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第八章  それはある日突然に

1  訴訟案件

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 藤寺先生のカウンセリングは奥野先生のものと少し違う。

 でも双方共に共通する事はちゃんと私の言葉を聞いてもくれるしまた医師として共感もしてくれれば適切なアドバイスもしてくれる。

 私が後ろ向きになったとしても頭から否定をせずに同じ速度で歩いてくれる。
 そして私は奥野先生同様藤寺先生の前でもこれ間の間に何度泣きながら話をした事だろう。
 今思い出せば中々に恥ずかしいものを感じてしまう。

 でもその場面場面の私は当然の事ながら恥ずかしいと言う気持ちは一切なく、泣こうが喚こうとも何れの私も必死に心の病へ向かい合う為に必要だったのである。
 まあ元気な頃の私はそう簡単に泣かなかったと言うのに……ね。

 本当に鬱になってからの私は色々と涙腺が弱くなってヤバい。

 でもそんな頃だった。
 一見すれば薄氷上だがそれでも平穏な日常を送る事が出来ていた。

 先日ある事件の切っ掛けによって私の中で産まれ出てしまっただろう恐ろしい感情は鳴りを潜め、また前へと向かうその歩みは亀の様でも構わない。

 でも一歩ずつ……ほんの少しずつかもしれないけれども前へと一歩踏み出そうとしていた時である。

 N病院よりほぼほぼ一方的な簡易裁判の申し立ての通知が我が家へ送られてきたのは……。

 まあその申し立ての内容はぶっちゃけて言えばである。

 的なもの。

 私と母にしてみれば意味不明。
 でも向こうにすれば何も悪い事をしていないからこそ、と公にも認めさせたいたいのだろう。

 冗談じゃない!!


 そう決して冗談ではない。
 そんな出鱈目過ぎる書類を送られて、然も

 これまで真面目に、そこは断じて聖人君子迄とは言わないけれどもである。

 裁判を起こされた事もなければ起こした事すらない、世間一般で言えば余り面白味のない平々凡々とした人生においてである。

 そんな人生を生きてきた者にとって、いやいや普通に簡易裁判だとしてもめっちゃ吃驚するでしょ。


 加えて今の私の精神は正常ではない。
 自分自身で判断をする事が余り出来ない状態なのに、おまけに感情の制御が出来ず直ぐ興奮しまい兼ねない状態だと言うのにである。

 訴訟を起こされたと言う事実がごんと何か硬質な物で頭を強くぶん殴られた様な衝撃と等しいものが感じられてしまった。

 また頭だけではない。

 精神的にもかなりのクリーンヒットだったのは言うまでもない。
 

 ようやくそう薄氷上とは言えだ。

 穏やかな日常を送れるようになったと思った矢先に待ち受けていたのは更に底が全く見えない深淵過ぎる闇の中。

 一体後どれだけ私はこうして闇の中へと突き堕とされればいいのだろう。

 それはほんの少しだけ、亀が硬い甲羅よりほんの少しばかり顔を出した程度なのかもしれない。

 その微々たるものだが上向きになっただろう心は、心無い者達によって何度となくこうして闇の中へと堕とされる度に、私は恐ろしい悪意へ晒されるのだろう。


 ああ、もう疲れたよ。
 もう本当に色々なものから解放されたい。

 何もかもから解放されても……いいよね。

 だって私これまでめっちゃ頑張ったんだもん。
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