭もふるう教授でもある彼は、私の魔法の先生だ。
腰まである長い白髪のおじいちゃんは、いかにも魔法使いな様相である。このような先生との出会いに、ますます自身の救世主の立場に確信を持つ。
私の激しいくらいのやる気に溢れた顔を見て、ダランソン先生はニコニコと相好をくずした。私を包み込むような優しい笑顔に、前世のおじいちゃんを思い出す。
見てておじいちゃん…!私は世界を救ってみせるよ。
そう固く誓い、貪欲的に魔法の授業に取り組んだ。
喰らいつくように魔法の勉強を始めて一年。
私は気がついた。
私に魔法の才はない。
座学で学び始めた頃は良かった。
そらもう若い脳みそが知識をスルスル吸収する。
5歳児とは思えぬ天才っぷりを発揮して、あっという間に魔法理論を理解した。
――当然よ。私は世界に選ばれた救世主だもの!
火も水も風も土も操り、魔王討伐どころか世界征服も夢じゃないわね。
ククククク……
近く開ける明るい未来に笑いが止まらない。
そんな私を、ダランソン先生は優しく見守る。
熱心に自分の勉学に喰らい付いてくる、愛らしい生徒を。それはおじいちゃんの目だ。
ーーだけどここまでだった。
あんなにスムーズに進んでいた魔法の授業は、いざ実戦に入るとピタリと止まってしまった。
魔法の理論は理解出来るのだが、肝心の魔法を発動する才能がない。どれだけ力んでも、身体の中に魔力のカケラも感じられないのだ。
それでも諦めきれず、毎日身体の中の魔力を探り続ける。
ある日とうとう号泣した私に、ダランソン先生は私の背中を撫ぜながら優しく声をかけた。
「魔力は誰もが持つものではないんじゃよ。魔力は持って生まれるものじゃから、無いものから作り出すことは出来んのじゃ。
フルーリリ嬢は魔力を持っとらんが、魔法理論は理解しておるし、この知識は様々な役に立つ。魔法を理解する者は、希少じゃからの。」
そう慰められて、今までの努力は確かに無駄ではなかったし、学んだことは誇るべきであることを受け入れた。
――私は救世主ではなかった。
しかし考えてみれば、野宿なんぞ私に出来る訳がない。
虫こわいし。キャンプ未経験だし。後片付け面倒くさそうだし。
お風呂に何日も入れない、なんてのも嫌。私は湯船に浸かりたい派なのだ。
いくらパーティー仲間が極上のイケメン達であっても、風呂に入らない汗くさい野郎集団はいただけない。
お菓子やパンが作れても、アウトドアクッキングはしたことがない。
パン生地発酵させる前にご飯作れと言われたら、じゃあテメェが作れとキレること間違いない。
なんだかんだで魔法の勉強は好きだし、おじいちゃん先生も大好きだ。
救世主の道は閉ざされたけど(開いてもいなかったけど)、これからも魔法は学んでいくつもりである。
というより最初から隙間ぶんさえ開いていない道だった。
しかし、ひとつの所に立ち止まってる暇はない。
更なる可能性を模索するべきだ。
この世界は前世にはないものがある。
それが魔法だ。
治癒魔法もあれば、攻撃魔法もある。魔法で火や水、土や風を操る事もできる。
才能あるものだけが使うことが出来る能力――魔法。
まさか私は―!
新しい可能性に気づく。
永い眠りより目覚めた魔王から、世界を救うために遣わされた救世主では…!!
ピシャーンと天啓を受ける。
そうだわ。なぜこんな大事な事に気づかなかったんだろう。
前人生の一生分の記憶を持つことに、意味がない訳がない。
前人生で重ねてきた様々な経験が、長い人生の中で培われた冷静な思想が、これからの危険な討伐の旅に役立つことは間違いない。
そう考えると、前人生から引き継ぐ中途半端な料理の記憶は、旅の中で活かせる能力なんだろう。
料理を極めるためではなく、仲間を生かす能力なのだ。それは皆の胃袋をも掴み、生命を左右するほどの重要な役割を持つ。
料理人かつ魔法を操る救世主。ここから私の伝説が始まるのだ。
世界滅亡の危機が、近い将来に訪れることを確信した私は、居ても立ってもいられず父親の執務室に急いだ。
魔法の勉強がしたい、良い師を付けてほしいと懇願する。
父は、思いがけない娘の突然のお願いに驚きながらも、娘の興味を持つ芽を伸ばしたいと、魔法の先生を付けてくれることを約束した。
何かに興味を持ち、学びたいと目をキラキラさせる娘を微笑ましく見つめながら。
翌週。さっそく魔法の授業が始まった。
トーマス・ダランソン。
後に通う学園で教鞭もふるう教授でもある彼は、私の魔法の先生だ。
腰まである長い白髪のおじいちゃんは、いかにも魔法使いな様相である。このような先生との出会いに、ますます自身の救世主の立場に確信を持つ。
私の激しいくらいのやる気に溢れた顔を見て、ダランソン先生はニコニコと相好をくずした。私を包み込むような優しい笑顔に、前世のおじいちゃんを思い出す。
見てておじいちゃん…!私は世界を救ってみせるよ。
そう固く誓い、貪欲的に魔法の授業に取り組んだ。
喰らいつくように魔法の勉強を始めて一年。
私は気がついた。
私に魔法の才はない。
座学で学び始めた頃は良かった。
そらもう若い脳みそが知識をスルスル吸収する。
5歳児とは思えぬ天才っぷりを発揮して、あっという間に魔法理論を理解した。
――当然よ。私は世界に選ばれた救世主だもの!
火も水も風も土も操り、魔王討伐どころか世界征服も夢じゃないわね。
ククククク……
近く開ける明るい未来に笑いが止まらない。
そんな私を、ダランソン先生は優しく見守る。
熱心に自分の勉学に喰らい付いてくる、愛らしい生徒を。それはおじいちゃんの目だ。
ーーだけどここまでだった。
あんなにスムーズに進んでいた魔法の授業は、いざ実戦に入るとピタリと止まってしまった。
魔法の理論は理解出来るのだが、肝心の魔法を発動する才能がない。どれだけ力んでも、身体の中に魔力のカケラも感じられないのだ。
それでも諦めきれず、毎日身体の中の魔力を探り続ける。
ある日とうとう号泣した私に、ダランソン先生は私の背中を撫ぜながら優しく声をかけた。
「魔力は誰もが持つものではないんじゃよ。魔力は持って生まれるものじゃから、無いものから作り出すことは出来んのじゃ。
フルーリリ嬢は魔力を持っとらんが、魔法理論は理解しておるし、この知識は様々な役に立つ。魔法を理解する者は、希少じゃからの。」
そう慰められて、今までの努力は確かに無駄ではなかったし、学んだことは誇るべきであることを受け入れた。
――私は救世主ではなかった。
しかし考えてみれば、野宿なんぞ私に出来る訳がない。
虫こわいし。キャンプ未経験だし。後片付け面倒くさそうだし。
お風呂に何日も入れない、なんてのも嫌。私は湯船に浸かりたい派なのだ。
いくらパーティー仲間が極上のイケメン達であっても、風呂に入らない汗くさい野郎集団はいただけない。
お菓子やパンが作れても、アウトドアクッキングはしたことがない。
パン生地発酵させる前にご飯作れと言われたら、じゃあテメェが作れとキレること間違いない。
なんだかんだで魔法の勉強は好きだし、おじいちゃん先生も大好きだ。
救世主の道は閉ざされたけど(開いてもいなかったけど)、これからも魔法は学んでいくつもりである。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
48
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる