御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki

文字の大きさ
28 / 42

28

しおりを挟む

 ああ俺はこの話を聞いた瞬間愕然と、今俺のいる執務室の床はリドゲート公爵の話と共に消え去れば、その下は階下に存在しているだろう部屋若しくは床等の存在すらもなく、一条の光すらも差し込む事のない闇または無の世界。
 きっと奈落の底と言うものが存在するのであれば今がこの瞬間なのだろ俺は思った。

 また俺の絶望する様がそこまで、何故に公爵を喜ばせているとは俺はまだ真の意味で奈落の底へは至ってはいないのだろう。
 

 
 きっかり一時間後には心底満足そうな面持ちで俺の執務室を後にする公爵。 
 それに引き換え今の俺はきっと苦虫を噛み潰した様な面持ちなのだろうな。
 
 一体俺は何処で道を違えてしまったのだろう。
 そして何故エリザベス、貴女と出逢って八年……あと少しで貴女と幸せに満ちた生活を本来ならばごく普通に送れる筈だったのに何故なのだっっ。

 
『殿下、私は陛下より……いいえ王家として両陛下よりですな。あの狂女殿下を妻として迎える見返りは確かに頂戴致しましたが問題はあの狂女が大人しく我が公爵邸で暮らすかと言えば話はまた別なのです。ええ勿論そこはご両親であられる両陛下より文書と言う形で確約を頂きまた此度の降嫁の件を狂女殿下ご本人からも、まあその辺りは大いにご不満がおありになられるようですが、これも提示させて頂きました提案によって渋々……いえ大変満足の上で合意なされたのですよ』

 最後に公爵と交わした言葉が徐々に俺の脳裏へと、呪いの言葉の様に甦る。



 それを告げた次の瞬間だった。
 公爵は口角を上げれば下卑た笑みをうっそりと湛え俺を見据える。

『キャサリン王女殿下はエセルバート王太子殿下、貴方様との子をご所望なのです。貴方様の子種によって孕ませられる事を条件に我が家への降嫁を受け入れられたのです』

 淡々と話す公爵に反吐が出そうになるのをぐっと腹に力を入れて俺は堪え――――。

『ば、馬鹿も休み休み言え!! 何故俺が妹との間に子を儲けなければならぬのだ!!』

 俺を馬鹿にするのも大概にしろと俺は言いたかったのだが……。

『それこそ何を今更ですな。もう随分と、ええかれこれその妹君であられるキャサリン王女と身体の関係を持って早五年――――ですか。世間的には優秀な王太子殿下は麗しい婚約者殿に隠れて夜な夜な妹君との肉欲に溺れられて……いると世間が知ればどうなりますかな?』
『……脅しには屈せぬ!!』
『いえ、これはお願いいやそれも違いますな。これはある意味貴方の貴方の父君、陛下よりのですよ』
『はあ?』
 
 王命……何だそれは……。

『流石は親子ですな。血の濃い者へと惹かれゆくのはと……いえこれは何でも御座いません。兎に角ですよ。両陛下は少なくとも陛下は貴方方の関係に早くより気づかれておいでのご様子でしたよ。王としての力量は眉唾物ですがこれに関してはかなり敏感でしてね。ですのでまあ計画と致しましては出来得る事ならば数ヶ月後の殿下の御成婚よりも一日でも早くに我が妻となるキャサリン王女との間に子を儲けて頂きたい』
『何を勝手……な!!』
『おや、これでも私は気を遣っているのですよ未来の王太子妃となられるセジウィック公爵令嬢に対して……ですがね。何しろ誕生後より最高の商品となるべく真綿で包み込まれた箱庭でお過ごしになられておいでのご様子。風雨に当たらぬよう大切に育てられし令嬢がこの事実をご自身の目と耳でお知りになられれば、そのショックは如何様に御座いますかな』

 
 さ、最悪なんてモノじゃない。
 ここは無間地獄の果ての果て……なのだろうか。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

処理中です...