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しおりを挟むああ俺はこの話を聞いた瞬間愕然と、今俺のいる執務室の床はリドゲート公爵の話と共に消え去れば、その下は階下に存在しているだろう部屋若しくは床等の存在すらもなく、一条の光すらも差し込む事のない闇または無の世界。
きっと奈落の底と言うものが存在するのであれば今がこの瞬間なのだろ俺は思った。
また俺の絶望する様がそこまで、何故に公爵を喜ばせているとは俺はまだ真の意味で奈落の底へは至ってはいないのだろう。
きっかり一時間後には心底満足そうな面持ちで俺の執務室を後にする公爵。
それに引き換え今の俺はきっと苦虫を噛み潰した様な面持ちなのだろうな。
一体俺は何処で道を違えてしまったのだろう。
そして何故エリザベス、貴女と出逢って八年……あと少しで貴女と幸せに満ちた生活を本来ならばごく普通に送れる筈だったのに何故なのだっっ。
『殿下、私は陛下より……いいえ王家として両陛下よりですな。あの狂女殿下を妻として迎える見返りは確かに頂戴致しましたが問題はあの狂女が大人しく我が公爵邸で暮らすかと言えば話はまた別なのです。ええ勿論そこはご両親であられる両陛下より文書と言う形で確約を頂きまた此度の降嫁の件を狂女殿下ご本人からも、まあその辺りは大いにご不満がおありになられるようですが、これも提示させて頂きました提案によって渋々……いえ大変満足の上で合意なされたのですよ』
最後に公爵と交わした言葉が徐々に俺の脳裏へと、呪いの言葉の様に甦る。
『次代の公爵家となる者は公爵夫人となるキャサリン様の産みし者』
それを告げた次の瞬間だった。
公爵は口角を上げれば下卑た笑みをうっそりと湛え俺を見据える。
『キャサリン王女殿下はエセルバート王太子殿下、貴方様との子をご所望なのです。貴方様の子種によって孕ませられる事を条件に我が家への降嫁を受け入れられたのです』
淡々と話す公爵に反吐が出そうになるのをぐっと腹に力を入れて俺は堪え――――。
『ば、馬鹿も休み休み言え!! 何故俺が妹との間に子を儲けなければならぬのだ!!』
俺を馬鹿にするのも大概にしろと俺は言いたかったのだが……。
『それこそ何を今更ですな。もう随分と、ええかれこれその妹君であられるキャサリン王女と身体の関係を持って早五年――――ですか。世間的には優秀な王太子殿下は麗しい婚約者殿に隠れて夜な夜な妹君との肉欲に溺れられて……いると世間が知ればどうなりますかな?』
『……脅しには屈せぬ!!』
『いえ、これはお願いいやそれも違いますな。これはある意味貴方の貴方の父君、陛下よりの王命ですよ』
『はあ?』
王命……何だそれは……。
『流石は親子ですな。血の濃い者へと惹かれゆくのはと……いえこれは何でも御座いません。兎に角ですよ。両陛下は少なくとも陛下は貴方方の関係に早くより気づかれておいでのご様子でしたよ。王としての力量は眉唾物ですがこれに関してはかなり敏感でしてね。ですのでまあ計画と致しましては出来得る事ならば数ヶ月後の殿下の御成婚よりも一日でも早くに我が妻となるキャサリン王女との間に子を儲けて頂きたい』
『何を勝手……な!!』
『おや、これでも私は気を遣っているのですよ未来の王太子妃となられるセジウィック公爵令嬢に対して……ですがね。何しろ誕生後より最高の商品となるべく真綿で包み込まれた箱庭でお過ごしになられておいでのご様子。風雨に当たらぬよう大切に育てられし令嬢がこの事実をご自身の目と耳でお知りになられれば、そのショックは如何様に御座いますかな』
さ、最悪なんてモノじゃない。
ここは無間地獄の果ての果て……なのだろうか。
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