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第四章  新たな出会いと別れ

10  リーダー業務

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「桃園さん、そろそろリーダー業務をしようか」
「はい?」


 季節はあっと言う間に流れ、そうして九月になった頃である。
 晴れ晴れとした面持ちで看護部長が現れたかと思えば、ちょっとちょっとと休憩室へと呼び出され、ついていけば開口一番がそれだった。

「いやいやいやいや本当に無理ですって⁉ 穿刺だってまだまだなのになんでまたリーダー業務何か……」

 答えは言わずともわかっている。
 そう実に簡単でシンプルだ。
 ただ単純に――――。

 

 この一択しかない。


 現在Bチームの常勤の看護師は私と藤沢さんの二人だけ。

 正看護師の古川さんと赤井さんは当の昔にAチームへと行ってしまった。

 月曜から土曜日まで藤沢さんがリーダー業務を出来る筈もなく、彼女が休みの時は看護部長がリーダー業務をしているとは言え、部長にも部長業務と言うものもあり当然それ以外の仕事や諸々の雑務はある訳で、どっぷりと終日を透析センターに浸かると言う事が土台無理な話なのである。

 責任者の不在。

 そして何時まで経っても武井さんはセンター長にはならずに一介のMEのまま。
 故にドンである藤沢さんがセンターを纏めている。

 また最近はドンの尾っぽへぶら下がる鷲見山さんと桜井さんと言う太鼓持ち迄いる現実。

 ここはドンである藤沢さんへ尻尾をぶんぶんに振っておけばよかったのだろうか。
 そうすればドンの庇護下へと入り鬱にもならなかったのであろうか。


 いやいや私の性格上黒を白とは言えない。
 それに毒入りスープを美味しいと喜んで飲む事も出来やしない。
 そこは間違った事をしてはいけないと、小さな頃よりの母の教えが悪事への加担を許さなかった。

 そして私がセンター内で孤立となるのは極々自然の流れだったのである。

 今現在私の味方何ているのだろうか。
 透析センターで一緒に仕事をしていてもである。
 MEの男の子達や武井さんの職種は全く違う。

 同じ看護師の仲間は――――いない。


 外来の患者さんを主とするBチームとは違いAチームは入院患者さんを対象としているだけあって頻繁に急変をする為か、ほんの近くにいると言うのにほぼほぼ古川さん達とは出会わない。

 偶に食事や休憩が一緒になる事はあったとしてもである。
 駆け込む様に食事やお茶を飲めば休憩もそこそこで、直ぐに持ち場へと戻ってしまう。

 だから挨拶が出来た日はめっちゃ嬉しかった。
 
 そんな私に
 あり得ない。
 出来ないよりもしたくはない!!
 
「大丈夫。ちゃんと私も教えるからやってみよう」

 明るくも何故かそう強く言い切る看護部長。
 結局は色々言い訳めいたものを言いつつも、何だかんだとリーダー業務をする事になってしまった。

 このリーダー業務こそが益々私自身体と心を追い詰めていくとは思いもしないと言うか、多分既に心が疲れていたのだろう。

 それでもまだ心の何処かでがんばればなんとかなる――――と思う自分がいたのである。

 本当に今にして思えば何とも滑稽にしか思えない。
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