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第五章  じわじわと

8  出前⁉

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「も、桃園さん今いいですか?」
「ん? どうしたん?」


 それは丁度最初の昼休憩へ入っているだろう時間であった。
 1クール目の透析が終了するのは何時も12時30分前後。
 その頃より慌ただしく返血が始まる為にフロアーで透析の経過を見守っているだろう受け持ちスタッフ達は全員での休憩を取る事が出来ない。

 それ故先番と遅番の二班へ分かれれば、時間を見て透析終了までに昼食を兼ねた休憩を済ませるのである。

 そう例えば八人のスタッフがいればである。
 その場合半分の四人が先に休憩を取り残る半分の四人で透析を受けている患者さん全ての経過を観察するのである。

 またその第一条件……と言うか最早これは何処の病院でも当たり前の事なのだが

 Drが直ぐ傍にいなくてもである。

 透析の経過とその看護を行う看護師が常駐すると言う事は絶対条件。
 それがたとえあらゆる機械の管理のプロである臨床工学技士がいようともである。
 これは決して臨床工学技士を軽んじている訳ではない。

 そう彼らは機械の取り扱いの専門家であって看護の専門家ではない。


 透析中は特に患者さんの急変もだが細々な対応はやはり看護師がプロでありまた求められる事は多い。
 また何度もくどい様だがのである。

 そしてその最初の休憩中、因みに今日のスタッフは全員で六人しかいない。

 看護師三人とMEが三人。

 だから今の時間休憩に入っているのは看護師が一人ならばMEは二人、若しくは看護師二人とMEが一人――――の筈だった。

 フロアーに最低看護師が一人とMEが二人いるのであれば問題はない。

 今日も何時もと変わらずその様になされていると信じていたしそう思ってもいた。

 何故なら私が赴任してきた頃……と言うかである。
 透析に携わっている者ならばこれは至って普通の事なのである。


「あ、あの……」

 なのに何故、目の前にいるだろう若いMEの男の子はこんなにもおどおどとした表情と態度で以って私へ声を掛けるのだろう。
 何か患者さんとトラブルでもあったのだろうか。
 受け持ち担当者が対応出来ない案件故にリーダーが態々わざわざ患者さんの所へ赴き何かをしなければいけない理由……って?


「どないしたん?」
「えーっとですね、その、んですよ」
「何が?」

 なんだろうさっぱり用のなさない内容の会話。
 そして意味不明。
 何がフロアーにいなくて、どうしてこんなに困った表情をしている――――。

「実はですね、フロアーにんです!!」
「はい?」

 いや~最近仕事で疲れ過ぎてすっかり聴力も弱ってしまった……じゃあない!!

「嘘やん!!」

 私は咄嗟の事でMEの子を押し退ける様に詰め所を出ればぐるりとフロアー中を見回した。
 すると一番奥に患者さんの血圧を測るMEの男の子が一人と……私へ声を掛けに来たこの二人しかフロアーにはいなかったのである。

「何で、どうしてこないな事になったん?」
 
 益々以って理解不能だった。
 なんで。
 どうして⁉
 その言葉だけが私の頭の中を支配していく。

「取り敢えず患者さんの血圧を測定していってくれる? 直ぐ戻ってくるからっ、ちょっとだけ待っててなっっ」

 私は踵を返せば向かうのは詰所の中にある休憩室だった。
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